≫三回戦に向けて2 1
岩槻西高校の先攻で試合がスタートしたが、後攻、崎玉高校のピッチャーは三者凡退させ、なかなかのスタートをきることができた。
「ねぇ名字、崎玉の決め球って…スクリュー?」
栄口が尋ねる。
「そうだよ」
「へぇ…ピッチャー何年なのかな」
「確か…2年だったと思う。ちなみにショートが3年で、サードとキャッチャーが1年」
「えっ、キャッチャー1年!?」
横にいた巣山が顔を引きつらせながらマウンドを見た。笑いながらベンチへと戻るそのキャッチの姿は…なんというか…とても貫禄がある。思わずみんなが苦笑いしてしまう程だ。
一方、いつもの如く三橋の世話を焼く阿部は今日も会話から苦労していた。なんでも、阿部が崎玉のピッチャーを見ながら三橋の球速について話をふったところ、三橋が何かを言いたそうにしているとのことだった。
「…何」
「ん、……っ、あ、べ、君は…あ……」
「んだよ!!ためずに言え!!!!」
「むっ、むひ…お…あ、いああい…でえっ」
「だから!!!!!!」
プチン。
阿部はとうとうイライラが頂点まで達して、爆発してしまった。
「しゃべんのに口押さえてたら何言ってっかわかんねぇだろ!!!!」
その大声で、三橋は完全にビビってしまい、慌てて逃げてしまった。それを見届けて、名前は阿部の横に静かにしゃがみこんだ。
「あーあ、隆也が三橋君いじめてる」
「虐めてねぇっての!!!!」
立っている阿部を見上げるようにしながら名前は言った。
「あのさ、他にも理由はあると思うけどね、三橋君と隆也が上手くいかないのって隆也の声のせいってのもあるんじゃないかな」
「声?」
「そ、声っていうか大声ね。気が小さい人は笑い声でも大きいとびっくりすることがあるんだって」
「笑い声でも…!?」
「うん。だから三橋君は声の大きさで既にびっくりしちゃってるんじゃないかなと…」
「そうか…」
新たなことに気付かされた阿部は、ようやく戻ってきた三橋を見つめながら頷いた。早速学んだことを使ってみるのだろう、阿部は三橋の元へ歩いて行った。
結局、試合は崎玉高校が勝ち、西浦の3回戦の相手が崎玉高校に決まった。
その試合を見終わった名前達は、練習及びミーティングのためにグラウンドまで走って戻った(マネジは自転車)。
「んじゃ、細かいデータは明日までにお願いするとして、観戦して思ったこと言ってくぞ」
キャプテンを中心にミーティングがスタートした。観戦して思ったことを守備から順に言い合う。各々が意見を出し合って、今後の練習メニューを粗方決め、最後に他に意見はないかと花井が尋ねたところ、阿部が「コールドにして欲しい」とお願いした。一番重要である三橋を持たせるには、試合を早く終わらせるのが最もだと阿部は考えたのだろう。これには監督も大いに賛成し、コールドを狙っていく事が決定した。
「名前ちゃん、ちょっと投球練習付き合ってくれる?」
「あ、はい!」
崎玉の決め球をみんなが打てるように、監督は早速調整に入った。前回のシンカーと違って今回のスクリューはたまたま監督が投げることができる、それだけでもう十分嬉しいことで、名前はわくわくしながら監督の後をついて行った。
「あ、監督!」
軽くキャッチボールをしながら名前は言った。
「私、今日少し早めに帰らせてもらってもいいですか?やらなきゃいけないことはちゃんとやってから帰りますので…」
「何か用事でもあるの?」
「用事っていうか…あの…今日ですね、チアガールをやりたいって言ってきた子が2人いるんです」
「へぇ、チア!」
「それであの…私が…衣装を作りたいって言ってしまって…」
「名前ちゃんが自分から?」
驚いたような表情をして、監督はキャッチボールの手を止めた。
「そうなんです…忙しいのはわかってるんですがどうしても作りたくて…ダメ…ですか…?」
「全然大丈夫よ!名前ちゃんにはいつもたくさん助けてもらってるからね、そのくらいどうってことないって!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
良かった…反対されたらどうしようかと思った…。
名前は笑顔で元気よく頭を下げた。
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