「花さんって、よく分かんない人だね」

少年が新品の服に身を包みながらそう言った。あの日、声をかけてきた彼だった。名前はマーナと言うらしい。それが本名か偽名かはわたしにはわからないけれど、名前は相手を示す記号でしか無いと思えば、まあ何だって良いのだろう。
彼の手に持った袋には古い服が入っている。

「マーナ少年、君は嘘つきだね。こういう女、いるでしょ」
「あれ、ばれたか」

彼と会うのは二度目だった。お昼ごはんを一緒にして、それから彼に新しい服を買ってあげたのだ。前回とそう変わらない行程だった。
そう、わたしはあの日、お札三枚で、彼の身体では無く時間を買ったのだった。流石に男娼と破廉恥なことをするほどまでには、わたしの倫理観というやつは狂ってはいなかったらしい。

「まあね、ときどきいるよ、僕みたいなのにこうしてくれる人」

自己満足でこういう未来の無い少年に援助してしまう女性がこの世にいることは、わたしだって知っていた。何なのだろう。母性本能と言うには汚すぎる。自己満足だ。儚さのある、夢の無い少年を、自分の思い通りに出来ることが楽しいのかもしれなかった。新しい服に身を包んで髪型を整えた少年は、それだけで若くて未来ある少年に見えないこともない。

「ずっと気になってたんだけど、どうして女の人は僕みたいなのに、こうやって身体無しに良くしてくれるの?」

マーナはひどく興味があるようにそう聞いた。先程考えていた答えを返そうとして、しかしやっぱり、自分の心に素直になることにする。

「君みたいな子は、嘘でも感謝してくれるでしょ」

少年は意外そうな顔をして、へえ、と言って、それから「ありがとう」と感謝してくれた。それで良かった。
わたしの欲しいのは、多分それだけだ。
誰かに優しくして、ありがとうって言って欲しい。わたしと言う人間がここにいて、純粋に人に優しくしたり、優しくして貰ったり、そういうことがしたかった。同情なんていらない。

同情なんて、いらないのだ。