創設期企画小説 | ナノ


時は駆けるように過ぎてゆき、とうとう臨月となった。
大きなお腹を擦るツバキの隣で心配げな表情のマダラが彼女の背を撫でている。

「なぁツバキ・・・」
「何」
「・・・いや、なんでもない」

暗い表情で言葉を返したツバキに、マダラは顔を俯かせてそう呟くように言った。

──────────

「入るぞマダラ!っと・・・どうした、元気がないじゃないか」

マダラの仕事場に来た柱間は、酷く落ち込んでいる様子の彼に目を丸くした。筆を持った状態で静止していたマダラが漸く気付いたように顔を上げて親友を見る。

「柱間か・・・。書類ならもう少しで──は、終わらないな。悪いがまだ掛かりそうだ」
「いや、それは良いが・・・何かあったのか?」
「あぁ、まぁ・・・」

深いため息を吐くマダラに柱間は話を聞こうと持ってきた書類を置いて近くの椅子に腰を下ろした。どうせまたツバキのことだろう。九ヶ月を過ぎたあたりから元気がないと前に聞いていた。
目の前の影分身のマダラが冷めたお茶を一口喉に流して口を開く。

「ツバキが沈んだままでな・・・初めての妊娠出産だから不安なのだろうと思って今まで以上に気を使ってみたりしたんだが、日を追うごとにますます暗くなっていく。何か心配事でもあるのかと聞いても気にするなだの何もないだのと・・・」
「まぁまぁ、そう深刻になるな。お前が言う通り初めての妊娠出産だ。いくら気を使ってやっても完全に不安を拭いきれるものではないだろう」
「そうは言っても急に泣き出したりするんだぞ!?あのツバキが!」
「あいつだって女子だ。不安に涙する時だってある。それを支えてやるのがお前の役目だろうに」

小さく苦笑いを零して言う柱間に「それはそうだが」と頭を抱えて呻くように言うマダラ。

「ずっと傍についてやって、お前が心配することは何もないと常々言い聞かせているんだ。話だって聞いているし背や腹を撫でるような触れ合いも欠かしたことはない。なのに何故あそこまで落ち込んでいる?何が悪いんだ・・・」
「無事生まれてくるかとかその子は健康かとか、心配の種は尽きんだろう。子育ても初めてだしな」
「そんな事はもう解決している。そりゃ全く心配していないというわけじゃないが十二分に話し合って折り合いはついたんだ。
 ・・・一つ、心当たりはあるんだがな」

一旦区切って言った言葉に柱間は興味深そうに身を乗り出した。マダラは机に体重を預けた状態でくしゃりと長い前髪を掴んで小さく息を吐く。

「時々何か言いたそうにしているのを見ている。だが聞き出そうにも結局“何でもない”で終わってしまってな・・・その後は決まって泣き出すんだ」
「うーむ・・・マダラに言えない事か・・・、・・・腹にいるのがマダラとの子供ではないという事とか・・・愛人がいるとか・・・?」
「それももう話した。が、違うと言った。
 ──嗚呼くそっ、やはり今すぐ帰る。あいつの傍に居なければ落ち着かん」

そう言って立ち上がったマダラを柱間が焦って止めに入るが、構わず外に出ようと制止を振り切ってドアノブに手がかける──寸前で、外からドアが開いた。

「落ち着かないも何もお前は影分身だろう。戯言を言ってないで仕事をしろ、仕事を。これ以上溜めるな」
「ちっ・・・扉間か」

覗いた白髪にマダラの顔が嫌そうに歪められる。結局千手兄弟に丸め込まれたマダラは、影分身だという事もあって溜まっていた仕事を全てやらされたらしい。

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