長編、企画 | ナノ

【番外】(マネ抜き)緊急ミーティング



それはまだ、GW合宿が始まる前…

「おつかれ様っしたー!」
「あ、オイ、みんなちょっと帰るの待ってくれ。」

練習を終えいつも通り帰ろうとする部員たちを、澤村が後ろから引き留めた。

「男子バレーボール部、緊急ミーティング(マネージャーを除く)を開催するぞ!」
「???」


「えー、この度、我がバレー部に新しいマネージャーとして鈴木が入部してくれた。これは大変喜ばしいことである。が、ただ一点問題、というかなんというか…。」

3年生3人が神妙な顔で前に立ち、代表して澤村が話し始める。
喜ばしいのはみんな同じ気持ちだ。
跳子が入部して数日、すでに彼女はバレー部の大事な仲間の一員となっており、そこには何も問題などないように思える。

「えー、2年は覚えていると思うが…。清水が入部した時と同じことが起こる可能性が高い。」
「!」

途端に2年生は合点がいったような顔になるが、1年生はますます疑問を深めた。

「すでにすごい速さで、鈴木がうちに入部したことは広まっている。」
「あの…いまいち意味が…。」
「えー、つまりだな。お前らはしばらくの間、全校男子生徒から"鈴木を紹介しろ"だの"協力しろ"だの言われると思う。まずそういうことは安請け合いはするな。要するに…みんなで鈴木を守れってことだ。」

話を聞いた月島が、なんだそんなことかとでも言いたげに首をふる。

「全校男子生徒ってそんな大げさな…。」
「甘い!お前らは清水が入学した時のことを知らないだろう。同学年だけでなく、上級生たちにもちょっとした清水フィーバーが起きていたんだ。今回、鈴木が入学した時も同じような状態が起きている。それがまたもやバレー部に入部とあって、特に俺らの学年の男子は少々殺気立った目をしているんだぞ!」
「清水先輩が入部した時にもそんな騒ぎに…?」

山口が恐る恐る口に出すと、2・3年は揃って深く頷いた。
そして当時のことを思い出し、遠い目をしながらしみじみと語りだした。

「あの時は大変だったよなぁ…。最初はやっかまれる程度で済んでたが、紹介だなんだ言われてからがスゴかった…。」
「あぁ。土下座に脅しに泣き落とし…。そのうちに全然知らないヤツが"俺の友達"として清水に話しかけてたな…。」
「隙あらば"バレー部のやつからの伝言"とか言って、部活が休みになったと嘘ついてデートに誘ったり、外練習になったとかで外連れ出そうとしたり…。」
「アイツらまじぶっ飛ばしてやればよかったんスよ!な、ノヤっさん!」
「おぉ!龍!今でも許せねぇ!」
「…とあげくの果てにコイツらが暴力行為に出そうになるのを止めたりな。」
「「うっ」」

田中と西谷が押し黙ると、澤村がため息を吐いて続けた。

「まぁ、実際には事態はそれなりに早く収束したんだ。なんといっても清水自身だな。アイツには特殊スキル【ガン無視】がある。そういうヤツらに対して、隙を見せず与えず、自ら寄せ付けないようにしたんだ。」

おぉ、清水先輩かっこいー!と日向が目をキラキラさせる。
対照的に何かに思い当たったように月島が顔をゆがめた。

「ただし鈴木にはそれは期待できない。何故ならば…、」

言いながら澤村は昨日の帰り道のことを思い出した。



−いいか鈴木。今後変なのが近寄ってくるかもしれないし、あまりむやみやたらに仲良くしちゃいけません。−

−えー。なんでみんなと仲良くしちゃダメなんですか?−

−うっ…それは…。男はみんなオオカミと昔から言われてて、だな−

−…??あっ!そうか!私をダシに潔子先輩に近づこうとする輩がいるかもしれないですもんね!任せてください!私、潔子先輩のこと守ります!−

−…はぁ、もうそれでいーよ…−

−あれ?違いました…?−

−あのな、確かに清水も大事なマネージャーだけどな。俺はね、お前のことも心配してるんだぞ!−

−あ、ありがとうございます!でも私なんて大丈夫ですよ〜(笑)−



絶望感すら漂う無自覚さだった。
眉間に皺を寄せて一瞬黙る鬼主将の姿に、ゴクリ、と部員が雷が落ちるのを待つかのように唾を飲み込んだ。

「…何故ならばアイツは、"自己評価"および"自己防衛能力"が著しく低い!!!」

(大地、ハッキリ言いおったー!)

息荒く呼吸をする澤村をなだめる菅原に、日向がキョトンと質問をする。

「じこぼーえーのーりょくってなんですか?」
「んー簡単に言うと、"自分自身を、害あるモノから守る力"って感じだな。例えば、田中が清水に飛びつくのをよく見るだろ?清水は自己防衛能力が高いから、避けたり平手打ちで撃退できる。ただ跳子ちゃんの場合は、その能力が低いからそのまま抱きつかれちゃうってことだ。」
「…田中センパイ…。」
「うぉい!日向、なんだそのジトっとした目は!実際やったわけじゃねーだろが!!」

思わぬ流れ弾と日向の目線に、田中が落ち込む。澤村はそれをシカトして続けた。

「これはあくまで俺の予想なんだが…。鈴木は、今までそんな能力が必要がないくらいに誰かに守られてきた可能性がある。しかし鈴木も人見知りすると言っていたから大丈夫だと思うが、まぁちょっと気にしてやってくれ。」

部員の顔をぐるっと見まわすと、ふとゆがめた顔のままの月島に気付いた。

「どうした?月島。」
「!」
「何か鈴木のことで言いたいことでもあるのか?」
「…いえ、ただこの間、鈴木と仲のいい女子から聞いた話を思い出しただけで…。」

すると山口も思い出したように口にする!

「あぁ、佐藤さんと高梨さん!そういえば確か…、」


−あの子自分では人見知りとよく言うけど、一度顔を合わせちゃえばもう全然大丈夫だし、しかも初対面でも確かに緊張はしてるけど、気を使うからかむしろたくさんしゃべるわよね。なんていうのか「社交的な人見知り」って感じ?−

−そうそう!特に知り合いかも、と思うと性格上無下にできないみたいで、知ってる風に近寄ってきたナンパとかにひっかかってて、待ち合わせとかもヒヤヒヤするのよね。−

−初対面でも見た目では判断しないせいか、強面とかは全然平気だしね。−


「…とか言ってました。」
「そう言えば、旭や田中にも最初から怖がる様子は見せなかったな…。」

思い当たるそんな事実に、その友人とやらの言葉の真実味が増してしまった。


「…はぁ、最悪だ…!!」


烏野高校男子バレーボール部の悩みは、まだまだつきそうにない−


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