●●●GWは合宿です
とうとうGW合宿です!
数日前に合宿の話を聞いてから、なんだか修学旅行みたい!とウキウキしてました。
でも残念ながら、潔子先輩は泊まらずに通いで来るそうです。
一緒にお泊りできると思ったのにな、と思いながらも自分としては参加する気マンマンで、日向くんとかと夜食べるお菓子のこととか話し合っていたら…。
「女の子ひとりで泊まらせるわけないだろう。」
背後から言われたその一言で、私の夢は潰えました…!
澤村先輩、ひどいです…!
でもその時の先輩の笑顔が怖かったから、何も言えませんでした…。
とは言え、通常の練習よりとても濃い練習ができるし、マネージャーとしても普段より大忙しです。
洗濯物は多いし、加えて朝昼晩の食事の準備もあります。
武田先生の料理の腕前にはビックリしました…!
合宿最終日には、宿敵ネコこと音駒高校との練習試合を控え、みんなの士気も最高潮です!
「昼〜!!」
体育館に澤村の声が響き渡った。
午前中の練習を終えて、みんなが食堂へとぞろぞろ移動する。
そんなみんなの後姿を見送りながら、烏養と武田がスタメンについて話し合っていた。
「セッターに…迷う…。」
「……!」
実力で言えば、天才・影山。
しかし菅原は3年、高校最後の年で今まで築いた信頼関係がある。
何よりも烏養は自分の高校時代を思い出し、選手側の気持ちを捨てきれずにいた。
そのまま何となしに二人で話し合っていると、体育館にヒョコっと跳子が顔を出した。
『先生、コーチ。もうみんな食堂に揃ってますよ?』
「鈴木…。」
『どうかしました?』
「…鈴木、お前はセッターについてどう思う。」
『!』
「厳しいことを聞いていると思うが、一つの意見として聞きたい。」
『……。』
跳子は、少し考えるような素振りをしていたが、一つ頷いて顔をあげ、真剣な目で二人を見据えた。
"ここ数日間での練習を見た限りの、あくまで個人的意見ですが、"と前置きをして話し始めた。
『影山くんは努力する天才、です。さらにボールに対して、そしてコートやセッターに対しての執着も相当強いです。強気でストイック。それが強すぎて少し人間関係が心配なところはありますが、ここは懐の深い先輩たちが多くて、彼にとってはよかったと思います。』
「…そうだな。」
『でもスガ先輩も素晴らしいと思います。特に旭先輩との連携はピカイチです。エースが打ちやすい球を丁寧に送る…理想のセッターだと思います。ただ…生意気なことを言うようですが、なんというか、まっすぐで、勝負に勝ち抜くための"ずるさ"がないな、と思います。』
「ずるさ、か…。」
『ただ逆を返せば、それがスガ先輩の強みでもあると思います。正反対のタイプのセッターがいる。これは立派な烏野の武器です。コーチがどちらを正セッターに選んでも、スタメンだけが烏野の強さの全てではないと私は思います。たとえ影山くんをスタメンにしても、相手や状況によっては、スガ先輩のストレートな強さが、最強の武器になることだってあると思います。』
"みんなちゃんとわかっています。だから、自信を持ってください−"、か。
自販機でコーヒーを買いながら、烏養は昼間に話した跳子の言葉を思い返す。
(ちくしょう高1の女の子になぐさめられちまったか―)
「烏養さん。」
烏養が呼ばれて振り向くと、真剣な面持ちの菅原が立っていた。
「俺ら3年には"来年"がないです。」
「!……。」
「だから、一つでも多く勝ちたいです。」
「…。」
「それができるのが俺より影山なら、迷わず影山を選ぶべきだと思います。」
「!!」
その二人の会話を、澤村と東峰が聞いていた。
先ほど菅原から直接聞いた、彼の揺るぎない決意だった。
「菅原、」
(すごいよ、お前らは。)
跳子からも菅原からも直接背中を押され、烏養にもまた新たな決意が生まれる。
「俺はまだ指導者として未熟だが、お前らが勝ち進むために俺にできることは全部やろう。」
「!お願いします!」
澤村の、そして東峰の心にもそれは静かに響いた。
「気合いいれんぞ。一回でも多く勝つ。」
「おぉ。」
ご飯を食べ終わると、みんな順番にお風呂に入る時間だ。
その時間に、跳子は澤村に送ってもらうことになっていた。
大分日が長くなったとはいえ、この時間はもうすっかり暗い。
角にある街灯が、ジジジッという音を立てながらパッと消えた。
『…スガ先輩は、強いですね。』
「!…あぁ。アイツは本当に強くなった。」
『みんな、強いです。烏野は強いです。そしてまだ強くなれます。』
「あぁ。まずは、宿敵・ネコとの対戦だな。」
そして音駒高校との対決の日がやってくる−
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