長編、企画 | ナノ

夏休みの自由研究


※菅原視点


この夏の俺の研究観察対象は、うちの部の主将と1年生マネージャーの一人だ。
はたから見れば双方の気持ちはバレバレであるというのに、本人たちはお互いに全く気付かないまま、しかし無意識にいちゃついているのだ。
どちらも頭はいいハズなんだが、どうにも鈍いというか…。
俺としては大変に興味深い生態である。

「…スガ、なんか口調おかしいけど…。」

…旭、うるさい。ノッてこい。


今日も部活が終わると、気が付けば二人は何となく一緒にいる。
部活中は主将として、マネージャーとしてすごくしっかりしているだけに、こんな風に油断した二人を見るのはとても微笑ましかった。…最初は。
最近は随分といちゃつきに度が増したように思え、一人身の俺らとしては目に毒というか、もはや体に毒な気がする。

そんな姿を見てまず気付いたのは、大地は好きな子の頭をなでるのが癖だということだ。

「お前は…仕方ないな。」

そうそう、あんな風に。
すると跳子ちゃんがものすごく安心したように、ふにゃんと笑う。
しかし最近はそれが少し悔しいのか、僅かながらに抵抗してみることもある。

『澤村先輩はすぐそうやって…!子供扱いしないでくださいっ』
「子供扱いなんてしてないぞ?」
『だってすぐに子供にするように頭を撫でるじゃないですか!』
「あぁすまん。なんか触れたくなるんだよな。」
『え…!』

…どうやら無駄な抵抗だったようだ。
大地の言葉に真っ赤になった跳子ちゃんが、直立不動のまま動かない。

「?鈴木?ずいぶんと顔が赤いが…っもしかして熱あるんじゃないか!?」

すると慌てた大地が跳子ちゃんのおでこにコツンと自分のおでこを当てた。

『…!!!』
「うわっ!熱いぞ鈴木!大丈夫か!?」

(いやぜってー違うから。確実にお前のせいだから。)

さすがにコレは見ていられない。
目をそらすと、二人のすぐそばで直撃を食らった田中と西谷が固まっているのが見えた。

「はぁ…大地も天然だよな〜。自然とあーゆーことしちゃうあたり。」

俺は隣にいる旭と清水にボソリと言う。
まぁ大地も無意識の行為なので、自分がしている事を自覚した途端焦るんだろうけど。

「うわっ!鈴木!すまん!」

…ほらな。

そんなことを考えていたら、旭がハハハと力なく笑いながら答える。

「…スガも結構できそうだよな、あーゆーの。」
「は!?んなわけないべ?」
「…うん。でもスガは確信犯。」
「清水まで!!」

…なんだよ、とばっちりかよ!

まぁそれはさておき、こんな風に大地が優勢な時もあれば、完全に跳子ちゃんが圧勝な時もある。
というかその方が確実に多い。
あの子は、なんというか隙があるというか、警戒心がないというか…。

『もう、急にちょっと恥ずかしかったです…。』
「悪い。心配だったもんでつい…。」

謝りながら大地が跳子ちゃんの乱れてしまった前髪を直す。
その時かすめた大地の指に何を思ったのか、跳子ちゃんが大地の手を握って熱くなった自分のほっぺたに当てた。

『…あ〜澤村先輩の手、冷たくて気持ちいー…。』
「!!!」

形勢逆転ってヤツだべな。

さっき固まってたはずの田中と西谷はすでに倒れて息も絶え絶えだ。
旭もあわあわと両目を隠しているが、それは隙間から見えてるだろう。

普通あんなことされたら男としてはもうこうガバッと行ってしまいたくなると思うんだが、そんな時にグっと堪えてる大地を見ると、ある意味尊敬もんだと思うわけで。
それでも人質にとられている右手とは逆の、フリーな左手が不自然に上下している。
きっと跳子ちゃんの背中に腕をまわすかまわすまいかの葛藤が見てとれた。

(…体に一番毒なのは大地なのかもしれないな…。)

俺はこちらの視線に気づいてさらに赤面する大地に向かって、神妙に合掌してやった。


リクエストありがとうございました!
いちゃこらって難しいですね…!


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