長編、企画 | ナノ

自慢の親友と気になるいとこ


※U&Iの夢主の友人側からの視点になりますので、名前変換はその友人に適用されます。
 U&Iの夢主は名前は出ないようになっています。


恋愛ごとに関しては天邪鬼な親友が、とうとう及川くんとつきあい始めた。
いくら口や態度で否定していても逆にわかりやすく顔に出てしまう彼女は、その関係に未だに慣れないようで。
前からガンガン来られていたのに、逆にそれを冗談と思い込んで進展のなかった彼女たちの状況は、近くで見ていてすっごくもどかしかった。
だからこのおつきあい自体は、私としてもすごく喜ばしいんだけど…。

「あーっいた!一緒にご飯食べようー!」
「ちょ、及川。私は跳子ちゃんと…、」

及川くんにズルズルと引きずられていく友人の声が、だんだんと小さくなっていく。
何か言おうと開いた私の口は、役立たずのままため息だけを吐いた。

ようやく素直になった彼女に対する及川くんの溢れる愛が留まるところを知らないようで、こうして一緒にいる時でも拉致されてしまうことが多くなった。
彼らが部活を引退したということもあって、朝昼夕と時間を問わずに及川くんはやってくる。

…まぁ結局彼女に怒られた及川くんがしぶしぶ諦めて、皆で一緒に食べることになるんだろうけど。
それがわかってるから、無駄な抵抗だなぁなんて思いつつ、きっとそれも楽しんでいるんだろうと思い直す。
ちくしょう、ちょっと羨ましいじゃんか。

とりあえずいつもの場所である屋上に向かうかと足を反対に向けると、苦笑いを浮かべた花巻くんがすぐ側までやってきていた。

「はぁ…。いつも悪いな。鈴木さん。」
『あ、花巻くん。』
「及川が浮かれんのもわかるけど、迷惑だよなぁ。」

同意を求める彼の言葉に、私は曖昧に笑って返す。

そう、結局その及川くんの行動によって、私は必然的に岩泉くんや松川くん、そして…この花巻くんとの関わりも増えた。
迷惑そうな彼には申し訳ないけど、ほんのちょっとラッキーなんて思ってしまうから、私は及川くんに対して強く出る気にはなれないのだ。

でも別に好きってわけじゃない。
バレー姿を見てちょっとかっこいいなって思ったり、親友のいとこというだけに話す機会もちょこちょこあって、優しい人だなぁなんて思ったり。

最近では、キレイにお弁当を食べる姿とか、柔らかそうな短い髪とか、色っぽいのに甘いものを食べると子供のように笑うところとか。

いや、だから、好きってわけじゃない。
だけど、そういうちょっとした瞬間が積み重なって、何となく気になるなぁーなんて。
…まぁそんな言い訳しちゃうあたり私も素直じゃないのかもしれないけど。

でも多分、自分で気持ちにブレーキをかけていたのは、花巻くんと親友とのやりとりを間近で見ていたからだと思う。
なんというか、二人はやっぱり特別な感じがしたから、好きになっちゃいけないって心のどこかで思ってたんだろう。
仲が良いのはいとこだから、という理由でくくっていいのか私にはよくわからなかった。

だから今回及川くんと付き合い始めたと彼女から聞いた時、「おめでとう!」の言葉の次に思い浮かんだのは、花巻くんの顔だった。

花巻くんは大丈夫なんだろうか。


「まぁどうせいつもんとこに二人で来んだろ。岩泉も松川も今日は買い弁だから先いっとこーぜ。」

進む先を指で示す花巻くんに、コクリと頷きで返した。
色々と関わりが増えても、こうして二人になることは滅多にない。
「そろそろ屋上も限界だよなー」なんて話しながら
そのまま目的地へ続く階段に並んで足をかける。
ちらりと見やった花巻くんのキレイな横顔に、ふと何度も聞こうとして飲み込んだ言葉をぶつけてみようと思った。

『花巻くん。』
「ん?」
『…ちょっと聞いてもいい?』

一瞬私の方を見て目を見開いた花巻くんが、「事前にそう予防線はられる時って、あんまりよくない話題だったりするよなぁ」と眉根をさげるようにして小さく笑った。

「んで。何ですかね?」

あがりきった階段のてっぺんで、手すりに腰掛けるように寄りかかった花巻くんが、私の目を真っ直ぐ見た。
それに心臓が大きくドキリと高鳴る。
いざ聞くとなったら一瞬躊躇してしまうが、気づけばそのまま口が動いていた。

『んと…。余計なお世話だってわかってるんだけど、大丈夫かなって思って。』
「…。」

花巻くんの目を見返しながらそう口にすると、顔がカーッと熱くなっていくのを感じた。
本当に、余計なお世話だ。
自分では心配してるつもりだったけど、言葉にしてみればただの野次馬根性まる出しのように思えた。

『あの、ごめんなさい、本当に。』

焦っていく私の心を宥めるように、花巻くんがふっと柔らかく目を細めた。

「鈴木さん焦りすぎ。目がぐるぐるしてんだけど。」

その言葉に少しだけ息をついて、改めて彼の目を恐る恐る見やる。
少し迷ったように目を伏せてから、花巻くんがもう一度私を見つめ返した。

「…心配かけてごめんな。」
『え、あ、うん。』
「ま、実際のところ、自分で思ってたよりも大丈夫だわ。」
『そう、なんだ。』

微妙な沈黙が流れ、私は意味もなく指先をくるくるとまわした。
"自分で思ってたよりも大丈夫"と言うのは、すごく微妙なところじゃないだろうか。
けど、これ以上聞く術も持たない私は、もう一度口元で「そっか」と呟くだけで精一杯だった。

「−鈴木さん。」

また少し静かな間があって、花巻くんがふと、私の名前を呼んだ。
いつの間にか指先を見つめていた私は少しビックリして顔をあげると、目の前にあった誰のものかわからない椅子を手で示した。

「とりあえず、座る?」
『う、うん。』

このままここに居て、話していてもいいという事だろうか。
言われるがままに椅子に腰かけると、離れて置いてあったもう一つをガタガタと引っ張ってきて私達は向かい合わせになる。
屋上前のスペースを陣取って、何やってるんだろう。

「誰にも言ったことねーんだけど、この際ぶっちゃけとくか。」

独り言を言うように花巻くんが小さく笑った。
私は何故か胸が詰まったように感じてしまって、ギュと堪えるようにスカートを握る。

「…確かにアイツらが実際に付き合い始めた時には、なんかこう、モヤーっとはしたわ。」

ボソリと呟いた彼の言葉は、その口調よりもずっと重い気がした。

「とはいえ、両想いなのはずっと前から知ってたしな。ウザったいから早くくっつけとも思ってた。」
『…うん。』
「アイツのこと、好きは好きだったよ。そりゃ今でも変わらねーわ。」

照れくさいのか、言いながら花巻くんが頭を掻いた。
私はなんて言ったらいいのかわからなくて、曖昧な表情を浮かべる。

「でもやっぱどっちかって言うと、家族愛とかそういう感じだと思うんだよな。手がかかる生意気な妹って感じ。」
『…い、もうと?』
「そ。妹。どう見たって俺のが上だろ?」

ニッと歯を見せて笑う花巻くんの予想と違う答えに、私は思わず肩の力が抜ける。
笑い返すこともできずにいると、チラリと花巻くんが時計に目をやり「そろそろアイツらも来んべ」と呟いてから立ち上がった。

「ま、要は幸せになってくれさえすりゃいいし、及川なら守ってやれんだろ。−だから、大丈夫。」
『うん、それなら、よかった。』
「鈴木さんの質問の返しに、色々ウダウダ言って悪いね。これで答えになってっかな。」
『や、もちろん。むしろこっちこそ聞き出すような真似してごめんね。でも安心した。』

彼に続くように慌てて立ち上がりながらそう言えば、顔だけ振り向いた花巻くんが声を出して笑う。

「ハハッ、じゃあ大丈夫じゃないって言ってたら鈴木さん、なぐさめてくれんの?」
『え?』
「もちろん、そういう意味で。」

ニヤリと悪そうな微笑みと共に覗き込まれる。
なんだか妙な色気に充てられて、変な汗をかいてしまいそう。
そう思いながらも、私は思わずコクリと頷いていて、花巻くんが面食らったような顔をした。

「えっと…、マジ?」
『え、あ。』
「あー…。」

やらかしてしまった自分の答えにいよいよ冷たい汗をかく。
どうしよう。こんなことまで伝えるつもりはなかったのに。
怖くて顔をあげられずにいると、困ったような声をあげていた花巻くんが「ん」と何かを決めたように頷く。

「どうなるかなんてわからねーけど。とりあえず今度、勉強教えてくんね?」

今度はこちらが驚いて顔をあげる。
少しの赤くなった頬をポリポリと掻きながら、「引退したら思ったよりやべーんだわ」と照れくさそうに花巻くんがそう続けた。

うん、確かにどうなるかなんてわからない。
だからここから少し頑張ってみようか、なんて思いながら、私は「うん!」とニッコリと笑った。

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