新入生歓迎会




昨日は家に帰ってから書類を眺めていた。
中に書いてある書類によると新入生は新歓から一週間以内に部活動を決めなければならないらしい。
私も多分新入生と同じような扱いになるんだと思う。



帝光中学校は必ず、全員なにかの部活動に入ることが決められている。
運動はしたくないから運動部ははずす。でも、どうせするなら強い部活動がいい。マネージャーにはなりにくい。ということは文化部で強いという美術部と合唱部に絞られる。

そしてここで問題が発生する。
自分で言うのもなんだが私は歌も下手なら絵も下手だ。芸術というものが良く分からない類の人間だ。



「さて、困った」



赤司君は私をバスケ部のマネージャーに誘ってくれたが、バスケ部だけは入るつもりがない。野球部かサッカー部のマネージャーが一番手っ取り早い気がする。
そこで私は自分の席の斜め前の坊主を思い出す。
明日その人に聞いてみよう。野球部のマネージャーになりたいと。




そう決めた昨日
学校にいる今日
昨日埋まっていた坊主の席は現在空白である。
ちなみに私の斜め前だけではない。クラスにいたはずの坊主全員が消えていた。



「おはよう、白川さん」
「おはよう」



赤司君は隣に座るとき私に挨拶をしてくれた



「葉月ちゃん、赤司おはよー」



弥生ちゃんの挨拶に私と赤司君は同時に返し、言葉かぶったことが面白く二人で笑った。
昨日と同じように赤司君の笑顔は綺麗だった。



「今日、野球部の人たちはいないの?」
「ああ、それかい?」
「新歓の準備だよー」
「新歓に準備がいるの?」
「今年度、最初の行事だからねー」
「二人は出ないの?」
「私は出ないけど、多分赤司は出るんじゃない?」
「そうだね、バスケ部は毎年二年がすることになっているから」
「そうなんだー……楽しみにしてるね」
「白川さんに楽しみにしてもらえるほどのものかは分からないけど」



赤司君はそういって笑った。
赤司君は綺麗に笑う人だと思う。いろんな笑い方を見たが、どの笑い方も綺麗だった。綺麗なのは笑い方だけじゃなく、髪も綺麗だ。
綺麗……というか上品なのかもしれない。ああ、そうだ、その言葉だ。赤司君の雰囲気は上品なのだ。
一つ一つの動作も容姿も上品で、だから綺麗なのだ。



先生が教室に入ってきて、私達は昨日と同じように廊下に列を作って体育館へ向かった。
弥生ちゃんのオススメは野球部らしい。さっきそう弥生ちゃんが言ったとき赤司君が「バスケ部もだろ?」と言っていた。そのときの笑い方もまた違った笑い方だが、綺麗だった。冗談を含んでいるとても中学生らしい笑い方だった。



私も部活動を決めるのに大事になるからしっかりと聞こう。







この歓迎会では、各部五分間で自分の部活動のPRをするらしい。部活動に所属する人数によって学校から支給される部費の値段が変わるらしく、どの部活動も試行錯誤しているらしい。
PRの五分間は体育館全体を好きに使ってもいいという。



最初は文化部からだった。
吹奏楽部はトランペットやトロンボーンなどの持ち運びのしやすい楽器で演奏をしていた。生徒の中に顧問の先生も混じっているように見えた。

美術部は絵を持ってきていたのだが、私達二年生の席からは遠くて細かくは見えなかった。



新歓は一年生のために行われているから一年生が前に並んでいる。大体の部活動はステージ上を使うからだ。一年生の後ろに三年二年と続く。
三年生が二年生よりも前なのは面白いものを少しでも前から見たいからなんだと思う。



合唱部は歌を歌っていた。10人くらいの人数だったのに体育館の端まで声が届いていてすごいなと思った。

将棋部や囲碁部などの文化部はさすがにうまくアピールをするものがなく、自分達の今までの成績を話すことになっていた。



休憩を十分挟んで運動部の番になった。
まず最初はボート部だった。艇庫からボートを持ってきたらしい。それはとても大きく、今までボートというものを見たことがないから少し感動した。

バレー部の人たちは多分サクラだと思う一年生を壇上に上げ一緒にボールで円陣パスをしていた。

陸上部の番になった。
陸上部はハードルを立て、男の人がそれを飛び越えていた。



「ボール競技が苦手、チームプレイとができないという人はぜひ陸上部へ!」



それからもいろいろな部活を見たがこれといってぱっとしているものはなかった。







すると突然、アナウンスをしている放送部員の声量が変わった




「さてさて、皆さんお待たせしましたーココまでは前座でございます」



放送部員のそのアナウンスにすかさず何人かの生徒が「前座って言うなー」と言い体育館中が笑いに包まれた。



「まずは野球部の皆さんに出てきていただきましょうー」



司会の言葉が終わるか終わらないかくらいで、髪の毛が生え、スカートをはいた野球部員達が出てきた。髪の毛が生え、というか鬘をかぶっていた。鬘にも種類があり、黒や茶色、短かったり長かったりした。
スカートから見える足はお世辞にも綺麗とは言えなかった。野球部の外での練習でやけたごつい足を見て誰が喜ぶか

でもその奇妙な格好に生徒と一緒に先生も笑っていた。多分毎年伝統的に行われていることなのだろう。



野球部員達はマイクを持っておらず、何が始まるかと思ったら曲がかかった。
最近流行っているアイドルグループの曲だ
その音楽にあわせて完全コピーしたダンスを野球部員達は披露していた



「どうもー野球部でーす」



聞こえた声は本来彼が出す声とは違う音。無理が、あると思う。
中学生は声変わりをしている人としていない人がいるが、マイクを持っている人は完全に声変わりしているようだった。その状態でわざと声を高くしているので、何度か裏返ったりしていた。



「きっとー、野球部って言ったら坊主ってイメージがあると思うんですよー。でも、私達、ちゃんと髪生えてます」
「だから、野球部入ったら坊主にしなきゃとかないんでー、ぜひ野球部に来てくださーい」



裏返った声も、言っていることも面白かった。鬘を触りながら髪生えてますとは……。



「野球部に入ると可愛いマネージャーがいます。だから、練習のたるいサッカー部でも、恐いバスケ部でもなく、ぜひ野球部に来てください」



最後にそう言って女装集団はステージからはけていった。
あれで新入生を勧誘できたのかは知らないが、皆、笑っていたからあれでいいんだと思う。






「野球部の皆さんありがとうございました。次はサッカー部です。」



次がサッカー部ということは、バスケ部は一番最後か……。



「どうも、サッカー部でーす」



サッカー部はサッカーボールを持って五人現れた。はっきりと見えないが、雰囲気的に五人ともかっこいい人だと思う。



「さっき野球部の人たちが坊主にしなくていいとか言っていたけど、アイツら全員坊主だから、あれ嘘だよ。気をつけてね」



一言目から野球部の否定をしだしたところで笑いが生まれた。先ほどの野球部もだが、部活間通しは仲が悪いのかな。



「野球部に入ると髪の毛がなくて女の子にもてないけど、その点サッカー部は大丈夫」
「彼女を持っている男子率がこの学校で一番多いのはこのサッカー部だ!」
「もてたいという男子はぜひサッカー部においで!」
「もちろん、部活自体は厳しいが、乗り切るからこそもてるのだ!」
「それにサッカーは11人でやるスポーツだからバスケなんかよりスタメンになる確率が高いぞ!」



野球部の次はバスケ部の否定を始めた
その後、五人は一斉にリフティングを始めた。
あの五人は顔がかっこいいだけではなく、サッカー自体もうまいんだと思う。リフティングを落とすことはなかった。
サッカーはあまり知らない競技だけどなんとなくそう思った。



「というわけで、最後にあれやりまーす」



そういってサッカー部の人たちは自分が持ってきたボールを手に取った



「ボールは友達!」



……昔にやっていたサッカー漫画の代名詞とも言える言葉を言いサッカー部員達は、はけていった。





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