綿菓子みたいな | ナノ

11

コトリバコ事件からしばらくたったある日、雲雀は小さいことで大きく悩んでいた。
というのも今日は友人から誘われて合コンに参加する日。

上京仲間なその友人は神社に仕える雲雀と違って大きい企業に就職したため人脈が広い。
最近のやり取りで雲雀の出会いのなさが露呈したため今回の合コンに誘ってくれたのだ。
もっとも、雲雀は彼氏が欲しいわけではないため初めは断っていたのだが、巫女の友達がいると言ったら絶対連れてきてほしいと言われたからお願い、と押し切られて了承してしまった。

さて、ここで生じたのが合コンに行くことを五条に話すかどうかということだ。
合コン、というには少し人数が多いらしく、合コンを兼ねた飲み会らしいけれど。

あのコトリバコ事件の後、五条に任務が入ってしまい話せずじまいなのだが、あの時彼はたしか「何かあったら連絡しろ」みたいなことを言っていた。
五条が一方的に言ってきただけだし合コンが"ホウレンソウ"に該当するか分からないが、雲雀の勘が言わないと後々問題になると告げている。

ちなみにコトリバコを所持しているため毎日五条から安全確認の連絡が入るのだが、そこでも合コンの件は微塵も出していない。

「(いやでも合コンに行ってきますなんて報告されても五条さん反応しずらいだろうし・・・というか異性の友達に合コンの話を出すのはちょっと恥ずかしい)」

うん、まぁいっか。
そう結論付けて合コン当日の夜。少なくとも友人の顔に泥を塗らないよう仕事終わりに一旦家に帰り、いつもより着飾って家を出る。
電車で指定された店の最寄まで行って、駅を出て歩いていた。

あと数分で店に着くというところで不意に雲雀の隣を黒塗りの車が並走して止まった。
つられて足を止める頃には後部座席の窓が開いて、この数日間雲雀が頭を悩ませていた元凶が顔を出す。

「やっほ、雲雀。こんな時間にお出掛け?」
「お久しぶりです、五条さん。お出掛けといいますか・・・えっと、合コンです」
「は?」

運転席の伊地知とそっと頭を下げ合った雲雀がニコニコと声を掛けてくる五条に言いにくそうにこの後の予定を告げると、彼は声をワントーン落とした。
「聞いてないんだけど」と続いた抗議に、雲雀は困ったようにすみませんと頭を下げる。
やっぱり言っておいた方が良かったのか。

「何?雲雀彼氏欲しいの?」
「いえ、友人が私の出会いのなさを心配してくれまして・・・あと友人の職場の人に巫女という職業が珍しがられたみたいで来てほしいと」
「ふーん・・・まぁ行く行かないは雲雀の勝手だけどさ。酒が入ると何があるか分からないんだから気を付けなよ?ちなみにどこの店?」
「すぐそこですよ」

指をさして店名を言えば五条は「そっか、わかった」と頷いた。
これから近くでオマケの任務があるらしく、案外あっさりと解放された雲雀はホッと息を吐く。

車が去っていくのを横目に再び歩き出して、店の前で待ってくれていた友人を見つけて足を速めた。

──────────

酒は強くないけど楽しい場では飲み過ぎてしまう、という人は少なくないはずだ。
雲雀もその性質で、はっちゃけすぎず程良くノリが良い多数のメンバーに恵まれたおかげで初対面にもかかわらず楽しく過ごしていた。

雲雀だけが会社関係者ではなく、しかも普段接することのない巫女という特殊な職業であるということも相まって男女関係なく色々と話が弾む。
そして合コンも終盤に差し掛かった頃には、クラクラする頭でグラスを持ってフワフワ笑っているという図が完成した。

「ちょっと雲雀大丈夫ー?」
「ん〜、らいじょうぶらいじょうぶー」
「あちゃー、これ駄目だわ」

きゃいきゃい楽しそうに笑う雲雀に、誘った本人である友人が呆れ気味に溜息を吐く。
合コンメンバー内では二次会に行こうという話も上がっているが彼女は帰らせた方がいいな。
当たりを見渡して彼女を無事に送ってくれそうな人はいないか探す。
男三人が特に彼女を気に入って気にかけているようだが、誘いはことごとく断っているようだし自分が送っていった方が良いかな、とまで考えたところで、店の入り口のほうが妙なざわめき方をしていることに気付いてメンバーたちと共に顔を向けた。

日本人離れした風貌の男がいた。
白髪。高身長。稀にみる超のつくイケメン。
サングラスをかけたその顔が辺りを見渡すたびに、主に女性客がざわつく。

店内の客の注目を集めるその男は、奥の座敷まで目を通したかと思ったらお目当てが見つかったのか歩き出した。
雲雀達のいるテーブルまで近づき「こんばんは」と少し身を屈めて綺麗な笑みを浮かべたところで、宝石を思わせる碧眼がチラリとサングラスから覗いた。

無論、合コンメンバーはいろんな意味でざわついた。
「こんな人いたっけ」やら「どこの部署の人だろう」やら。親し気に話しかけてきたものだから今日の合コンメンバーの一人が遅れてやってきたと思う人も少なくないようで。
その辺の男とはレベルの違うイケメンに一瞬にして女性陣が獲物を見つけた目になった。

それぞれが素早く自分の横を開けて表向きは明るく「お疲れ様です。隣どうぞー!」と五条に声を掛ける。
しかし彼はそれらに軽く手を振って「迎えに来ただけだから大丈夫」と愛想よく答えて、男三人ほどに介抱されていた雲雀に目を向けた。

「雲雀ー、愛しのゴジョーさんが迎えに来てあげたよー!」
「えっ!ちょっと雲雀起きて!とんでもないイケメンが来たんだけどアンタ彼氏いたの!?」
「んー、起きてる起きてる。いけめん・・・?あ。ごじょうさんだぁ」

気だるげに顔を傾けて五条を視界に入れた雲雀が嬉しそうに溶けるような笑みを咲かせる。
「なんでここにいるんですか〜?」といつも以上にゆるゆるなその雰囲気に、五条は色々言いたいことをぐっと押しとどめてもう一度迎えに来たことを告げた。

緩く返事をした雲雀が帰り支度を始めたのを横目に確認した友人が、素早く五条に駆け寄って「すみません」と声を掛ける。

「雲雀とはどういう関係ですか」
「えー・・・オトモダチかな。今は」
「彼氏じゃないんですか。その、迎えに来たってことは雲雀の家まで送るんですよね」

深い仲ではないということを察して警戒の色を見せる友人を前に、五条は笑みを浮かべて「もちろん」と肯定した。
顔だけは百点満点どころか追加点もあげられそうだが、こういった顔立ちが派手な男は大抵女性関係も派手だというのが雲雀の友人の見解だ。
大事な友人を軟派そうな男に託すのは少しどころかこの上なく心配である。

「あの子、今時珍しいくらい純真で良い子なんですよ。人を疑わないというか、人の嫌なところより良いところを見てるというか。
 ・・・遊びなら、お引き取りください」

綺麗にメイクを施した顔を目いっぱい怖くさせた友人の低い声に五条は少し驚いた表情になった後、真顔で彼女を見下ろした。
ここまでのイケメンに見つめられることなどそうないことで友人は尻込みしそうになるが、ぐっと足を踏ん張って睨み返す。
五条が、拙い手つきでコートを羽織ろうと頑張っている雲雀を確認して、友人にだけ聞こえるよう口を開いた。

「・・・本気だよ。何番目とかそういうのじゃない。雲雀だけ」

遊びなんかじゃない。

数秒の沈黙。
真剣な五条の視線に耐えられなくなったのか、とうとう友人が「あっそ」とそっぽを向いた。
そのまま踵を返して雲雀の元へ行き、帰り支度を手伝ってやっている。
雲雀を気にかけていた男三人はモデル顔負けのイケメンが彼女を迎えに来たと分かった時点で戦意喪失して、見ようによってはガラの悪い五条に目を付けられないように縮こまっていた。

友人が雲雀に何かこそこそと話しているが五条のところまでは聞こえてこない。
支度を終えてこちらに向かってくる彼女は、友人に「だいじょうぶだいじょーぶ」と舌足らずに返事を返していた。

「まったくもー!本当に大丈夫なの!? いい?何かされそうになったら全力で股間を蹴り上げるのよ!大抵の男は一発KOできるから!」
「ちょっと、怖いこと教えないでよ」

純真な良い子、の雲雀になんて知識植え付けてくれるんだ。

心配でしょうがないと言った様子で色々アドバイスを送る友人に、雲雀はフワフワ笑ってお礼の言葉を送った。
そして靴を履きながら、少し落ち着いた声色で「大丈夫」と優しく言う。

「五条さん、信用できるから。軟派に見えるしそう振る舞ってるけど、視野が広くて思慮深い人だよ。だから大丈夫」

立ち上がった雲雀は友人を振り向いて綺麗に笑った。
五条の心臓がとくりと音を立てて早まる。
ほんのり頬を染めて嬉しそうな表情がにじみ出る五条を見た友人は、ようやくホッとしたように笑みを零した。

「雲雀の"大丈夫"って信用できないけど、なんだかんだいつも大丈夫な結果になってるからね。そこまで言うなら大丈夫でしょ」
「ふふ、そうだよー。今日は誘ってくれてありがとねぇ。とっても楽しかった!」
「合コンの邪魔してゴメンね。雲雀の分のお代はここに置いておくよ」

自分の財布からお札を数枚抜き取って机に置いた五条は、皆の注目を集めたまま雲雀の背に手をやって店の外へと誘導していった。
ちなみに彼女の分と言いながら万札が五枚ほど置かれていたものだから、合コンメンバーは色々な意味で再びざわついた。



※※小話※※

─雲雀─
大企業の友人に誘われてノコノコ合コンに参加してしまった人。
お酒飲み過ぎてフワフワしてたから五条の恋心が大きくなったことを知らない。

─五条─
コトリバコを持っている雲雀に安全確認の名目で毎日連絡する人。
自分に言わずに合コンへ行った雲雀に今回こそ色々躾ておこうと思って迎えに行ったら思わぬKOを食らった。
お陰で送り狼になることもできず彼女を家に帰した後は大人しく自分の家に帰ることとなる。
一日経ってようやく落ち着いたところで、彼女のあの性格だから誰彼構わずあぁいうこと言うのかもしれないと心配になり「やっぱり今度色々話し合いしよう」と決めた。


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