押して駄目なら押し倒せ | ナノ


服、簪、靴、首飾り、腕輪、櫛、髪留め、化粧品、宝石、書籍、玉露、菓子、花、香水、忍具──

ずらりと並んだ文字をマダラは眉を寄せながら睨んでいた。言わずもがな、アリスへの贈り物だ。柱間が聞き逃したせいで分からずじまいだったためにこうして戦略並に頭を使って考えている。

「化粧品はないな。あいつは化粧をしない。香水も忍に贈るのはやめた方がいいか。簪と髪留め・・・あいつが髪を結ったところは見たことがない。が、あれば困らないか?忍具もこの状況で送るのはな・・・」

頭を抱えてリストと睨めっこすること約二時間。結局まとまらずマダラは大きく息をついた。そこへ丁度使用人がお茶を持って襖の向こうに姿を現す。

「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
「入れ」

許可をもらった使用人が部屋に入って机に湯呑を置く。何やら集中している様子の頭領に、邪魔になってはいけないとすぐに下がろうと盆を持って立ち上がった。が、「おい」と声をかけられて再び膝を折る。

「女というのは何をもらったら嬉しいんだ」
「は、・・・あぁ、アリス様への贈り物でございますか?噂は存じております」
「少し怒らせただけだ。侘びの品を贈ろうと思ったのだが何が欲しいか分からん」
「申し訳ありませんが私もアリス様の所望するものは存じ上げませんで・・・。実際に店へ足を運んではいかがでしょうか。時期によって商品の質も変わってくるでしょうし、実物をご覧になった方が似合うものとそうでないものの判断がつくでしょう」
「・・・それもそうだな」

使用人の言葉にマダラは少し考えた後お茶を一口飲んで立ち上がる。少し出てくると言って部屋を出ていったマダラに頭を下げた使用人は、湯呑を盆に載せて自分も部屋を後にした。

──────────

屋敷を出たマダラは商店街に並ぶ店を物色して回っていた。
あれもいい、これもあいつに似合いそうだ。あぁ、この簪も良いかもしれんな。

「これはこれはマダラ様。珍しいことで。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「アリスに贈りたい。良いものはあるか」
「お品のご要望と予算の方は」
「問わん」
「かしこまりました。こちらへ」

案内された先で説明を受けるマダラはアリスに似合いそうな品をどんどん購入していく。簪に始まり、髪飾り、草履、和傘──果てには振袖も一式そろえてようやく会計。一般人から見たら「あれ?桁間違ってね?」という額をポンと払うと購入品を巻物に収納して機嫌よく店を出ていった。

「ふむ、あいつに合うと思ってあれだけ買ってしまったが、やはり柱間が言うように花や菓子も用意した方がいいだろうか」

贈り物としては定番なそれらだが、マダラとしてはあまり気が進まなかった。なぜなら花や菓子は消耗品だからだ。枯れたら捨てるしかない花や食べて終わりな菓子より、出来れば一生残るものを贈りたい。
いや、茶葉と菓子を贈って一緒にお茶をするのも悪くないか。
そういえば果物も好きだと言っていたな。

「・・・この際全部買っていくか」

選ぶことに時間をかけるよりアリスに早く会いたい。
そんな心情が勝った彼は女性が欲しがりそうなものを片っ端から買うとその全てを巻物に収納してアリスの家へと足を向けた。

──────────

「──で、なんなのこの品物の数々は」

アリスの家に入ったマダラはリビングのテーブルに買ってきた品々を広げていた。勿論納まりきらないためにイスや床にまで広がっている。肝心の彼女は目を丸くしてそれらを見渡して上記の言葉をマダラに投げかけた。

「全てお前への贈り物だ。この前は済まなかったな。反省している」

そう言いながら土下座──ではなく、アリスの後ろに回って首と腹に腕を回すマダラ。聞いていた落ち込み具合なんて一欠けらもない。やはり柱間と手を組んでいたかとアリスは眉を顰めて小さく息を吐いた。

「いらないわ」
「・・・アリス、」
「機嫌取りに物を寄越してもらっても嬉しくないの。勘違いしないでちょうだい。確かに柱間にあまり怒っているわけではないと言ったけれど、あくまで“あまり”よ。拒んでもなお事を押し進めようとする貴方の行為は感心できないわ。あれだけ言ってようやく反省したかと思ったらそうでもないみたいね。
マダラ、わたくしが本当に愛想を尽かす前にきちんと反省していらっしゃい」
「待ってくれ俺は本当に、」
「去(イ)ねと言っているのが分からないの」

振り返らずに言った言葉は存外冷たくて。唇を噛み締めたマダラは腕を解いてアリスから離れた。

「・・・持ってきたものだけは受け取ってくれ」

それにアリスが返事をする前に、マダラは姿を消していた。

──────────

後日、医療忍者の育成に来たアリスは生徒からの呼びかけに振り向いた。

「最近マダラ様と一緒にいるところを見ないのですが、まだ喧嘩中なんですか?」
「えぇ、まぁ。一度謝りに来たのだけど追い返しちゃったわ」
「ええー!なんでまた」
「勿体ないですよアリス様」
「いつになったら許してあげるんですか?」

眉を下げたアリスに生徒達の疑問が飛び交う。一番の疑問は、容姿端麗百戦錬磨地位も金も権力もあり噂では両想いという男にさんざん攻められてどうしてその手を取らないのか、ということだ。その疑問にはすでに解説付きで答えが出ているのだが、どうしても納得いかないというのが生徒達の言い分である。

「仕方ないでしょう。気もないのにそれらしいそぶりを見せる方が酷だわ。これくらいしないと分かってくれないんだもの」
「・・・でもアリス様もマダラ様のことが好きなんですよね?それに、流石に謝りに来たのを追い返すのは・・・」
「前も話した通りわたくしやマダラには利用価値があるわ。使い方次第では里に大きな利益をもたらすことが出来る。マダラにはうちはの頭領でいてもらわないと困るのよ。今回の喧嘩はそれを考えるいい機会だわ。・・・まぁ半分くらいわたくしが意地になっている気がしないでもないけれど」

苦笑い気味に最後の言葉を紡ぐ。何だかんだ続いてきたこの攻防に負けるのが気に食わなかった。今のところfifty-fifty・・・いや、戦いに負けて監禁されたし一度だけ最後までいってしまったことがあったから、うーんでも自分も結構ナニを蹴ったり入れる直前でお預けという男にとってはキツイらしい仕打ちをやってきたし・・・やはりfifty-fiftyということにしておこう。

「あの、アリス様。もしアリス様とマダラ様がそういう立場ではなかったら、アリス様はマダラ様の求婚を受け入れていましたか?」
「・・・そうね、もしわたくしとマダラがそういう立場ではなかったら、

 わたくしはマダラに会うことすらなかったと思うわ」

アリスは窓から空を眺めてそう言った。

──────────

何故だ、何故手に入らない。
女が好みそうな物は全て一級品を贈ってやった。
自分なりに反省して、謝ったつもりだ。

「アリス・・・」

どうして俺を突き放した。何が足りなかったんだ。
長年抱いてきたこの想いを断ち切れとでも言いたいのか。
だが生憎お前を諦める気なんざ毛頭ない。俺にはアリスだけだとずっと思い続けて、イズナがいなくなってからは正しくお前を手に入れることだけを考えてきた。
今更他の一族との結婚を考えろなど馬鹿馬鹿しい。
それでも俺がそう思ってあいつに近付くほど、あいつは俺から離れていく。いつもあと少しというところで逃げられる。

ふざけるなよ。
どれだけ否定されようとお前だけは譲るつもりはない。どんな形であろうとも手に入れてやる。

嗚呼そうだ。別に双方同意の下でなくともいいのだ。あの時も、地下に閉じ込めた時もそうだったじゃないか。
俺はいつだって戦で手に入れ、戦で失ってきた。話し合いで解決しないならば今回も戦で決着をつけるしかあるまい。ついでに腱を切って足を奪ってしまおうか。そうしたら俺から逃げることも出来なくなるだろう。忍など危険なことはやめて俺のためだけに生きていけばいいんだ。

「ククッ・・・ふ、ははっ」

そうだそうしよう。さっそく支度をしなければ。あいつは強い。チャクラ量とスピードに関しては俺や柱間より上だ。さらに自己治癒力も優れているし生命力も強い。ともすれば須佐能乎を使って・・・いや、あいつの苦手な力勝負に持ち込んでも面白いかもしれない。
どちらにせよ徹底的に叩き潰して俺という存在を刻み付けてやらなければ。

高ぶる気持ちを抑え込み、久しぶりに“うちは”を手にした。



侵食する闇が
(思考を狂わす)
(届かぬならば)
(散らしてやろう)

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