「ねーHAYATO」
スタジオを出て私がHAYATOに話し掛けると一瞬とても嫌そうな顔をした
「なにかにゃー」
「このあと一緒にいく?」
「なんのことかにゃー?」
「いや、言わないなら別にいいけど。てか、素と全然違うんだね」
「天音ちゃーん」
「ん?」
「僕はHAYATOだからねー」
「……ん。分かった。」
僕はHAYATOだからって言うHAYATOの目を見たら、私はもう何も言うことはできなかった。
HAYATOが早乙女学園に一ノ瀬トキヤとして通っている理由は私みたいな軽いものじゃなくて、もっと別のしっかりとした理由があるとということだ。
今まで私がHAYATOの素を知らなかったのも彼がどこにいてもあのキャラだからだ。彼が"HAYATO"ではないところを見たことがある人はきっといないんだろう。それだけしっかりと作りこまれたアイドルなんだ。
その後私は着替えて、早乙女学園に戻った。
少し外の空気を吸うために、学園内を回っていると、春歌ちゃんと聖川くんが二人で話していた。そして、それを少し離れたところから神宮寺くんが見ていた。
「神宮寺くん、」
何を話しかけているんだ、私は。話しかけてどうすればいいんだ。
ただ、二人を見ている神宮寺くんが辛そうだったから、それだけで。
「なんだ、おチビちゃんか」
「おチビじゃない」
「何か用かい?」
「いや、別に……」
じゃあ、話しかけんなよ、私!
「おチビちゃんはこの学園が、音楽に触れることが好きかい?」
辛そうな、いつもとは違う顔をした神宮寺くんが言った。
「学園については、まあ楽しいとは思う。いろんなやついるし。
音楽は、大好きだ。
多分俺ってものを示すものは音楽しかねぇし、この先、音楽以上に夢中になれるもなはねぇと思う」
「……そうかい、君はまっすぐだね」
「多分、お前も音楽好きだと思うぞ」
「どうして?」
「お前のサックス吹いてるとこ何回か見たことあるけど、すげーよかったし、すげー好きだった。
あれは、好きじゃなかったらできねぇことだと思う。」
神宮寺くんは少し複雑そうな顔をして「ありがとう」と言った。
「それじゃあ、俺は先に行くよ。ばいばい、おチビちゃん」
「おう」
□□□
俺が音楽を好き、か。
嫌いではなかった、と、思う。でも今は分からない。
だから、心底楽しそうにしている聖川が眩しく、一生懸命音楽と向き合っているおチビちゃん達が羨ましいんだ。
「俺もバカだな。」
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