長編、企画 | ナノ

再会に込めた約束


(あ、猫又監督にもお礼を言おう…!)

跳子がそう思って監督を探すと、脇に置いてあるパイプイスに座って、優しい目で生徒たちを見つめている姿が目に入った。

(いらっしゃった!)

声を掛けようと近づいていくが、それに気づかず一足先に武田が猫又に話しかける。

『ね…、』
「猫又先生!」

数メートル先でのやりとりに、跳子は足を止めて少し考える。

(あ…お話すぐ終わるかな?ちょっとだけ待ってみようかな…。)


武田が猫又監督にお辞儀をする。

「あの、今回も呼んで頂いてありがとうございました!…ここに来られたからこその変化もあったみたいです。」
「いやいや!こっちも良い刺激を貰った様だしお互い様だ。」

笑顔で答える猫又監督が、ふっと真剣な顔をする。

「…半年後には−今と同じチームは1つも存在しない。」
「!」
「メンバーの変わった新しいチームになっている。」


聞こえてきた猫又監督の言葉が、跳子の心にも深く響く。

(半年後…そっか。勝ち続けても、半年後には…。)

跳子がふと目を瞑る。
頭ではわかっていることでも、飲み込もうとするにはどうしてもすんなりとはいかない事だった。

大人たち二人の目が、交流を深める3年生たちに向けられる。

「…後悔の残らない試合など知らない。少なくとも俺は。それでも−後悔の無い試合をしてほしいと思うし、そうであるよう力を尽くすしか無いのだろな。」

きっと、猫又はこの葛藤を何度も繰り返してきたのだろう。
選手たちが変わり、そしてまた成長して巣立っていく度に何を思ったのだろう。
武田は猫又の姿を見て、これから自身もその覚悟を背負っていくのだと心に決めた。

そして跳子もまた、強い目で顔を上げる。

(私が先輩のために力を尽くせるのは、春高が最後…。やり尽くそう。私自身が後悔しないためにも。)

決意を胸に、跳子はそっとその場を離れた。


全員でBBQの片づけを済ませると、遠地からきている烏野は一足先に森然高校を後にすることになっている。
出発の時間が迫っていた。
烏野の部員たちは皆自分の荷物を持って、集合場所に集まる。

「…自分が弱いのは嫌だけどさぁ…」
「あ?」
『日向くん?』

歩きながら一人話し始めた日向に、側にいた影山と跳子が反応する。

「自分より"上"がたくさん居るっつーのは、ちょーお わくわくすんなーっ!」
「??」

広い空に向けるように大きな声で言うだけ言って、日向は満足げに歩いて行く。
後にはポカンとした影山と跳子が残された。

『ぷっ。日向くん、スゴイね。』
「…俺には意味がわからん。」
『きっと乗り超える壁や挑む相手が居るのは、自分が成長するチャンスだってわかってるんだよ。影山くんも言葉ではわからなくても本能でわかってると思うよ。』
「!そういうことか…。」


集合場所で一度荷物を降ろし、最後に色々と確認している時に、音駒のメンバーが跳子の元に集まる。

「跳子ちゃん。」
『黒尾さん、皆さん!あの、1週間本当に、』
「ストップ!」
『!?』

お礼を口にしようとした跳子を黒尾が制する。
そしてわけがわからないままの跳子の目の前に、音駒の皆がずらりと並んだ。

「オラ、整列!あー跳子ちゃん、色々とサポートしてもらって、一週間本当にありがとうございました!」
「「「あざーっす!!」」」
『えっそんなっ!』

ピシっとお辞儀をする音駒を見て焦りながら、跳子は泣きそうな顔で「こちらこそありがとうございました」とお辞儀を返す。
揃って顔をあげた音駒メンバーが少し涙目の跳子を見て、ニッと笑った。
一歩前に出ていた黒尾が跳子の頭をポンと叩く。

「とか言いつつ、次もよろしくな。」
『ハイ!』

元気な返事を聞いた黒尾が、跳子の頭をそのまま撫でて笑う。

「まぁプールでまさかのビキニが見れたり、今回は色々とお得感も満載だったわ。」
『黒尾さん!もう!なんで最後にそういう事言うんですかっ!』
「…今度はプライベートでも東京来いよ。二人っきりで色々案内してやるから。」
『?ありがとうございます。』

解散した整列の中から、怪訝な顔をした研磨が二人の側に来る。

「クロ…。目が気持ち悪いからやめなよ。」
「なんだよ研磨。…お前らも随分と仲良くなったよなぁ。」
『研磨さんとは人見知り仲間ですもんねっ。』
「…。鈴木さんのソレと一緒にされたくないんだけど…。」
『えっ。(ガーン)』
「…ウソだよ。今度一緒にゲームしようね。連絡する。」
『ハイ!』


出発の準備が整い、烏野高校が見送りに来てくれたライバルたちを振り返る。

「−じゃあ、またな。」
「おぅ、また。」

たった一言の再会の誓い。
それは言葉に出さずとも交わされる、勝利の約束。

次に皆でここに来るのは、一次予選の後。

ライバルたちに見守られ引き締まる思いを胸に、烏たちは東を発つ。


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