長編、企画 | ナノ

天然というか野生というか


影山くんの方にくるりと振り向き、私は背の高い彼の顔を見上げた。

『影山くん、私でよければ案内するけど、ご一緒してもいいかな?』
「あ、いいんですか。あざす。」
『文化祭のパンフレットは見た?どこか気になるところある?』
「とりあえず跳子さんのクラスが見たいッス。」
『うちのクラス?ってここなんだけど。フリマやってるんだー。』

コクリと縦に大きく頷く影山くんを連れて、私は先ほど出てきた扉をもう一度開けた。
「いらっしゃいませー」とクラスメイトたちの声が響く。

「あれ?跳子ちゃんどうしたの?休憩は?」
「あ、男の子連れてる!!」

クラスの女の子たちのそんな声に反応したのか、及川くんがこちらを見たのが視界に入った。
そしてそんな及川くんの表情が途端に一変する。

「あっ、飛雄?!」
「げ、及川さん…!」
『えっ?二人、知り合いなの?』
「それはこっちの台詞だよ、跳子ちゃん!何で飛雄といるの?!」

大きな声を出して驚いた及川くんが、「ごめん、後輩なんだ」と謝って女の子の輪から抜け出してきた。
そのまま何となく三人で洋服を見ながら話し込む。

『−そういえば影山くん、バレーやってるって言ってたもんね。それにしても及川くんたちの中学の後輩だとは知らなかったなぁ。』
「…ウス。」
「俺からしたら二人が一緒に居る方がビックリだよ。どういう知り合いなのさ。」

知り合いと言っても実はそんなに知ってる事が多いわけじゃないんだけど。
そう思いながら、影山くんとの出会いと再会についてざっくりと説明する。

「へぇ。じゃ飛雄ちゃん、跳子ちゃんに二回目に会った時、変身ぶりに驚いたでしょ。」
「変身、スか?いや別に。」
『そういえば影山くん、すぐわかったよね。』

及川くんに言われたことを確認するかのように影山くんからまじまじと顔を見つめられ、恥ずかしくなって誤魔化すように笑ってみる。
そんな影山くんの言葉に、及川くんがフフンと得意気に鼻を鳴らした。

「ダメだなぁ飛雄ちゃんは!こんなに大変身したんだから気付いてあげないと!女の子はショックだよ!」
「?はぁ。確かに髪切ってスッキリしたとは思いますけど。」
「それだけ??」
「??何がスか?だって基本は変わってないですよね。俺が会った跳子さんのままです。」
『!!』

及川くんのように前よりもよくなったよ、と褒めてもらえるのももちろん嬉しいけど、実は気付いてもらえるのも嬉しかったりする。
岩泉くんもそうだったように。
確かに中身は私のままだから、内面を見てくれているような気がしてしまうのだ。

相変わらず見つめてくる影山くんの方にチラリと視線を向けてみれば、何故か彼が真剣な顔のまま一つ頷いた。

「…あ、でも確かに跳子さん、ちょっと変わったかもしれないですね。笑顔がなんつーか、キレイっす。」
『えっ!あ、りがとう、影山くん…。』
「あれ?!もしかして俺、女心理解度飛雄ちゃんに負けてる?!」

及川くんの言葉に首を傾げる影山くんは、多分自分がスゴい事を言ったという事実に気付いていないんだと思う。
なんとなく熱くなった顔を横に逸らせば、いつの間にやら怖い笑顔をしたクラス委員の子が腕を組んで立っていた。

「及川…!サボってないで持ち場に戻りなさいよ。」
「げ。委員長。…ごめんねー、可愛い後輩が来ててどうしても話したいって言うからサー。」
「いや、言ってないッス。」
『うん。言ってないよね。』
「ヒドイ!跳子ちゃんまで!」

ズルズルと首根っこを引っ張られるように持ち場に戻っていく及川くんに手を振って、私は影山くんと顔を見合わせた。

『さて、と。何か気に入ったのあった?』
「そっすね…。跳子さんのオススメとかありますか?」
『うーん。影山くんの私服…が想像つかないな。今日もそうだけど、基本休日もバレーやっててジャージってイメージ。』

当然だとでも言うように素直に頷く影山くんを見て、私はつい笑ってしまった。
そして目についたあるTシャツを広げて見せる。

『じゃあむしろTシャツとか!これとかどう?"ド根性"達筆Tシャツ!』

岩泉くんが持ってきた時に思わず二度見してしまったその一品を冗談半分で薦めてみれば、影山くんが初めて見る興奮したような顔で目を輝かせた。

「…それカッコイイっすね!」
『えっ。』

いそいそとそれを購入する影山くんを見て、私はふとした考えが頭を過った。

−そうか。
影山くんて何となく岩泉くんに似ている気がするんだ。


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