stand up! | ナノ

18

立体起動装置のガスを吹かす音。

刃物同士がぶつかる耳障りな高い音。

威嚇するような大きな声に、痛みに呻く低い声。


一人、また一人と伸しながら、ツバキは違和感──というより予想外の戦況に顔を顰めていた。

「ねぇちょっと、こいつ等・・・っといけない。
 こいつ等本当に憲兵か?──弱すぎて話にならないんだが」

王族貴族が住まうシーナ内を担当しているというのだから。
こちらも相当の覚悟をして挑まなければ全滅だと"ファミリー"全体で気合入れて動いたというのに。
蓋を開けてみれば、動きは遅いわ剣の使い方は甘いわ統率はこちらより劣っているわで、もはや逆に恐ろしい。
思わず素が出てしまった。

「話にならないという程弱く感じているのは貴方だけかと。地上戦はまぁ分かりますが、少なくとも立体起動で飛び回って仕掛けてくるのは厄介ですよ」
「そうか?あの飛び出てくるワイヤーの先の金具みたいなのを弾いてしまえば勝手に体勢崩して自滅してくれるじゃないか」
「あれにナイフ投げて当てられるのは貴方くらいですよ。まぁ飛んでる人間ならタイミング計って当てられないことはないですが・・・」

たまたま弱い部隊に当たってしまったのかと、地にひれ伏した憲兵達を前にツバキが頭を抱える。
しかし周りを見るに援護要請や撤退報告の煙弾が上がった様子はない。
どうしたもんか、と考えていると意識のある憲兵達に脅しをかけていた"ルーク"が戻ってきた。

「取り敢えず、ここで手を引くならこれ以上害を加えることもしないし地下で大人しくしていると伝えてきました」
「追加で戦力と戦略を聞いてきてくれ。あまりにも手ごたえがなさすぎる。こっちは陽動で、メインで動いている部隊がいるかもしれない」

こういう時に無線があると別の部隊の戦況がすぐに分かるから楽なのだが、生憎この世界にそんな便利なものはない。
他の所もツバキの所と同じように簡単に制圧できたのか、それとも厄介なのがいたのか──今の時点では敵の状況も仲間の状況も分からない状態だ。

少しの間仲間と考察を交わしたツバキは、指示通り追加の質問をしている"ルーク"に近付いた。
胸ぐらを掴まれて尋問されている憲兵は怯えが顔に出ているし周りの兵は戦意喪失しているし、ますます意味が分からなくなる。

「どうだ。何か分かったか」
「分かったも何も・・・まさか我らがここまで強いとは思っていなかったと。陽動でもなんでもないし作戦というより手順を決めてきただけだと言ってます。
 "ファミリー"領土へ行ってそこを仕切ってる人間を捕獲。地上へ連れて行って尋問する予定だったらしいです」
「そんなわけあるか。王の御膝元で動く奴等がそんな雑な計画を立てるわけがないだろう。
 ・・・とりあえず爪の三枚でも四枚でも剥いで、それから話を「ほ、本当だ!本当にそういう予定で来たんだ!」はぁ・・・」

物騒な雰囲気になってきたのを察した憲兵がツバキの言葉を遮って強く言う。
疑わしげに眉を顰めた彼女は考えるように口元に手をやって「うーん」と声を零した。
興奮している状態では言葉の真偽を確かめるのが難しい。一度落ち着かせて改めて話を聞くべきか。

時間は食うが正確性をとるための急がば回れだ。
副隊長を務める"ルーク"を連れて憲兵達から少し離れたツバキは、彼等に聞こえないようにと声を潜めて話し始めた。

「奴等が落ち着いた頃にもう一度話を聞け。真偽を確かめるだけでいい。終わったら解放して私への連絡と周囲の巡回だ」
「ほっぽって大丈夫ですかね」
「あの戦力じゃ心配ないだろう」
「貴方は?」
「全体を回って戦況を見てくる」

頷いた"ルーク"に「指揮は頼んだ」と告げたツバキは路地に入ると地を蹴って建物の屋上に跳び上がった。

──────────

事が動いたのは人員を配置したエリアを七割方回った頃だった。
どこを見ても荒れている様子はなく、これで隠密で動いている部隊がなければやはり聞いた通りの戦力と計画だったのだろうと結論付けたツバキ。

相変わらずなんの煙弾も上がらないなぁなんて、万全に準備していただけあって少しつまらなく思っていた時だった。
グルリと辺りを見渡した目に映ったのは、中央部から上がる黒と赤の煙弾。

──緊急事態発生 "キング"への救援要請

「(うっそ・・・大丈夫だと思ったのに、まさか本当に本命の部隊が動いてたとか。しかも敵が領土に到達した時点で連絡があるはずなのに、いきなり戦場で指揮を執っている私を呼ぶなんて)」

どういうことだろう、と考えていたがふとある可能性が浮かんで一瞬だけツバキの動きが止まる。
情報は正確性とスピードが命だと分かっているはずの"クイーン"が領土到達の連絡をすっ飛ばして彼女を呼ぶべきだと判断した。
つまり到達した、もしくは発見した時点でツバキの力がなければ退けられないと分かっている相手だったということだ。

"クイーン"がそう認識している相手といえば。
調査兵団──それも実力のある幹部クラスしか思いつかなかった。


prev / next

[ back ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -