「ゴメンななしちゃん!!」 宿屋の一室に入るなり、レイヴンはななしに土下座をした。 『レ、レイヴンさん!?』 「おっさんとしたことが…!ホントゴメン!!」 レイヴンは自分のしたことを後悔していた。 そして何よりもここまで嫉妬心を剥き出しにする自分自身に驚いていた。 『あの、顔を上げてください。どうしてそんなに謝るんですか?』 「………ヤキモチ」 『え?』 「ななしちゃんが…あの男が好きって言うから…ヤキモチ、やいた…」 言いにくそうにゴニョゴニョ喋りながら、上目遣いでななしの顔を伺うレイヴン。 まるで捨てられた子犬のようにしょんぼりしている。 その様子を見て思わずクスクスと笑ってしまった。 「ななしちゃん?」 『ご、ごめんなさい!レイヴンさんが余りにも可愛くて…』 そう言うと、ななしも床にペタリと座りレイヴンと向き合った。 『あれは、嘘なんです』 「……へ?」 『レイヴンさんがいつも女の人にデレデレするから、その…私も男の人にデレデレしてみたんです』 「え、じゃあ…」 『そしたら、レイヴンさんが振り向いてくれるかもって思って…』 今度はななしが手をモジモジさせながら、レイヴンの顔を上目遣いで見る。 「よ…よかったぁー…」 レイヴンは一気に力が抜けたように息を吐き出した。 「おっさん、ななしちゃんに嫌われるかと思ってビクビクだったわよ」 そう言うと、レイヴンはいきなりバッと両手を広げる。 『?』 「ななしちゃん、おいで?」 『!///』 「ほら、おっさんの胸に飛び込んでおいで」 ニコニコしながら両手を広げるレイヴンの元に、ななしがおずおずと近付く。 そしてゆっくりのレイヴンの背中に腕を回した。 「…捕まえた」 『つ、捕まりました…///』 耳元でレイヴンの低い声が響き、より一層顔を赤くする。 レイヴンはななしの顎に指をかけ、上を向かせた。そして真っ赤になっているななしに顔を近づける。 その時。 ガチャ! 「おやおやー?部屋を間違えてしまったようですね。これは失礼いたしました」 パタン。 『「…………」』 先程の依頼人ジェイドが、まるで計ったかのようなタイミングでドアを開け、そして去っていった。 「ゴメン、ななしちゃん。おっさん用事思い出したわ」 おもむろに弓を手に部屋を出ようとするレイヴン。 『わわわ、レイヴンさんストップー!目がシュヴァーンさんのとき以上に怖いですー!!』 ななしはレイヴンの袖を引っ張って必死に止める。 「ななしちゃん」 『ふぇ?』 「スキありv」 ちゅっ、という音と共に唇に柔らかい感触が触れた。 『!?///』 「ごちそうさま〜」 目の前には、してやったりという表情のレイヴンが居た。 「真っ赤になっちゃって、可愛いんだから〜」 『からかわないでくださいー!///』 不意打ちされたななしは、ぽかぽかとレイヴンを叩いた。 レイヴンは、それをニコニコしながら受け止める。 こんな調子で、二人はユーリ達が帰ってくるまで宿屋で甘い甘い時間を過ごした。 「今回の仕事もバッチリだったね!」 「おー、お疲れさん」 レイヴンとななしが宿屋の外に出ると、ちょうど依頼人に品を渡してきたユーリ達が集まっていた。 「レイヴン!ななしは大丈夫なのか?」 「ん?大丈夫よね〜?ななしちゃん」 『えっ、は、はいっ!』 慌てて答えるななしを見て、レイヴンは笑いをこらえる。 「でも依頼してきた男の人、ちょっと不思議な人だったね」 「そうね。一般人でないことは確かだわ」 「どういうことです?」 「立ち振る舞いが素人らしくなかったもの」 「ふーん、あたしには胡散臭い変な奴にしか見えなかったけど」 話題が依頼人のことになると、レイヴンは途端にムスっとした表情になった。 きっと先程のことを思い出しているのだろう。 ななしはそれが少し可笑しくて、皆から見えないところでレイヴンの手を握った。 すると、レイヴンは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔に戻った。 この一件以来、レイヴンが他の女性を見て鼻の下を伸ばすことは少なくなったが、男の性には逆らえない時もあるらしい。 その度にななしに謝るレイヴンが目撃されたとか。 END 「そういやあのジェイドって奴、おっさんと同い年らしいぜ」 「…ますますいけ好かないわ」 『(同じ35歳でもあんなに違うんだ…)』 「むー、ななしちゃん。今頭の中で比べたでしょー。ふーんだ、どうせおっさんはダメな大人だもんねー!」 「そういうとこがダメなんじゃねーのか…?」 ----------------------- あとがき 何故ジェイドが…と聞かれましても私にもわかりません。 <<[prev*] index; |