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マダラの家から千手家へ移動した扉間とアリスは取り敢えず客室へ向かった。生憎ミトは不在らしい。途中、歩く振動が体に響くと訴えたアリスにより扉間が必要以上に慎重に運ぶようになったのは女性の扱いになれていないからだろうか。
そうして部屋についたら敷いてあった布団にアリスを寝かせて二人そろって息を吐く。

「あー、大丈夫か」
「・・・えぇ」
「・・・すまなかった」

色々と動かしたせいで辛そうな表情をしているアリスに扉間は小さく頭を下げる。しょうがなかったとはいえ此処まで憔悴されるとなんだか罪悪感が湧いてきたのだ。
「少し待っていろ」と告げてお茶を入れて来ればアリスの手が彷徨うように差し出された。

「アリス、目の調子が悪いのか?」

そういえばマダラに何かされていたな、などと考えながら問うと小さく頭を振って否定される。

「調子が悪いと言うより機能していないのよ。マダラに術を施されてしまって」
「全くあの男は・・・。何の術か分かるか」
「いえ、わたくしは見たことがなかったわね。印は・・・卯、巳、申、丑、未、丑、と・・・なんだったかしら。最後は辰と子だったわ。対象の機能を奪う術だと言ってた」
「──あぁ、たぶんあれだな・・・」
「目と足なのだけれど、解けるかしら」
「当たり前だ。なんせあの術を開発したのは俺だからな」
「・・・は?」

とんでもないカミングアウトにアリスが気の抜けた声を零す。見えはしないが気まずげな顔をしているであろう友人にどういうことだと丸い目を向けた。
扉間によると例の術は敵を捕らえた時に抵抗の術を奪い、扱いやすくするために開発したのだとか。
よもやこのようなことに使われるとは、とため息を吐く扉間にアリスは苦笑いを零す。

「マダラも昔は純粋だったのだけれどね・・・いつの間にかあぁなってしまって・・・」
「うちは一族は厄介な性質を持っているからな。特にマダラは飛び抜けて危険だ」
「だからといって一方的に悪いものだと決めつけるのは良くないわ。それにあのマダラを作り出す一端を担った柱間も柱間よ。元凶の元凶といったとこ、ろ・・・、」
「どうした」

急に言葉を切らしたアリスに扉間が疑問符を浮かべる。暫く考えたアリスは難しい顔で「思ったのだけれど」と切り出した。

「マダラがうちはの性質に目覚めたのって弟のイズナが亡くなったときよね?そのイズナを殺したのって・・・」
「・・・俺だな」
「そしてイズナへ向けていた分の愛情とうちはの性質が一気にわたくしのところに伸し掛かったわけだから・・・、・・・扉間、貴方柱間以上の元凶の元凶よ」

ジト目で扉間のいる方を見るアリスに元凶の元凶は気まずそうに顔をそらす。あながち間違っていないから何とも言えなかった。

「まぁ、それは・・・すまない」
「別に怒ってないわ。戦争なんてそういうものでしょう。それより術を解いていただけて?」

フッと笑ったアリスは扉間にそう告げる。返事を返して頷いた扉間はいくつか印を組んで目と足にその手を当てた。

「──ありがとう。あぁ、随分と眩しく感じるわね」

深く息を吐いて目を瞬かせるアリス。襖を通して部屋に降り注ぐ太陽光がこれほど明るいと感じたことはない。

「体の方は大丈夫か。疲れているなら夕食まで休むといい」
「いいえ・・・最近はマダラ以外の人と話していなかったから、扉間と会話をしていた方が楽しいわ」
「使用人にも会ってなかったのか。本当にうちは一族は・・・」
「フフ、前から思っていたのだけれど、扉間とわたくしってとても気が合うのかもしれないわね」
「は、急に何言って「待てアリス早まるな!!」兄者、帰ってきたのか」

先程同様襖を勢いよく開けた柱間が慌てた様子で駆け寄ってくる。そして何事かと驚くアリスの肩を掴んで揺さぶり始めた。

「お前と似合いなのはマダラだ!目を覚ませアリス!いくら助けに来た扉間が白馬の王子に見えても所詮は禁術ばかり生み出すマッドサイエンティストぞ!」
「はしっ、まっ・・・か、身体、痛い・・・、」
「おい兄者やめろ!」

後ろから羽交い絞めにして漸く止まった柱間にアリスは安堵のため息を吐く。乱れた掛布団を直して落ち着いたところで扉間から「すまない」と謝罪があった。全く、良く出来た弟だ。

「それで?兄者は何をそんなに慌てていたんだ」
「ぐ、ぐるしい・・・首、締まって、」

さり気無く首に腕を回して締め上げながら問う扉間に床を叩いてギブアップを主張する柱間。その腕から逃れて息を整えたところで漸く話が再開された。

「アリスが扉間と気が合うなどというから、つい取り乱してしまった」
「あぁ、なるほど・・・。心配しなくても色恋沙汰の意味ではないわ。ただ里の運営にあたって、考え方が似ていると思っただけよ」
「なんだそういう事か。確かに二人ともリアリストなところがあるからな」

ホッと息を吐く柱間と扉間。マダラの耳に入ったら面倒になるところだった。緊張が解けた中、アリスが「そういえば」と話を切り出す。

「二人とも丁度いいタイミングだったわね。まさか家に乗り込んでくるとは思わなかったわ」
「扉間の提案でな。マダラの目の前でお前を攫おうとわざわざ仕事が休みの時を選んだんだ」
「お蔭であのいけ好かない男に一泡吹かせることが出来た」
「扉間ったら・・・」

その時のマダラの焦りようを思い出しているのか悪い顔をしている扉間にアリスは呆れた視線を向ける。仲良くしろとまでは言わないからせめて反発し合わないでほしい。

「それで兄者、マダラはどうなったんだ」
「ん?あぁ、アリスを連れて行かれたショックで隙が出来たところをポカリとな。木遁で動きを封じて布団に寝かせておいた。あとは使用人に任せてあるから問題ないだろう」
「結局今回も迷惑をかけてしまったわね」
「これくらい気にしなくていいぞ!」
「お前は被害者だからな」

二人に礼を言ったアリスは、今後のマダラに「面倒なことになりませんように」と遠い目で祈った。


──が、まぁそんなことは当然叶わないわけで、夕方になった頃マダラが千手家へ乗り込んできた。

「柱間ァ!扉間ァ!アリスを返しやがれえぇぇ!!」

須佐能乎を身に纏い中庭の壁をぶち破って入ってきたマダラに、布団の中から庭の様子を眺めていたアリスは眩暈を起こす。
何やらかしてくれるんだあの男は。
落ち着かせるように目を閉じて息を吐いて。そうして再び彼を視界に入れた時、そこには千手兄弟が増えていた。

「マダラ、入ってくるなら玄関から入ってくれ」
「そういう問題じゃないだろう兄者」
「無駄話は良い!さっさとアリスを返しやがれ!」

今にも暴れ出しそうなマダラに柱間と扉間が表情を引き締める。

「アリスは今部屋で休んでいる。暫くは安静にしなければならない」
「安静にするくらいなら俺のところでも出来る」
「お前が構い倒すせいで休むどころではないだろう」

ピリピリとした雰囲気にアリスは息を吐いた。このまま戦いが始まってみろ。里に被害が出ることは間違いなしだ。何より自分が逃げられない。そしてちゃんと体を休めたい。
そう思って相手に届く程度の声で「マダラ」と呼びかけた。途端、マダラが勢いよく此方を向く。

「アリス・・・!そんなところにいたのか!」
「あ、おい待てマダラ!」

駆け寄ってくるマダラを更に追いかける二人。アリスはマダラが縁側に足を掛けたところで「止まりなさい」と指示を出したが、当然マダラが止まるはずもなく布団の隣まできて抱き寄せられる。

「無事だったか!?あの白髪陰険童貞男に何もされなかったか!」
「それは俺のことか、粘着万年片思い男」
「マダラ、身体痛いから・・・」
「あぁ、すまない」

マダラはアリスを布団に戻してその頬を愛おしげに撫でる。土足で入られた家の中に、あとで掃除を頼まなければと思いながら柱間と扉間は靴を脱いで部屋に上がった。

「さぁアリス、こんな所にいないで今すぐ家に帰るぞ」
「嫌よ。暫くは此処にいるわ」
「何を言っているんだ」
「だって貴方と一緒にいると疲れるんだもの。今回ばかりは休みたいのよ」
「休むなら俺のところでも、」
「嫌ったら嫌」
「だが「鬱陶しいわよ、マダラ」アリス・・・!」
「貴方のお蔭で光を失うし人とは会えないし外にも出られないし、生きている心地がしないの」
「お、俺はお前のために・・・お前を好いているから・・・」
「この際だからはっきり言ってあげるわ。今だけは貴方のいない日常で、記憶からも抹消して平和に過ごしたいと思ってる」
「──っ、」

「あー・・・好いた女からあの言葉は辛いな」
「灰になりそうだぞ、あの男」

人生の主軸となっているアリスからの辛辣な言葉に今にも崩れ落ちそうになっているマダラ。止めに「さっさと帰って」と言われて、心ここに有らずといった様子でフラフラと己が壊した中庭の壁から出ていった。

「アリス、あれはちと言い過ぎではないか?」
「仕方ないじゃない。あれくらい言わなきゃ効かないんだもの」

困った表情で言うアリス。別にマダラが嫌いになったわけではないが少し休憩したい。それにもし強気に出なかった場合──

「もう少しだけ此処にいたいと思っているのだけれど・・・」「馬鹿言うな、白髪童貞男に食われる前にさっさと帰るぞ」
 →お持ち帰り

「身体が痛いからこれ以上動きたくなくて」「ならば俺もここに泊まろう」
 →今までと変わらない生活

「貴方の気持ちは嬉しいわ。でも「可愛らしいことを言ってくれるな。今度は優しく抱いてやろう」」
 →ベッドイン

・・・なんだ最後のベッドインって。碌な落ちがない。
つまり心臓に杭を打ち込むつもりで突き放してやらないと此方が伝えたいことは全て撥ね退けられてしまうのである。

「まぁあの様子だと日常生活に支障をきたしそうだから・・・柱間、伝言を頼めるかしら」
「伝言?構わんが・・・」
「“今でもあの時の気持ちは変わってないから、また今度、昔みたいに散歩したりお茶したりしましょう”と、そう伝えてほしいわ」
「おう!すぐに行ってこよう!」

嬉しそうに一つ頷いた柱間がそこから消える。扉間も安堵の表情を浮かべていた。

「とうとう愛想をつかせたと思ったが、そうではなくて安心した。というより本当にマダラのことを好いていたんだな」
「えぇ、これでもね。でもまぁだからといって結ばれるわけでもないから」

息を一つ吐いて目を瞑る。少し疲れたのかもしれないと、扉間は隣の部屋に布団とアリスを移動させて休むように言った。



転がる心
(繋がるか、割れるか)

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