企画
三千世界の鴉を殺し
朝になるといつの間にかジュダルは消える。
澄みきった部屋の空気は少しだけ冷たくて淋しさを誘うから、私は朝が嫌いだ。

この城の住人は日が上っているうちは誰も私に会いには来ない。来るのは世話係の女性と男性の二人組のみで彼らは物も言わずに食事や着替えの用意だけをしていく。

そんなとき、私は考える。
朝目覚めると隣にジュダルがいて、眠たそうに薄目を開けて私を見る。それから、もう一度彼の腕の中でぼんやりと微睡に浸る幸せな朝を。

空想の世界は私に優しい。何もかもが思い通りで、一度も出たことのない部屋の外の世界を駆け回る夢を見るのだ。


不公平だよな、他人のシアワセの代わりにお前がフシアワセになるなんてよ。

ジュダルが楽しそうに笑って私に初めて口付けをしたときのことを思い出した。

少し前までは、自分一人の犠牲で多くの人が救われるのならそれも良いかも知れないと思っていた。
けれど、ジュダルが私に淋しさや愛しさを与えてしまった。

それは私にとってはとても不幸な出来事だ。

淋しさも愛しさも知らなければこんなにも昇る朝日を恨むことは無かったのに。

彼はなんて酷い人なんだろう。私に与えているようで奪っていくばかりで、私の喜びも悲しみも全て彼の手のひらの上にある。


日が暮れるのを待つには少し時間が長すぎる。

本棚の本を開けば数万回と読み慣れた文字の羅列が私の目から頭へとどろどろ流れ込んできて固まって一つの言葉になる。

本の中の世界では必ず主人公は幸せになる。

それなら、私と彼が朝寝をする日もいつか迎えることが出来るのだろうか?

馬鹿なことを、と思いながら本を閉じれば正午の鐘が響き渡って薄気味の悪い女性がまた食事を運んでくるのかと思うと少し気が滅入った。





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