押して駄目なら押し倒せ | ナノ


「はい、力を入れて・・・大丈夫?」
「あぁ──、つぅっ」

アリスに軽く支えられた状態で、体に力を入れて布団から上体を起こしていたマダラが短く呻く。彼は只今リハビリ中だ。

「チッ、この程度のことも出来ないとは」
「仕方ないわよ。暫く寝たきりだったこともあるし、少しずつしていかないと筋肉や心臓に負担がかかってしまうから」

眉を下げてそう言ったアリスは「さ、もう一度」とマダラを促した。こんなやり取りを続けてそろそろ一週間ほどになる。心拍数や筋の調子を見ながらであるためゆっくりではあるが、マダラの体は少しずつ動くようになっていた。

「うーん・・・これだけ筋が解れていたらもう少し出来てもいいのに。マダラ、痛む?」
「あぁ。だが我慢できないほどではない。やった方がいいか」
「いえ、痛いなら無理はしない方がいいわ」

力を入れて起き上がろうとしたマダラを止めて、アリスは彼の体を支えた。


リハビリを終えた後、アリスはもう一度全身の筋の様子を見て首を傾げる。ここ最近リハビリを続けたお蔭で結構解れてきたと思うのだがまだ痛むというのか。まぁ感じ方は人それぞれだろうし全てがマニュアル通りとはいかないから、本人が痛いと言っている限りは無理させない方がいいだろう。

「──じゃ、わたくしはくノ一の訓練場へ行ってくるから何かあったら使用人に言い付けてちょうだいね」
「あまり遅くなるなよ」
「はいはい」

いつものやりとりをしてアリスが出ていくと部屋がしーんと静まる。これで昼食までは暇だ。が、今日は違った。

「邪魔するぞー」
「・・・またお前等か。仕事はどうした」
「兄者が言うには休憩だそうだ。ったく、何故俺までお前ごときのために・・・」
「こちらとて貴様などと顔を合わせていては治るものも治らん。さっさと帰れ」

部屋に入ってきたのは柱間と扉間の二人だった。布団の横に座った彼らにマダラは舌打ちをして起き上がると面倒くさそうな表情で二人を見る。対する柱間は何か気になることがあったのか首を傾げた。

「マダラお前一人で体を起こせたのか?アリスからはまだ補助が必要だと聞いていたが・・・」
「言っただろう。アリスが思っているより傷の治りが早い。リハビリもあいつが始めるより早く始めていた。既に伝い歩きくらいなら出来る」
「医療知識のあるあいつが騙されるか?」
「筋の解れ具合から見て怪しんではいるがな。俺が痛いと言えばそちらを信じる」

口角を上げるマダラに千手兄弟がため息を吐いた。欺こうとするマダラもマダラだが彼の言葉を信じるアリスもアリスだ。いささか甘すぎやしないか。
しかしマダラの奴、まだアリスを諦めてなかったのか。扉間はマダラの諦めの悪さに内心頭を抱えた。

「流石に無理矢理押し倒すというのはやめた方がいいと思うぞ?雰囲気やら状況やらを考えて、その上で相手の意思もきちんと確認してだな」
「ハッ、その調子だとミトとはまだヤってないようだな。夫婦になってどれだけ経つ?火影ともあろうものが情けない。いっそのこと一生童貞を貫いたらどうだ」
「うっ・・・マダラ酷いぞ」

嘲笑うマダラに柱間が項垂れる。いつもは味方の扉間も今回ばかりはマダラの言葉に同意を示していた。千手家の相続に関わることなのだ。あまりゆっくりしてもらっては困る。

「だが兄者の言うことにも一理ある。嫌がる女を手籠めにするなど常識に反しているぞ」
「そうだそうだ!そのうち扉間に心移りするかもしれんぞ!アリスはこいつとも仲が良いからな!」
「おい兄者!」

そんなことを言ったら俺に被害が来るだろう今までのマダラの所業を忘れたのか、と柱間に批判の声を上げる扉間。だが予想に反してマダラは鼻で嗤っただけだった。

「アリスが?扉間に?ありえんな。石頭で不能な男など警戒する要素があるとは思えん。こいつには一生寂しく独り身をやっていくのが似合っている」
殺 す ぞ
「言い過ぎぞマダラ。扉間は確かに少し頭が固いところはあるが不能ではないはずだ!それにそんなところも含めて受け入れてくれる女子だっているかもしれないだろう!」
「兄者は俺をフォローしたいのか貶したいのかどちらだ」

間違いなく貶しているであろうフォローに柱間が諦め気味に肩を落とした。別段気にしているわけではないが、こうも攻められると少々の気落ちくらいはする。しかも悪意なく行ってくれるから厄介だ。

「それとマダラ、お前だって所帯を持つ姿など想像できないぞ。一生独り身はお前も同じだろうが」
「残念だな扉間、俺にはアリスがいる」
「振られっぱなしで望みがない女相手によくそんなことを言えるな」
「馬鹿言え。今に懐妊の知らせを送りつけてやるさ」
「先に式の案内を寄越せ」

順番が間違っているぞと窘めるも何処吹く風のマダラ。扉間は兄からも何とか言ってもらおうと先ほどから黙っている柱間に視線を向けた。しかし生暖かい目で自分達を見守っている姿を見て頬をひきつらせる。

「お前達・・・あんなにギスギスしていたのに、すっかり仲良くなったのだな」
「何処がだ兄者!しっかりしろ!」
「とうとう目までおかしくなったか?こんな奴が里のトップでは木ノ葉の未来は真っ暗だな」

ほわほわと二人を眺めていた柱間の肩を扉間が強く揺さぶり、マダラは馬鹿にするような表情で息を吐いた。

そんなやり取りがあった平和極まりない今日この頃。

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「・・・ねぇマダラ、何故貴方はわたくしの上に乗っているのかしら」

あくる日の晩、アリスは頬を引き攣らせて真上にある顔を睨んでいた。横になって寝ようとしたところでマダラが布団に入ってきて、あっという間にこの体制である。

「お前にしては愚問だな。言わなければ分からないか?」
「やっと立ち上がれるようになった人が何を言っているの。ふざけるのはいい加減にして早く自分の布団に戻りなさい」

呆れたように言うアリスにマダラは口角を上げると彼女が身に着けている寝衣の帯をするりと解いた。抗議しようとするのを口で塞ぎ、片手でアリスの両腕を頭の上に縫いとめてもう片方の手で身体を弄る。
一方のアリスはトラウマとも言える過去の情事を思い出して身を強張らせていた。彼が口を離した一瞬のうちに弾かれるように「誰か!」と助けを求める。
こちらに走ってくる数人の気配にマダラは舌打ちした。

「どうなさいましたか!?」
「何でもな「この男をどかして!」気にするな。さっさと下がって、今夜は何があってもこの部屋に近づくな」
「冗談じゃないわよ!どきなさいと言っているの!」

会話から何があったか察した使用人が顔を見合わせる。嫌がっている以上は助けた方がいいのだろうが相手は自分達の頭領だ。下手に刃向うわけにはいかない。

「やめてったら!そこの、早くマダラを押さえて!」
「アリス様・・・」
「まだいたのか。さっさと下がれと言ったはずだが?」
「し、しかしアリス様が、」
「襖を開けたら殺す。さっさと下がれ。次はない」

低く言われた使用人が肩をビクつかせてその場から離れていく。アリスの白い肌が更に白くなった。

「そう怖がらなくてもいい。今回は濡らしてから入れてやる」

優しく言って唇と手を体に這わすマダラ。だがアリスの震えは大きくなるばかりだ。流石のマダラも愛撫を中断して体を少し離す。

「アリス、大丈夫か」
「・・・大丈夫なわけ──ないでしょう!!」
「ぐっ・・・!」

四つん這いのような状態のマダラの急所に、振り上げたアリスの足が綺麗にヒットした。思いもしない反撃を受けたマダラがアリスの隣に崩れ落ちて蹲る。最強と謳われる男でも急所ばかりは鍛えられないらしい。

「っ、っ・・・!アリスお前、」
「ご、ごめんなさいマダラ。どうにかして貴方を退けないとと思って・・・ミトから男の人はソコが弱点だと聞いたからつい」

涙目のマダラを見てアリスはそんなに酷いのかと彼の背を撫でる。女性には分からない痛みだ。
納まらない激痛に呻くマダラが対処法を教えたミトに悪態をつく。

「ミトに当たらないの。それよりもやはり動けたのね」
「・・・ふん」
「ほら、自分の布団に戻りなさい」

先程の怯えが嘘のように、アリスは寝衣を整えながらそう言う。動けるようになるのを待って大人しく戻っていったマダラだが思い出したように「あぁそうだ」と彼女を振り返った。

「何?」
「やせ過ぎだ。もっと肉をつけろ。孕んだ時に体の負担が大きくなるぞ」
「な、・・・余計なお世話よ!」

顔を赤くしたアリスは枕でマダラを殴ると布団に潜り込んで背を向ける。シンと静まる部屋でマダラからの舐めるような視線を感じた。耐え切れなくなって体の向きを変えれば目があう。

「続きは怪我が完全に治ってからだな」
「・・・その時はまた蹴り上げて差し上げてよ」

二人は不敵に口角を上げた。



綺麗な花には毒がある
(油断してたら返り討ち)

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