綿菓子みたいな | ナノ

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私が生まれたのは北の大地の山奥の集落だった。
代々、集落の安寧と安全を願い祈願や儀式を行ってきた神職の家系──と言いながら妖怪の血が混じっているらしいんだけど。

何はともあれ人々を守ってきた。しかしほとんど人が踏み入れない山奥の集落だったのが災いして、集落は長い年月をかけて徐々に衰退し、今では私の家を入れて六組ほどの家族しか残っていない限界集落というやつになっていた。

父母と私を除けば全員が高齢者。まもなくこの地はなくなるだろう。
そう覚悟した両親はまだ若い私にここを出るように言った。

大人になったら両親の後を継いでこの地と人々を守っていくんだと当然のように思って修業していたため一悶着はあったが、場所が場所なため再び繁栄することは難しく、衰退していくのを待つしかない。と説得されて意を決した。



そんな経緯があって上京したのだが──

「(東京ってホンット呪霊多すぎ!!)」

五年程前にドドド田舎から出てきた私が最初に心の中で叫んだのがこれだった。
ビルが高いとか人が多いとかじゃなくて、まずこれ。

そう、神職に携わっているからか妖怪の血が入っているからか、我が家系は代々人ならざるものが視える。もちろん例にもれず私も。

そりゃ人が多けりゃ呪霊も増えるよね。と飛び掛かってきたおぞましい呪霊を死んだ目のまま祓ったのが、東京の最初の思い出だ。
ぜんっぜん楽しくない。

集落では小さいのとか、迷い込んできたちょっとヤバいのが時々現れるくらいだったからなぁ。
幼いころから修業をしていたため元々それなりにできるほうだと自覚していたが、この呪霊はびこる東京で暮らしたおかげで私の自衛スキルは鰻登りした。

視ない聞かない触らない。こちらが気付いたことに気付かれると襲ってくるから、何がいてもスンッとした表情で通り過ぎる。

とはいえ一般人には当たらないのをいいことに平気で人の体をすり抜けていこうとする奴らもいるため、ぶつかって気付かれる事もしばしば。
悩みに悩みぬいた末、球状に術を展開して空間を分ける"境界"を引くことにした。
境界の内側に入ってきた弱い呪霊は"個"を形取る境界が保てず無に還ることになる。

ついでに、この境界に入ったくらいでは消せないほどの力を持った奴には、術に使われる呪力と相手の呪力の"境界"を曖昧にして、私と術を認識しづらくなる効果も付加しておいた。

東京怖い。強い奴多い。気を抜いてたら殺されそう。必要以上に関わりたくない子供や孫に囲まれて老衰で死にたい。

とまぁこんな経緯があって、現在は我が家の伝手で頼った東京のとある神社に巫女として仕え、なんだかんだ東京生活を謳歌しているのだった。


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