巡り会いてV | ナノ

とある建物の一室。
チヨに伝えられていた部屋の扉をアリスはそっと開けて中を覗いた。傀儡がずらりと並んでいるそこはどうやら保管庫のようで。
圧倒的な数に小さく感嘆の声が零れる。木ノ葉では見られない光景だ。

だがしかし光の入らない暗い部屋に人外の姿を含めた傀儡の大群。口には出さないが随分と不気味である。このまま入るのは気が引けるため電気のスイッチを探した。

「ん、これかしら」

パチ、と手に触れたそれを押した瞬間灯りが灯る。が、暗い。兎に角暗い。どうにか部屋の隅が見えるくらいの明るさしか発しない電球にアリスはそこへ入るのをためらった。
幽霊の類が苦手なナルトでなくてもこれはキツイ。だって本当に何か──

出るぞぉ〜!!
「ひっ、」

そう、出そうだ。というか出た。
部屋に入るか否か、中を覗きながら思案していたところ急に後ろからガシリと肩を掴まれて体が跳ねる。そろりと振り返ればしてやったり顔のチヨが愉快そうに笑っていて体中から力が抜けた。

「相談役・・・普通に登場してほしかったわ」
「それじゃ詰まらんじゃろう。ほれ、若いもんがいつまでも腰抜かしとるな。早ようやることやってしまうぞ」
「別に腰を抜かしてなんて・・・全く相談役は・・・」

慣れた足取りで部屋に入っていく相談役に不満を零しながらも続く。
作業台の所でアリスに待つよう言ったチヨは“例の傀儡”を取りにそこから離れた。

「(あぁ、暁のアジトのサソリの部屋を思い出す・・・)」

引き攣りそうな顔で周りを見渡して息を吐く。外から見ただけでも不気味だったが中に入って囲まれると余計に息が詰まりそうだった。
程なくして戻ってきたチヨに安堵したのは気のせいではないだろう。

「これが昨日言っとったもんじゃ」
「あら、まぁ・・・本当にそっくりね」

大事そうに抱えてきて作業台に置いた傀儡は、髪と目の色が茶色であることを除けば正しくサソリそのものだった。心臓部にもきちんと穴が開いている。

「サソリが里を抜けた後に見つけた傀儡でのう。何故こんなものがと思ったが・・・己を傀儡にするための過程で作った試作品じゃな」
「仕込みの方は」
「全て外してある。ついでにチャクラを封じる術式も施しておいたぞ」
「準備がよろしいことで。それではやってしまいましょうか」

顔を見合わせて頷き合うとアリスは巻物からサソリの心臓部を取り出した。手でつかんで傀儡の開いている穴に嵌めてやればすっぽりと入って根を張る。カタカタと体が小さく揺れて閉じていた双眸が開いた。

「おはよう、サソリ」
「気分はどうかの、孫よ」
「・・・ババアと金蘭の小娘か」

特に慌てる様子もなく、むしろ面倒くさそうに呟いたサソリが体を起こす。確かめるように手を動かして辺りを見渡した。

「チッ、砂の里だな。・・・この身体、里を抜ける前に作った試作品じゃねェか。しかも仕込み外してチャクラ封印までしてやがる」
「起きた途端暴れられては困るからのう」
「ババア・・・まぁいい。それより小娘、どういうつもりだ」
「あら、何が?」

わざとらしく首を傾げるアリスにサソリが舌を打つ。
馬鹿でなければ分かるだろう。恍けてないでさっさと答えろ。
そう目で訴えられたアリスは殺気を含んだ鋭い視線から逃れるように小さく降参のポーズをとると、何処から言うべきか少し思案して口を開いた。

「まぁ手っ取り早く言ってしまえば砂の軍縮対策ね。貴方程の傀儡師、失うには惜しいわ」
「テメェ等木ノ葉には何の利益もねェだろうが」
「砂とは同盟を組んでいるもの。この先手のひらを返されるようなことは無いでしょうし、いざという時の戦力は双方にとって必要だわ」
「俺は里のために働く気なんざサラサラねェよ」

ふん、と鼻を鳴らして高慢に言い放つサソリ。しかし次の瞬間そんな彼の後頭部を強い衝撃が襲った。痛みはないが上半身が大きく揺れる。

「敗者の分際で何を言うておる。孫が犯罪者のままとあっては世間に頭が上がらんわ。これからは里に尽くす形で償ってもらうぞ」
「ってぇなババア。やらねェっつってんだろうが。大体忍界中に指名手配されている俺が今更ンなこと出来るかよ。バレたら他国から叩かれるぞ」

馬鹿にしたような表情のサソリに二人は顔を見合わせると、心配ご無用とばかりにニィと笑った。
何だ此奴ら嫌な予感しかしない。

「暗部に潜り込ませるくらいの手回しは造作もないことじゃ」
「死亡報告ならわたくしがして差し上げてよ。すぐにビンゴブックの方にも討伐済みの印が捺されるでしょう」

得意げな二人に頭を抱えたくなる。いっそのことあの時殺されていた方がマシだったかもしれないと本気で思ってしまった。どうして女というのは無駄な事をしたがるのだろうか。

「悪い話ではないと思うのだけれどね」
「そうじゃぞサソリ。里にいれば衣食住は保証されるし命を狙われる心配もない。何より傀儡造りの環境が最高じゃ」
「薬草と毒草も木ノ葉から仕入れやすくなっていてよ」
「〜〜あぁくそっ!分かった。テメェ等の勝手にしろ。ここまで来たら付き合ってやらァ」

ぐしゃぐしゃと髪を掴んで至極面倒くさそうに言い放つ。勝ち誇ったような二人の顔がウザい。ウザ過ぎる。チャクラと仕込みがあったら間違いなく刺していただろうに。──いや、此奴等の事だから勝手な真似が出来ないように手を打ってありそうだ。

「チッ、代わりに傀儡関連の物は常に上質なやつを揃えろよ」
「任せておけ」
「それと小娘。良い情報を教えてやる」
「良い情報・・・?」
「お前達がアジトに乗り込んできた日から数えて十日後の真昼、草隠れの里にある天地橋へ行け。大蛇丸の所へ行かせた俺のスパイと落ち合うことになってる」

その内容を理解したアリスはハッとした表情になる。乗り込んだのが昨日だから、九日後の真昼か。
ありがたいことではあるが何故そんな情報を──

「お前とイタチの弟は大蛇丸に因縁があるらしいからな。それに俺は暫く籠もりっきりで作業しなきゃならない。草隠れまで足伸ばす余裕なんざねェんだよ」
「あぁ、成程ね・・・情報提供感謝するわ」

アリスの言葉にサソリは鼻を鳴らすと、早速傀儡の造り直しと調整をするから場所を用意しろとチヨに顔を向ける。どうやら今の体では不便らしい。作ったのが三十年も前だから当たり前と言えば当たり前なのだが、それでも歩くくらいのことは出来るのだから当時の彼の腕は既に相当なものだったと言える。保存状態が良かったというのも理由の一つか。

「さて、そうと決まれば早く行くぞ」
「──おいちょっと待てババア。何で手ェ繋いでんだ」
「恥ずかしがるでない。よくこうして出掛けていたであろう」
「この年になってまでやってられるか!とっとと離しやがれ!」
「おぉそうじゃ、近くの駄菓子屋で菓子でも買ってやろう」
「話聞けクソババア!」
「ふふ、微笑ましいわね」
「ぶっ殺すぞ小娘」

人を殺せそうな目付きで睨んでくるサソリだが、アリスは口元に手を添えて小さく笑っただけだった。


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