森山中編 | ナノ

本当の気持ち

「明日、小堀先輩とミョウジ先輩デートっスよ。ちなみに場所と待ち合わせの時間聞いたんで」


黄瀬からそんなメールが来て、ご丁寧に明日の予定もすべて書かれてあった。なんでこんなことを黄瀬が俺にしてくるのかはわからなかった。


「そんなこと言われたところでどうしろと」
「ちなみに俺明日休みなんッスよ。森山先輩一緒に買い物行きません?」


俺の話を聞く気があるのかはわからないが、黄瀬は明日俺と買い物に行きたいらしい。せっかくの休日を部活の後輩とすごすのもどうかと思ったが、特に予定がない俺には断ることもできなかった。


「別にいいが、どこに行くつもりだ」


返事に書いてあった場所は明日小堀とナマエがデートで行く場所だった。どうやら黄瀬の目的は俺と買い物に行くことではなく、小堀とナマエの尾行みたいだった。まあ、俺も気にならないわけではないから別に構わないけど。あの小堀とあのナマエが付き合うとは思わなかったからな。最近はよく一緒にいたからまさかとは思っていたけど、付き合うことになるなんてな。
正確に分析している自分とは別の自分が心の中にいた気がしたが、気づかないふりをした。今更そんなことに気づいたところで全部が遅すぎるんだ。気づかないままでいよう。













「尾行って人としてどうかと思うぞ、黄瀬」
「そういいながらも、来たんスよね?先輩。だったら共犯ッスよ!」


ナマエと小堀の待ち合わせ場所がよく見えるところで俺と黄瀬は待ち合わせをした。二人の待ち合わせ時間よりも大分早く来たからか、二人の姿はまだなかった。


「俺、小堀先輩のことは嫌いじゃないんスけど、この件に関してはあんまり応援できてないっていうか」
「なんだ?黄瀬は小堀とナマエが付き合ているのがそんなに嫌なのか?」
「逆に聞きますけど、森山先輩は嫌じゃないんスか?」
「別に、俺の友達と幼馴染が付き合っていることに文句を言ったりはしないさ」


まったく、なんて黄瀬は言った。それがどういう意味なのかというのも少し考えれば分かったのかもしれないが考えることはやめた。黄瀬の質問に答えるときにひとつの間もなく答えられたから、俺の気持ちはそういうことだと思うんだ。


「あ、ミョウジ先輩きましたよ」


待ち合わせ場所に先についたのはナマエだった。いつもと違う雰囲気にドキッとしたが、それくらいは許してほしい。今まで俺が見たことのある姿は制服だけで。たまに近所で私服を見る機会もあったがそういう時は大体パンツスタイルの奴だった。しかし、今日の服は白を基調としたコーディネートとなっており、普段とがらりと雰囲気が違った。白いワンピースなんて着るキャラじゃないと勝手に思っていたが、あれは勝負服というやつなのだろうか。


「なんつーか。馬子にも衣裳ってこういうこというんだな」
「かわいいっスね先輩」


ナマエが来てすぐ後に小堀も待ち合わせ場所につき、二人は待ち合わせ時間よりも早い時間にその場を後にした。
















「なんていうか、テンプレートのデートって感じスね」


ナマエと小堀は、二人で洋服を見たり、アクセサリーを見ながらウインドウショッピングを楽しんでいた。昼時になると、少しおしゃれなカフェに入り食事を始めた。黄瀬は普通のデートで面白みがないと言うが、デートをしたことがない俺にはあまりわからない話だった。


「まあ、初デートだし、こんなもんなんじゃねえのか?」
「それは、そうっスけど。二人とも手も繋がないし」
「ふーん」


そういえば、二人の距離はあまり近いように思わなかった。お互いに何かを見て、笑いあったりすることはあるけれど、それは友達同士のそれで、付き合っているという感じではなかった。まあ、最近まではただの友達だったんだからそんなもんか。と思いつつ、これなら俺とナマエのほうがよっぽど距離が近いんじゃないかとも思った。


「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「了解ッス。くれぐれも二人にはばれないようにしてくださいよ!」
「んなへまはしねえよ」


と、黄瀬には言ったがトイレで待ち受けていたのは小堀だった。


「黄瀬と尾行?」
「いや、そういうわけじゃ」
「別にいいけど、二人に見られてることミョウジは知らないんだから、かわいそうでしょ」
「わかってるよ。こっからは二人で楽しめって。俺は黄瀬連れて帰るから」
「うん、そうしてくれ」


小堀はどうやら俺たちが尾行していたことに随分と前から気づいているようだった。


「お前さ、ナマエのどこが好きなんだ?」


改めて聞きたいことをとりあえず聞いてみた。小堀がナマエを好きだと想像もつかなかった俺には考え付かないことだった。


「森山には内緒。ミョウジの魅力的なところは俺だけが知っていたい」


なんの変哲もないことを聞いたつもりだった俺には想定外の返事が返ってきた。魅力的な部分を俺には知られたくないということか。というかあいつの魅力的な部分なんて想像もつきやしないが。というか小堀はどうにもオレに反抗的な態度を取る。何か怒らせるようなことを俺はしたというのか。


「じゃあな、デート楽しめよ」


俺は小堀を置いて先にトイレを後にした。


「森山?」
「ナマエ」


トイレから出ると、ナマエと鉢合わせた。それもそうか。小堀がトイレにいるんだからナマエも近くにいるよな。


「なんでこんなとこに森山がいるの?」
「あー、黄瀬と買い物に来たんだ。さっき小堀とトイレであった。デート楽しめよ」
「え、あ、うん。ありがとう」
「それとその服いつもと違ってかわいくていいんじゃねえの?小堀の好みか?」
「え」
「ん?」
「あ、いや、なんでもないよ。うん。人生初デートだからめかしこんだんだ。変じゃなくてよかったよ」


素直にナマエに感想を伝えると心底驚いたという顔をした。一瞬そんな顔をしたが、そのあとは普通だった。小堀にも悪いので、俺はすぐにその場を離れた。黄瀬の元に戻ると何ばれてるんスかと怒られた。ばれたことだから、この辺でお開きにしようということになり、俺たちは、ショッピングモールをあとにした。















「まさか森山がこんなとこにいるとは思わなかった」
「黄瀬と買い物って言ってたね」


小堀と初デートに来た。デートってどんな感じなんだろうね。と二人で話しながら模索中である。お互いに、初デートだ。本当は手をつないで歩くのが普通なのか?と小堀に聞くと、俺たちのペースでいこうと言われた。普段は着ない服で大層めかしこんだ服を小堀は気に行ったようだった。とてもかわいくてびっくりしたと会うなり言ってきた。うれしくて、小堀のためにおしゃれしてきて本当に良かったと思ったところだった。その後に、あの森山にかわいいといわれたもんだ。まあ、かわいいと言われたのは、洋服のことではあったが。今までに一度も森山にかわいいといわれたことのない私は、大変動揺した。その動揺が、森山に伝わったかはわからないが。


「森山に何か言われたでしょ」
「え」
「顔見たらわかるよ」


小堀にはどうも私の思考回路とかいろいろなことが筒抜けのようだ。なんて返事しようか迷った。


「ごめん、いじわるだったね」
「ううん、大丈夫。私のほうこそごめん」
「大丈夫、俺たちのペースで、いろいろ進めていこう、ね?」
「うん、ありがとう、小堀」


小堀は私に無理強いなどはしない。私のペースに合わせてくれる。多分私が待ってといったらいつまでも待ってくれるんだと思う。でも、そういうわけにはいかない。私だって小堀のこと少しでもいいと思ったんだ。森山のことはすぐにでも忘れて、ちゃんと小堀と向き合おう。そう決めた一日だった。



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