巡り会いてV | ナノ

次に目を覚ましたのは砂の里の建物内だった。ベッドの傍にはサスケがいる。

「戻ってきたのね」
「起きたか。少し前に里に到着した」
「そう・・・我愛羅はどうなったの」
「アリスの読み通り起きたぜ。まだ本調子じゃないらしいがその内良くなるだろ。あぁ、それと早めにバキ達に顔を出しておけ」

流れで言われた言葉に、アリスは普通に返しそうになって止まった。
何故に顔出し?サスケの顔を見るが良いとも悪いともいえない表情だ。自分は寝ていただけだから問題になるようなことはなかったはずだが。
そう首を傾げていたところで部屋にノックの音が響いた。

「どうぞ」
「あ、アリス起きたのね。良かったぁ」

小さなカップを持ったサクラが顔を明るくして入ってくる。何が入っているのかと見ていたアリスの視線に気づき、サクラはそれを差し出した。

「アリス用に調合した解毒薬よ」
「流石サクラ、もう出来たのね。わざわざありがと、う・・・」

受け取ったカップの中身を見たアリスが思わず言葉を失っていく。そこにはドロドロとした緑色の液体が不気味に揺れていた。
何だこれは。
顔を引き攣らせたアリスを不審に思ったサスケもそれを見て絶句する。

「ね、ねぇサクラ、これ・・・飲むのかしら」
「もちろんよ。注射タイプにしようか迷ったんだけど、効果を考えるとこっちの方が良いかなって思ってね」
「あぁそう・・・そっか、効果を考えて・・・此方にしたのね・・・」
「(サクラ、これ絶対選択ミスだろ・・・)」

サスケはアリスの心配をしながらも、自分が飲むなんてことにならずに良かったと胸を撫で下ろす。一方のアリスは何とかこの毒のような解毒薬を回避できないかと止まりかけている思考を巡らせた。

「そ、の、症状も治まってきてそんなに悪い状態ではないし・・・薬はまた酷くなったらで良いのではないかしら・・・」
「駄目よ。解毒するのは早い方が良いんだから」

きっぱりはっきり言ったサクラが飲むように促す。早々に逃げ道を失ったアリスはカップの中身を今一度確認すると息を止めてそれを一気に呷った。草特有の味が口いっぱいに広がって、アリスは顔を盛大に顰める。

「大丈夫か」
「・・・えぇ」
「アリスのことだから体はすぐに良くなると思うけど無理は禁物よ」
「わかったわ、サクラ。薬、ありがとう・・・」

後味の悪さはその後も暫く続いたらしい。

──────────

次の日の朝、風影邸の執務室を訪れると我愛羅は既に机について書類を読んでいた。普段の執務に今回の事件の後始末も加わって暫くは忙しくなるだろう。

「おはよう、我愛羅。朝から大変ね」
「アリス」

入ってきたアリスに書類を置いた我愛羅。何から言おうか迷って視線を彷徨わせる彼にアリスは「元気そうで安心したわ」と声を掛ける。
そして今度こそ我愛羅も小さく口を開いた──がしかし。

コンコン

「・・・入れ」

ノックの音にため息を吐くように言う。「失礼します」という声と共に扉を開けたのはバキだった。そして朝の挨拶を口にしようとしたところでアリスがいることに気付き一瞬だけ動きを止める。

「お、はようございます。我愛羅様、アリス様。身体の調子はいかがですか」
「あぁ、問題ない」
「おはよう。わたくしも大丈夫よ」

返ってきた返事にほっとした表情になるバキ。特にアリスを見て安堵の表情を浮かべていた。

「そういえばサスケに顔を出しておくよう言われていたのだけれど、何かあった?」
「あぁいえ、その・・・大したことでは」
「昨日里に帰ってきたときにお前が気を失っていたからな。俺を助けたことで何らかの悪影響を出してしまったのではないかと心配していたんだ」

言いよどむバキの代わりに我愛羅が言えばアリスはなんだそんなことかと息を吐いた。確かに木ノ葉との間に摩擦が起きることも考えたらバキの焦りも分からないことはない。
だがしかしハッキリ言ってアリスがそんな状態になっていたのはサソリの毒が原因なのであり我愛羅とは全く関係ないのだ。そこまで気にされてしまっては逆に申し訳ない。

「ま、全員無事だったのだし良いじゃない」
「本当に助かった。どれだけ礼を言っても足りないくらいだ。
 ・・・それでアリス、その術とやらは一体いつ掛けたんだ?」
「あ、」

我愛羅の問いにアリスは笑顔を引き攣らせ、バキはどういうことだと二人を見る。

「あ、あの・・・そこは流してくれたり・・・」
「しない」
「でももう過ぎたことだし・・・」
「アリス」
「はい、前に泊まった時の夜に掛けました」
「初耳だぞ」
「アリス様、確認を取らなかったのですか・・・」
「つい試したくなって・・・でもまだ完成ではないから期待させるのもどうかと考えたら・・・言い出せなくて終わってしまったのよ」
「未完成の術を施したのですか!?結果が出たから良かったものを・・・」

下手したらそれこそ国際問題になりそうだ。過ぎたことではあるし実際に我愛羅の命が助かったとはいえ、そういう大切なことは言ってもらわなくては困る。

「本当に悪かったと思っているわ。でも今回の件でチャラにしていただけないかしら」
「あぁ、お前の気まぐれで助かったようなものだからな。それくらい構わない」

返ってきた言葉に胸を撫で下ろしたアリス。和やかな雰囲気になったところで、バキがカカシ達が話していた事を思い出して「そういえば」と声を零した。

「木ノ葉の者達は今日帰ると言っていたのですがアリス様は・・・」
「わたくしは砂さえ良ければもう少しいるつもりよ」
「チヨバア様からその趣旨は聞いている。無論俺達は構わないが・・・何かあるのか」
「えぇ、まぁ。近いうちに話が行くと思うわ」

意味ありげに小さく笑うアリスに、我愛羅とバキは顔を見合わせたのだった。

──────────

砂隠れ出入り口にて、我愛羅達は木ノ葉一行を見送りにきた。

「それでは風影様方、アリスをよろしくお願いします」
「任せるじゃん」
「サスケ、任務の報告よろしくね」
「あぁ」

今のところ荒れる様子もなく静かな砂漠で双方が向かい合う。
最後に別れの握手を交わして、ナルト達は広い砂漠を木ノ葉に向けて歩き出した。

「──それにしても今日は良く晴れているわね。体調が万全ではない人もいたのに大丈夫かしら」
「確かに少し陽射しが強いからな・・・」
「脱水症状でも起こしそうじゃん」
「サクラがいるから大丈夫だろ」

遠くなっていく背中を見つめて話し合い、四人も里の中へと戻っていった。


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