パーティー最年長のおっさんことレイヴンは、ダングレストに来るととても生き生きしていた。 それは、故郷といえる程に慣れ親しんだ土地故か、それとも…。 女の人大好き! 「おぉ!?クールビューティーなお姉さまはっけーん!」 『………』 「いいねぇ、あの鋭い目がたまんないわ〜」 『………』 「ななし?眉間にシワが寄ってますよ?」 『うぅ…だってレイヴンさんてば…』 「ほっときなさいよ、いつものことじゃない」 「こんな可愛い女の子に想われているのに、罪なおじさまね」 ななしの片思いの相手、レイヴンは超が付くほど女好きだった。 ダングレストに限らず綺麗な女性が居れば、すぐにデレデレする。明らかにしょんぼりしているななしを見て、エステルが一つの案を出してきた。 「だったらこうしませんか?ななしもカッコイイ男の人にデレデレしちゃうんです!」 『でも、それって効果あるんですか?』 「普段大人しいななしがそうなったら、少なくとも興味は持つと思うけれど?」 「そうです!そしてレイヴンも自分の気持ちに気付き二人は晴れて恋人に…!」 エステルは明後日の方を向いて目をキラキラさせている。 「エステルー?帰ってきなさーい」 『男の人にデレデレ作戦…』 エステル達と話をしている間に、カロルとユーリがギルドの仕事を引き受けてきた。 「今回はハルルにいる人から物探しの依頼だよ!」 「物探しねぇー、やっぱおっさんも居なきゃダメ?」 「普段グータラしてんだから、たまには役に立ちなさいよ」 「ちょ、リタっちひどっ!!おっさん拗ねるよ!」 「別にやることもねぇんだろ?手伝ってくれよ」 「あーい」 というわけで、結局いつものメンバーでハルルまでやって来た。 待ち合わせ場所の木の下まで行くと、一人の長身の男が立っていた。 「あんたが依頼人か?」 「ええ、ジェイドと申します。貴方達が凛々の明星の方ですか?」 常に笑顔で物腰も柔らかくはあるが、眼鏡の奥で光るキレ長の目が印象的な男だ。 「ちぇー、野郎かぁ…」 依頼人からユーリとカロルが事情を聞く。 レイヴンは相手が男だったこともあり、とてもつまらなさそうだ。その隣にさりげなくななしも立っている。ちらりと後ろを見ると、エステルとジュディスがこちらを見て合図を送っていた。 どうやら早くも『男の人にデレデレ大作戦』実行の時がきたらしい。ななしは、小さい声で、しかしレイヴンには聞こえるように呟いた。 『カッコイイ…』 「え」 小さくだがレイヴンが反応した。エステルは後ろでガッツポーズをしている。 『えっと…カ、カッコイイですね、あの人…』 「…ななしちゃんは、あーゆうのが好きなの?」 ななしは驚いた表情のレイヴンの目を一瞬見て、頷いた。 緊張で顔が赤くなっていたななしだが、傍から見ればカッコイイ男性を見て照れている、という風にとれないこともない。 「ななし?どうしたんだ?」 一通り話を聞き終えたユーリがななし達の元へやって来た。 「顔赤いよ?風邪?」 カロルも心配そうに覗き込む。 慌てて大丈夫だと答えようとしたとき、額に触れる冷たい何かを感じ、驚いて顔を上げた。 「ふむ、熱はないようですね。頭痛や寒気などはありませんか?」 その冷たいモノの正体は、依頼人のジェイドの手だった。 熱を測るように、ななしの額に添えられている。 『え!?あ、あの…』 「あぁ、これは失礼。可愛らしい方でしたので思わず」 全く悪びれていない様子で、手を離しながら言う。 「ななし、辛いなら無理すん…」 無理するな、と言い掛けてユーリが固まる。 ななしの後ろで、今まで見たことのないぐらい冷たい表情をしたレイヴンが立っていたからだ。 そして思いっきりジェイドを睨みつけている。 「(おいおい、おっさんキレ過ぎだろ…)」 即座にレイヴンの怒りの理由を悟ったユーリは、心の中で溜息をついた。 一方、ジェイドは先程と変わらずニコニコしながら立っていた。 「体調が優れないんでしたら宿屋で休まれてはいかがですか?なんなら私もご一緒しますよ」 『え?あ…えっと?』 ななしが答えに困っていると、腕を後ろから強い力で引っ張られる。 「青年はお仕事行っといで。おっさんがななしちゃんの看病してるから」 いつもの軽薄さは全く無く、有無を言わせぬ強い言い方だった。 そしてレイヴンは、そのままななしを引っ張って宿屋へ消えてゆく。 「おや、残念ですね」 これまた全く残念そうに聞こえない調子でジェイドが言った。 「…あんた、ワザとだろ…」 「はて?何のことでしょうか?」 ユーリは絶対ワザとだ、と確信しながらも深くは追求しなかった。 その後、カロルに急かされ一行は依頼内容を遂行する為に街を出る。 「思った以上に効果があったみたいね」 「はい!作戦大成功です!」 「にしても、おっさんも大人気ないわねー」 「フフ、上手くことが運ぶといいわね」 [#next]>> index; |