長編、企画 | ナノ

16校、確定


無事春高の一次予選を突破した烏野一向が帰り支度を終え、澤村が部員達を見ながら呼びかける。

「おーい行くぞー」

その声に清水が振り向いて一つ頷いた後、谷地と跳子の方を向き直った。

「私最後に忘れ物無いか見てから行くから。跳子も仁花ちゃんも先に行ってて。」
「ハイッス」
『了解です!』

皆で階段を降りながら今日の試合を振り返っていると、影山が苦々しげに日向に言う。

「攻撃が達者になっても、レシーブは相変わらずクソだなおめーはよ。」
「!!」
「"ホギャ"って何だ"ホギャ"って。」

(角川の百沢さんのバックアタックの時の事か…)

後ろを歩く跳子と谷地もその時のことを思い出して苦笑する。

「いっ一応あがっただろっ」
「ホギャッ」
「ホギャッ」
「!!!」

途端にからかい出す田中と西谷に、日向が赤くなりながら反発する。
それを見ながら、跳子は影山に話しかけた。

『…私としては、影山くんが日向くんを褒めた事の方がビックリだけどね。』
「は?!俺がいつ…」
『だって攻撃が"達者に"なったんでしょ?』
「!!」
「あっ、そういえばさっきそう言ったね!」

跳子に同意した谷地と二人からニヤニヤと見つめられ、影山も日向と同じくらい赤くなってしまった。

それには気づかず今だに日向をからかって大騒ぎな田中と西谷を見て、後から階段を下ってきた縁下が二人に声をかける。

「そう言えばお前ら、夏休みの課題は大丈夫なんだよな?」
「「ホギャア!!!」」
「助けないからって言ったの覚えてるよな。な?」

縁下最凶伝説。
青ざめてガクブルな田中と西谷に笑顔で念押しする縁下。
2年生のヒエラルキーを垣間見てしまった山口が呟く。

「縁下さん、つえぇ〜。…あっそうだ!」
「?どうしたの山口。」

隣で突然大きな声を出した山口に、月島が怪訝な顔をする。

「いや、ちょっと…。あっ、鈴木さん!」
『?どうしたの、山口くん。』
「夏休みの課題、終わってる?俺、あと英語だけなんだけどちょっとてこずってて…。」
『そうなんだ!私はあとちょっとだけど、英語は終わってるよー。』
「じゃあ明日山口くんも部活後うちに来る?ちょうど今跳子ちゃんと、一緒に課題を仕上げようって話してたんだ。」
「えっいいの?!ありがとう谷地さん!」
「……。」

トントン拍子に進む話を無表情で聞いていた月島に、谷地が少し緊張気味に声をかける。

「月島くんもよければどうデスカ?」
『勉強会だね!私ちょっと数学聞きたいんだよー。』
「…行く。」

明日の予定が決まったところで、日向が立ち止まって声をあげた。
驚きで谷地の肩がはねる。

「ハァッ!」
「ヘェッ!?」
「弁当箱忘れたっ」

ダッシュで階段をかけ上がる日向に、谷地と影山が呆れるような視線を向けていると…。

『ふぁっ!』
「ひぇっ!?」
『ノート忘れたっ』

日向の後を追うように跳子が駆けて行く。

「…鈴木ってシッカリしてんのに、たまに致命的に抜けてるよな…。」
「…そうだね。」


跳子が階段をかけあがると、日向はもうそこには居なかった。
きっと最後に荷物を纏めていた方に向かったのかもしれない。
跳子は自分が試合を見ていたギャラリーへ向かおうと逆の方へ足を向けてみると、そこにはナンパに絡まれる清水の姿があった。

(!!)

「ねぇ、いーじゃん!アドレスくらい!あ、それか番号でもいいよ?」
「すみません、もう行かないと…!」
『…ちょっと!やめてください!』
「!跳子!」
「!?」

ズカズカと間に入るように跳子が走り寄ると、派手目な髪を刈り上げた男がヒュウと口を鳴らした。

「こっちの子も可愛いーじゃん!何?知り合い?跳子ちゃんて言うんだ!」
『えっ!?』

より一層目の輝きを増した相手に、案の定跳子も一緒に捕まってしまった。

目的地に弁当箱がなく、戻ってきた日向がその状況を目の当たりにしてギョッとする。

(うわぁああ!ナンパだあああ!しかも怖そな人だあああ!)

田中と西谷が居たら確実に飛びかかっているであろう状況に、日向が一人戸惑ってしまう。

「すみません。人が待ってるので、」
「番号なんてすぐじゃんっ」
『先輩を困らせないでください!』
「いや、俺跳子ちゃんにも聞いてるんだけど?」

(前に主将たちが言ってた!おれらが守らないと!)

決意を決めた日向が清水と跳子の前に滑り込む。

「っヘァーーーーー!!」
「うわああ!?」

その勢いに相手が驚いた隙に、二人の背中を押して逃げようとする。

「すみませんっ!それ俺の弁当箱っ!行きましょう!さぁ速やかに行きましょうっ」
「待て待て。話の途中じゃん?」

しかし相手も引かない。
日向をポイッと投げやって、再び二人の前に立つ。

「日向!」
『日向くんっ』

投げやられた日向を心配するが、すぐにまた飛び上がって間に入る。

「っあのーっ!!」
「!!?」

(なんだ、このバネ…!)

日向の跳躍力に驚いたナンパ男の目に入ったのは、そのTシャツに書かれた"KARASUNO HIGH SCHOOL"の文字。
そして今日の対戦トーナメント表を思い出す。

「ふっ二人はウチの大事なマネージャーなのでっ!あのっそのっ …」
「へぇ。お前らが倒したのか"2m"」
「えっ?あ、ハイ、まぁ…」

突然バレーの話になって、キョトンとする日向。

「あーあ。俺も2mと遊んでみたかったのにな」
「?あそぶ?」
「試合はチョー!楽しいアソビだろ」

日向の疑問に楽しそうに笑って答えた彼らは、IH予選ベスト4に残った条善寺高校バレー部だった。

「―じゃあな。もし代表決定戦であたる事があったら楽しく遊ぼうぜ」

そして日向の頭をポンポン叩くと、そのまま立ち去っていった。

ふぅと三人で息をつく。

「電話番号はもういいのか…良かった…」
「完全に日向に興味が移ったみたいに見えたよ。」
『そうですね。それにしても"試合はアソビ"って…。』
「なんかゴメンね。ありがとね。」
『助かったよー!ありがとう日向くん。』
「ひいえっ」


会場の外で待つ烏野では、田中と西谷がソワソワしていた。

「潔子さんと鈴木、遅くねぇかっ」
「見に行くか!」

(確かに遅いな…。そろそろ迎えに…。)

澤村も同じような思いでいると、中から集団で出てきた連中が、通りすがりに遠慮のない視線を送ってきた。

「んぬぁに見てんだこの、」
「ん゙オ゙フン゙ッ」

すぐさま喧嘩を売りそうな田中と西谷を咳払い一つで止めると、澤村がそのうちの一人と目が合う。

何も言葉は交わしていないが、互いに何か予感めいたものを感じた。
戦いの予感だ。


そして翌8月12日。
伊達工などが勝ち上がり、春高の宮城県代表決定戦全16チームが出揃った。


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