政務官殿の心配

シンドリアへやって来てから数日、国政見学と言う名目のもとジャーファル殿と時間を過ごすことが最も多い為か彼と私はそれなりに打ち解け友人同士となった。

「時に、なまえ殿。白龍皇子がザガンの迷宮へ行くという話はご存知で?」

昼食時の白羊宮は文官達が一斉に出払うためか静まりかえり、ジャーファル殿は少しだけ気まずそうに話を切り出した。


「はい。存じております。私は白龍様に止められている為、迷宮へはお供出来ませんが。」

「よろしいのですか?」

ジャーファル殿は陶磁器の茶碗を手に取るとゆっくりと口元へ運び音も無く茶を啜った。彼の手はとても白くて陶磁器に同化してるようでなんだか作り物みたいな人だなぁと私がぼんやりと考えてる間も彼は目を伏せたままでとても気まずい雰囲気だ。

「何故です?」

「私は今からシンドリアが政務官ではなく貴女の友人としてお話しさせていただきます。貴女はこの国には煌帝国第四皇太子練白龍皇子の側近として入国されていますが、実際のところは別のお方にお仕えしていると先日お話しておりましたね。
その人物とは第二皇太子練紅明様のことではありませんか?」

「身分を隠すつもりはなかったのですが、色々と不便が生じるため隠させて頂きました。申し訳無い。シンドバット王もご存知で?」

「ええ、その事に関しては私もシンも問題視するつもりはありません。しかし、白龍皇子がもしもザガンの金属器を手に入れてしまっては。」

「あの方が何かしら、現皇帝や私の主である皇子達に良くない感情を持っているのは私もわかっています。そうじゃないにしろ近い将来煌は必ず戦争が起きる。今白龍様に強い力を持たせてしまえば私の主の側の不利になると?」

「その可能性は十分に有ります。」

確かに白龍様は紅明様を含む義兄弟達にあまり良い感情を抱いているとは言えないが皇族達が敵対するということは考えすぎでは無いだろうか。

元々白龍様は争いを好むような方には見えないし思慮が浅い部分もあるが思いやりのある年相応の少年だ。

それに、たとえ彼のなかに煌を揺るがすような危険な考えがあるとしても、
紅炎様はあれでいてとても兄弟思いの長兄であるし、紅覇様も紅玉様のことを気にしていないようでよく見ている。白瑛様と紅炎様の関係が良好なうちは白龍様も無闇に攻撃的な態度はとらないだろう。

「私は白龍様をそのようには思えませんし、私の主も腐っても金属器使いです。そう簡単にやられはしないでしょう。」

心配していただきありがとう。と伝えるとジャーファル殿はそれならば良いのですが、と控え目に微笑んでくれた。

「しかし、貴方がそんな心配してくださるなんて意外でしたね。」

「そうですか?」

「世界に王の器が幾千有りマギが三人いても、世界の王に成れるのは一人だけ。シンドリアからしてみれば煌で内乱が起きたほうが好都合ですのに。」

わざわざ自国に有利なことを明かして心配するなど奇特なことだ。と告げるとジャーファル殿は、貴女がこのまま煌に帰れば次会う時はまたこうして世間話などできないでしょうからとまた控え目に微笑んだ。

「大人しそうな見かけによらず貴方も中々悪い人ですね。」

「お互い様でしょう。今はとにかく彼等が無事に帰ることを祈りましょうか。」

「そうしましょう。次会う時はお別れかもしれませんしね。」

文官達の談笑が聞こえ始めた頃、また白羊宮の時間は動き出したようだった。


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