創設期企画小説 | ナノ


それから数日後、うちは宅ではやはりマダラが心配そうにツバキの背を撫でていた。出産が近付くにつれて行動範囲が狭くなっているツバキは今やこの部屋だけが世界である。初めはそれが嫌で暗いのかと思っていたがそうではないらしい。それどころか自ら閉じこもるような意志さえあって、マダラの悩みは大きくなるばかりだ。

「なぁツバキ・・・本当にどうしたんだ。何か悩みがあるなら聞くし欲しいものがあるならすぐに持ってきてやる。だから、頼むから一人で塞ぎこんでくれるな」
「えぇ・・・ありがとう、マダラ。でも大丈夫だから・・・」
「何がそこまで心配なんだ?出産には腕のいい産婆をつけるし、子供に才能がなくても元気であれば構わない。そもそも健診では母子共に異常なしだっただろう。仮に病弱だったとしても見捨てる気などない。子育ては出来る限り協力する。上手くいかなくとも周りの力を借りたらいい。・・・それでもまだ他に心配事があるのか?」
「いえ、それは・・・、・・・」
「言ってくれ。でないと俺もどうすることも出来ない」
「・・・いいの、大丈夫だから」

ひっくとしゃくりあげて言った様子にマダラがワタワタとあやしに掛かる。そのままツバキは顔を覆って泣き出してしまって、マダラは途方に暮れて背を撫で続けた。
十分も十五分も経った頃ようやく落ち着いてきたツバキは涙を拭いてお茶を一口啜る。

「・・・ごめんなさい」
「いい。お前の世話をするのは苦ではない・・・が、心配ではある。本当に、お前と腹の子が無事ならそれでいいんだ。あまり深く悩み過ぎるな。やや子も落ち着かんだろう」
「ん・・・」

結局今回もツバキが悩んでいる事を知れなかった。疲れた表情で凭れ掛かるツバキを抱き締めながらマダラがこっそり溜め息を吐く。
このまま出産に臨んで大丈夫だろうか。いや、身体の方は恐らく大丈夫だ。ツバキの治癒力・生命力が共に高いことは過去の事で分かっている。だが問題は精神面だ。どうにかしてやりたいのは山々だが原因が分からないのでは手の付けようがない。

「ツバキ・・・「まだ、ら」どうした」

遮ったツバキにマダラの体が反応する。少しだけ強張った表情がマダラに向けられた。

「お、お腹・・・痛い、かも」

膨れた腹を押さえながら言った言葉を聞いて、マダラが一瞬固まる。そしてすぐさま我に返ると人を呼んで準備をするように言い付けた。
ここからが長い、お産の始まりである。

──────────

産婆も到着して準備も終わって、そして本格的なお産が始まった頃。
マダラは部屋の外でオロオロと行ったり来たりを繰り返していた。中からはツバキの呻き声が聞こえてくる。

「お、おい!まだ出てこないのか!?」
「その質問はもう十四回目ですよ!マダラ様がそんなだからツバキ様も不安になってしまうのではありませんか!ほらほら、火影様方がいらっしゃるお部屋でお待ちになってくださいませ!」

こういう時の女は強い。狼狽えているだけのマダラはあれよあれよという間に、駆けつけた千手兄弟とミトのいる部屋へと追いやられてしまった。

「お、マダラ。とうとう追い出されたのか」
「嗚呼ツバキ・・・死ぬな・・・死なないでくれ・・・」
「聞いちゃいないな」

ツバキがいる部屋に向かってブツブツと呟くマダラに扉間が呆れたようにお茶を啜りながら言う。
柱間とミトもいつもの通りとまではいかないが自分達がどうこう言っても仕方がないと静かにその時を待っていた。

「だいたい出産とは痛みを伴うものだろう。いちいち騒いでいては身が持たぬわ」
「相手すらいない貴様が偉そうな口を利くな。あいつはここしばらく酷い情緒不安定だったんだぞ。心配になるのは当たり前だろう」

うろうろ、うろうろ
尚も落ち着かないといった様子で部屋の中を歩き回るマダラ。数分後、やはり気になるからとお産が行われている部屋へ向かってしまった。

「ふふ、マダラ様ったら・・・」
「戦の時の方が余程落ち着いているな」
「ったく、いつもいつもあの男は。すぐに戻って来るだろうな」

マダラも最初はお産が行われる部屋でツバキについていたのだ。だがしかし平生では考えられぬツバキの痛がりっぷりにマダラの方がパニックを起こしてしまったため早々に部屋の外へと追い出された。更にそこでも不安に声を上げるものだから、産婆はツバキが出産に集中できるようマダラをこの部屋へ追いやったのである。

間もなく、扉間の読み通り部屋に追い返されて戻ってきたマダラは今度は部屋の隅に縮こまってブツブツとぼやき始めた。

「──おい、いい加減静かに待てんのか!鬱陶しいぞ!」
「ツバキがあんなに苦しんでいるというのに静かになどしていられるか!
 嗚呼頼む、この朴念仁はどうなっても良いからツバキと生まれてくる子だけは無事でいてくれ・・・」
「貴様いっぺん表に出ろ。その頭、いい具合に冷やしてくれるわ」

米神を引き攣らせた扉間を、柱間とミトが宥める。他人が騒ぐと自分は落ち着くとはよく云ったもので二人は心配よりも扉間とマダラのフォローに専念していた。
それからまた数十分経った頃には部屋の中をうろうろと彷徨っていたマダラ。時折襖から顔を覗かせてはツバキのいる部屋を窺っていた。

「あれからもう四時間も五時間も経ったんじゃないか?まだ生まれてこないのか」
「さぁな・・・正確な時間は分からんがかなり経っていることは確かだ」
「しかし初産でありますから、人にもよりますが時間が掛かるのは仕方のない事ですよ」
「分かっている。だがあの声を聴いているとどうにも──!」

不意に、マダラが途中で言葉を止めた。

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