十.鉄拳バリケード

勢い良くドアを閉めると、鬼灯は眼前に立つ神獣、白澤を睨みつけた。
彼はへらりと軽薄に笑い腕を組んで呆れ半分の嫌味を言う。

「何、ドアってそんな開け閉めの仕方あるんだ」
「…とっとと薬を渡して下さい」
「はぁ!?届けに来てやったのになんだよその言い草は。元はと言えばお前が僕に頼んでた生薬だろッ!」

白澤は鬼灯の前に小さな袋を突き出す。
鬼灯は乱暴にそれをもぎ取ると、中身を確認し懐にしまった。

「ありがとうございます」
「あ、お礼ならさ、この奥にいる女の子にあわせてよ」
「いませんよ、女性なんて。貴方みたいに連れ込んだりしませんから」

鬼灯は能面のまましゃあしゃあと嘘を吐いた。
しかし白澤も負けてはいない。自信たっぷりに胸を張りドアを指差す。

「いやいやいるだろ?わかるもん」
「………………貴方温度感知センサーでも取り付けてるんですか?」
「んーん、長年の勘だよ。ていうかその口ぶりはいるっぽいね。お邪魔しまー…」
「ソイヤッ!」
「ゴフッ!?」

白澤の手がドアノブに触れるか触れないかの一瞬で鬼灯の右ストレートが白澤の腹に見舞われる。
呆気なく白澤は床に倒れ、鬼灯は右手の甲を左手で払った。

「桃源郷まで送り届けてあげますから、これでチャラですよ。」

気絶した白澤にそう言い放ち、彼の白衣の襟を掴んで引きずりながら歩いていく。

「………ふう」

珍しい鬼灯のため息は、誰に聞かれることも無く空に消えていった。


「あ、おかえりなさい」

小一時間後、部屋へ戻ると名前が鬼灯を出迎えた。

「遅かったですね。そういえば白澤さんは…」
「ああ…急な腹痛で苦しんでいらしたので送り届けてきました」

鬼灯は部屋へ入るとベッドに腰掛けて隣を叩く。
座りなさいと言いたいのが名前にも伝わったらしくぱたぱたと小走りに来て彼女は隣に座る。
警戒心も学習能力も全く無い彼女の姿を見て鬼灯は馬鹿だなあと思いつつ話を始めた。

「良いですか。先程電話をかけてきた白澤と言う男は中国の神獣の一種です。神の獣とかいて神獣です」
「え、じゃああの人神様…!?」
「しかし。神は神でもアイツほど軽薄で極楽蜻蛉で色狂いの神はいません。その恐ろしさと言ったら…もう触っただけで性病モノです」
「せ、せいびょう!?」

「ヒエッ…」と声を漏らす名前の顔色は青くなる。見ただけでも彼女の中の白澤像が最低ラインに達しているのが分かり、鬼灯は心中でほくそ笑む。

「はい。ですから絶対に近寄ってはいけませんよ。今日はたまたま私が戻って来たので良かったですが、今度からは必ず連絡を下さい」
「連絡………あっ。」

名前はテーブルの上に置いてある自分の鞄の中を漁る。
戻って来た時、その手には携帯電話が握られていた。

「これ!使えますかね?」

意気揚々と名前は携帯電話を開く。

「………………」
「………………」
「………電波が立たない…」
「別に契約変更したら大丈夫なんじゃないですか?」
「…えっ、そんな簡単なもんなんですか?」
「まァ、この機種地獄にもありますし」
「………え、ええ〜…そうなんですか………」

今夜は着物と携帯電話の買い物ですね。じゃあ行ってきますと鬼灯は言い、名前に手を振って部屋を出ていった。
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