私を愛してみませんか
昼休憩も終わりかけ、食堂の人影はまばらだ。
時間いっぱいまで粘ろうとした私は、愛読している雑誌のある記事に目をつけた。
“あなたの身近に素敵な男性がいたとします。”
「ほう?」
“その人は顔が良くて背も高いです。さらに頭脳明晰で力持ち、運動神経は抜群。職場での地位もトップクラスです。年収も当然高い。”
「名前さん、何読んでるのー?昼休憩終わっちゃうよぉ」
「雑誌。ごめんだけど撫でんのちょっと待ってねー」
「うん!俺待つよ!忠犬だからね!」
“そんな男性がいたら、あなたはどうしますか?”
「結婚する!」
「「即決!?」」
私の肩から雑誌を覗き込んでいた柿助くんとルリオくんから切れ味抜群のツッコミをいただいた。
はははー婚活女ナメんなよー。
「でもそんな人いる?」
首をかしげて尋ねるシロくん。
言われてみればと、職場の殿方をあらかた思い浮かべてみたが、アホまっしぐらの発明家やチェリー臭漂う美少女アニメオタクに筋肉バカの一夫多妻警察官、八寒のちょっとアレな雪鬼、わりと極端でウブな地獄のチップとデール。
やっぱり世の中そんな完璧な人はいないか、と机に頬をくっつけているとある人の顔を思い出した。
「あー…白澤様…?」
「でも言っちゃ悪いけど、あの人だらしないぜ」
「特にメスね。あの人昼間でもほんとメス臭いんだよ〜」
あんたら桃太郎(ボス)の上司なのに遠慮ないな。
でもそうだよね、浮気しない人がいいなあ。
「他には?」
「えー、もういないんじゃない?」
それもそうかー、そんな完璧な男性が何人も身近にいるわけがない。
少ないからこその価値だよなー。
「私がいるでしょう」
後ろから聞こえてきた良い声に椅子から飛び上がりそうなくらい驚いた。
「ほ、ほほッ、鬼灯ッ…」
「ほら、そこの桃太郎ブラザーズは油を売ってないでさっさと仕事に戻る」
「はぁ〜い……」
渋々と鬼灯の言うことを聞いて帰っていく三匹。それを見送る暇も与えず鬼灯が突然手を握ってきた。
「大体貴女はね、選り好みが過ぎるんです。身近にいるでしょう“顔も良く背も高くて頭脳明晰で力持ちで運動神経抜群で地位もあり高収入”の素敵な男性が。……で?結婚、してくれるんですか?」
「自分で言うなよ…聞いてたの?」
「実は一連のやり取りを聞いてしまいまして。どうなんです、結婚してくれるんですか?」
「いやいやいやいや」
「私は貴女と結婚したいんですけどね」
「…冗談きつい」
「冗談ではないしきつくもありません。」
「………ごめん、私仕事戻り…」
「逃げるな。待ちなさい。……!」
察してくれよ、顔赤いでしょ
「仕事戻らして」
「…駄目です」
言葉のとおり、この後この馬鹿鬼は私を抱きしめて離さなかった。
title:icy
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