×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


※攘夷組が高校生(同級生)設定
※未成年の飲酒を仄めかす場面がありますが、決して推奨している訳ではございませんので、現実と区別が出来る方のみお読みください






随分と過ごしやすい気候になったある日の朝、通学路の坂の途中でダルそうに歩く友人一人が目に止まった。

「おっはよー」

駆け足でその男の隣まで行き、背中をポンと叩くと酷く低い声で呻き声を上げられてしまった。

「何、体調悪いの?晋助」

俯いたままの高杉を、名前は下からそっと覗いた。すると高杉は米神に左手を当てて、一度だけ名前と視線を絡めて消え入りそうな声で呟いた。

「…飲み過ぎた」
「は?二日酔い?ウケるね」
「…笑うところじゃねぇよ」
「いやだって、普段から顔色悪いのに今日は一段と真っ青だからさ。自制しなさいよちゃんと。誰と飲んでたの?」
「万斉」
「…なるほどね」

妙に納得した素振りを見せると、高杉は若干不機嫌そうに名前を見下ろした。飲む相手が誰なのかによって、この二日酔いの原因がわかったらしいというのは理解出来たが、それはそれで何だか妙に腹立たしくもある。不本意ながら、名前の考えはそこまで的を外していないからだ。

「…河上君ザルだもんね。張り合ったりするからだよ」
「別に張り合っちゃいねぇ。ただムカつくだけだ」
「それを張り合うって言うんだよ。いいじゃん、銀時には勝てるんだから」
「アイツに勝った所で何にも嬉しくねぇよ」

漸く坂を登り切り、平坦な道に出た。チラホラと、同じ制服を着た生徒達が増えてきている。時折同じクラスの生徒と軽い挨拶を交わしながら高杉とそのまま並んで正門へ向かっていると、急に右腕を後ろに引かれて名前はつんのめってしまった。

「よォ、お二人さん」

名前の歩みが止まった事によって、釣られて足を止めた高杉は声の主が誰であるかを瞬時に悟り、至極嫌そうに後ろを振り返った。続いて名前も慌てて振り向く。

「銀時、おはよ。急に引っ張らないでよ」
「わりィな。でも可愛い彼女が悪い男に引っかかってんの見たらそりゃ慌てて引き止めるだろ」
「一緒に登校してただけでしょ。とにかく手、離して」

ニヤニヤと楽しげな表情を向ける天然パーマの男、坂田銀時は名前のお願いなど聞いていないとでも言いたげに、掴んでいた細腕を更に強く引っ張って、己の腕の中に彼女の体を収めてしまった。

「おっと、そこにいるのはおひとり様の高杉晋助君かな?今日は一段と顔色悪いですねェ?」
「二日酔いなんだって」
「ぷぷ、ダセェな〜」
「すぐ潰れるヤツが何言ってやがる。いいからもう黙れ、頭に響く」

腕に絡まれる名前を一瞥し、高杉は先に校舎へと入って行った。後を追うようにして歩き始めた銀時に半ば押されるようになりながら、名前も足を進める。それから下駄箱に到着して漸く解放され、上履きと履き替えて歩き慣れた廊下を進むと、途中で高杉だけ別の方向へ向かい始めた。

「晋助どこ行くの?」

つん、と制服のシャツを摘んで高杉を引き止める。すると小さな欠伸を零しながら数メートル先のカーテンが引かれた教室を顎で指し示した。

「フケる」
「一時間目から?」
「昼前に保健室来い」
「えー今日三時間目ペア組んで実験だって言ってたよ先生。二時間目終わったら起こしに行っていい?」
「…わかった」

また一つ欠伸を零し、保健室のベッドを求めて高杉は歩いて行ってしまった。残された二人はそんな男に背を向けて、自分達の教室へと歩き始める。高杉の欠伸が移ったのか、隣を歩く銀時もだらし無く大口を開けて欠伸を零した。

「つーかよォ、何で俺とじゃなくて高杉とペア組む前提なわけ?」

生理的な涙を指で拭いながら、至極不服そうな声で名前を見下ろした。しかし名前は何も悪びれる様子は無く、平然と言葉を返す。

「だって晋助とやった方がスムーズだし成功するもん」
「だったらヅラでもいいだろ」
「ダメよ。小太郎には銀時のお守りしてもらわないと。晋助と組んだらすぐ喧嘩するでしょ」
「…チッ、何でアイツ授業サボってばっかのくせに俺より順位良いんだよ」
「持つべきものはお勉強の出来る年上の彼女かな」
「それを彼女っつーなら、浮気しまくりじゃねーか」

嫌そうな飽きれたような顔をして、銀時はポケットに両手を突っ込んだ。踵を潰した上履きをペタペタと鳴らしながら、名前の歩幅に合わせて進む。

「…羨ましいの?」
「ハァ?んな訳ねーだろ。つーか俺が本気出したら遊び相手の十人や二十人、当たり前だからね?でも俺ァ名前一筋なんだから、そんなの必要ねーの」
「あらそう」

信じてねーな、と言いかけた所で、目的地へと到着してしまった。ガラリと戸を開けて入って行った名前に続き、教室へ入ると既に自分の席で教科書なのか趣味のものなのかわからないが一冊の本を広げる桂の姿が目に映った。その向かいの席には、本来その席の主人ではない、坂本辰馬の姿もある。いつもの如く、隣のクラスから遊びに来たのだろう。本から目を離そうとしない桂に向かって、一方的に何やら話し続けている。

「おはよーさん、名前」
「おはよう辰馬」

先に気付いた坂本がひらひらと手を振ってくる。桂の隣の机に鞄をかけながら、名前が「何話してたの?」と首を傾げるとどうやら昨晩観たドラマの話で坂本なりの解釈を一方的に述べているところだったらしい。なる程だから桂が全く興味を示していなかったわけだ。
漸く本から顔を上げた桂は、名前と銀時双方に目をやって挨拶を交わした後、直ぐに一つの違和感を覚えたらしく、小首を傾げて見せた。

「高杉はどうした」
「アイツ朝っぱらからフケるってよ。保健室行っちまった」
「どうせ二日酔いじゃろ」
「よくわかったね」
「河上のヤツが昨日高杉を酔い潰したとか言っとったきにのォ」
「またアイツらは…」

深いため息をついて頭を抱えた桂だったが、いつもの事なのでもうそこまで深く追求もしない。それは周りも同様で、すぐに何事も無かったかのようにいつも通りの動きを始める。

「ハイ坂本っちゃん、退いてくださいよ」

銀時は坂本の座る椅子の脚を軽く蹴りながら、己の鞄を机に掛けた。渋々腰を浮かせた坂本はそのまま結局銀時の机の上に腰をまた落ち着かせる。

「どけっつってんだろーが、ただでさえデケェんだから、邪魔なんだよ」
「おまんが小さいからって八つ当たりせんでくれ」
「小せェのはバカ杉の方だろ」
「辰馬こっちに来るー?」
「おう、すまんのォ名前。お礼にワシの膝貸しちゃるぜよ」
「何堂々と人の彼女に手ェ出してんだ」

両手を広げて迎え入れる仕草をする坂本を、銀時はベルトを引っ張って引き止める。そんな男にカラカラと笑いながら悪びれる様子もなく、そのまま机の上に座り続ける坂本だったが、結局銀時もそれ以上は嫌な顔もせずにベルトから手を離した。

桂、高杉、銀時と名前は幼稚園からの付き合いで、所謂幼馴染という関係性だ。坂本とは高校からの出会いであるが、今やまるで昔から一緒にいたかのような距離感である。
銀時と名前が彼氏彼女と言う関係になったのは高校に上がる少し前なのだが、幼稚園からの付き合いのせいか他の二人とも異様に距離の近い名前のせいで、坂本は初め誰と付き合っているのか全く検討が付かなかった。それどころか誰ともそういう関係には無いと思っていたのだ。それ程までに、この四人の中には「嫉妬」や「負の感情」が存在していない。
口では「俺の彼女」などとよく言うが、銀時のそれには軽い冗談という意味合いが多く含まれているのは明らかである。その理由としてはやはり、お互いの信頼関係というものがしっかりと構築されているからなのだろう。名前も勿論そこはきちんと弁えていて、四人以外の男との距離感は上手いものである。






授業終了のチャイムが教室に響く。次の授業までにやっておくべき課題を急ぎ足で説明した教師は、教科書を整えながら寝ている生徒達を起こすよう、呼びかけた。例に漏れず涎を垂らしながら爆睡している銀時を桂がシャープペンシルの先で突っつき夢の世界から連れ出すと、それと同時に号令がかかり、何とか目覚めた銀時は寝ぼけ眼で立ち上がって抑揚の無い声で挨拶をした。

「ふぁ…眠ィ…」
「二時間目から爆睡してどうする」
「だって朝っぱらから数学とか、寝るだろ普通」
「明日小テストって言ってたよ?」

桂の隣で、次の授業の準備を行いながら名前が薄く笑った。「小テスト」という嫌な響きに銀時は思いっきり顔を顰め、すぐ様優等生である桂に助けを求めた。

「桂くぅ〜ん、ノート見せて?」
「自分で教科書見て復習しろ、馬鹿者」
「んだよケチ。いーもん、俺には優秀な彼女がいるから」

ね?と語尾にハートマークでも付きそうな声色でウインクをされたが、名前はそれから視線を逸らすようにして反応を濁した。寝ていたのが悪い。自業自得である。

「小太郎、今日私ん家でゲームやんない?新作、手に入ったんだよ昨日」
「いいな。高杉も誘うか」
「名前まで酷ェ!そしてズリィ!俺にもゲームやらせろ!」
「点悪かったら補習するって言ってたよ。大丈夫?」
「げ…」
「まぁ、今日の授業さえ真面目に聞いていれば何の問題も無いようなレベルらしいけどな」

畳み掛ける桂の言葉に、がっくりと項垂れる銀髪の男を、名前は同情にも似た眼差しで見上げていた。何故毎回こうやってテストの度に苦労するのに授業を真面目に受けようとしないのか。テストも放棄する覚悟があるならまだしも、この男は毎回毎回テストの前の日に徹夜して赤点をギリギリ回避しているのだ。銀時らしいと言えばらしいのかもしれないが、将来的に大丈夫なのだろうか、と少しばかり心配に思えてしまう所がある。

「名前、高杉はいいのか?」
「あっ、そうだった。起こして来なきゃ。銀時どーする?一緒に行く?」

桂の一声に時計をチラリと一瞥して、名前は慌てたように荷物をまとめ始めた。いまだに項垂れている男にも一応声をかけると、弱々しくも同行する旨の返事が返ってきたので急ぐように伝える。

「教科書は俺が持って行こう」
「ありがとう!じゃあ後でね」
「釣られて昼寝するなよ」
「多分大丈夫!銀時行くよ」

袖の捲られた腕を掴み、名前は教室を後にした。殆ど引っ張られるような形で後ろをついて歩いていた銀時も、廊下に出た辺りできちんと自立して彼女の隣を歩き始める。いまだ睡魔は襲ってくるようで、欠伸は中々止まらない。

「昨日遅かったの?」
「借りてたAV観るの忘れてたから昨日一気観した」
「キツそ」
「色んな意味で辛かったわ」
「ふーん…?」

今更顔を赤くしたり腹を立てるような事は無いが、それでも銀時の発した言葉の意味がいまいちよくわからなかったようで、名前は僅かに頭上に疑問符を浮かべながら隣を歩く男を見上げていた。そんな彼女の表情に、思わず口元を緩めてしまった銀時は、意地悪そうな顔をして一度だけ名前の頭に軽く手を乗せた。

「もう名前じゃねぇとダメみたいだわ俺」

一瞬、何やら銀時らしくないモテ男が発するような言葉が聞こえた気がしたが、よくよく考えてみるとそれなりに酷い下ネタを言われた事に気が付き、名前は思い切り眉根を寄せた。

「…素直に喜べないそれ」
「何でだよ。今のは結構な口説き文句だろうが」
「知ってる?今のはセクハラとも言うんだよ」

そう言って名前は腕を伸ばし、男性にしては色の白い頬をムニ、と摘んでから漸く到着した保健室の扉をノックした。

「…あれ、先生いない感じ?」
「職員室にでもいるんじゃねーの。今いるのサボり野郎だけだろうからな」
「そっか。晋助開けるよー?」

返事は無かったが、銀時に促されるようにして名前はカーテンの引かれた扉を開けた。独特の匂いのする部屋に足を踏み入れ、奥の部屋まで進んでからお決まりのベッドの側まで歩く。それからまた一応声を掛けるが、いまだに反応は何も無い。

「爆睡してんな」
「開けまーす…」

そろり、と目隠しカーテンの隙間から顔を覗かせると、銀時の言葉通り規則的な呼吸音だけがその場に響いている。サイドテーブルにコップと薬の殻が置かれているのを見ると、どうやら頭痛薬だけ貰ったらしい。

「…なんか、起こすの可哀想なくらいグッスリだね。どうしよ」
「俺ァ別にコイツが起きようが起きまいがどっちでもいいからな。困るのはお前なんだろ」
「そうなんだけど…あ、動いた」

控えめとは言え、ボソボソと何かが聞こえる事に違和感を覚えたのか布団の中の高杉が身動いだ。身体の向きを変え、僅かに眉間に皺を寄せている。
いまだ若干の迷いもあったが、折角ここまで来たのに蜻蛉返りというのも味気ない。名前は意を決して高杉の腕を掴んで軽く揺すった。

「起きてー」
「………煩ェ」
「もう二時間目終わったよ」
「…あー…名前か…」
「そうだよ、起きて」

薄っすらと、煩わしそうに両目を開けた高杉は、徐に自分の身体を揺するか細い腕を掴んだ。そしてそのまま布団の中に引き摺り込むように手前に引くと、いとも簡単に身体ごとなだれ込んでくる。しかしこのまま二度寝に突入しようと再び瞼を下ろしかけたところで、不意に自分の体の上にあった重みが一瞬にして無くなり、高杉は僅かに動きを止めてその原因を探った。

「ハイハイそこまでよー晋ちゃん起きてクダサーイ」

起き抜けに聞くとこうもイラっとするものなのか。高杉はここにいるのが名前だけでは無かった事に気付かされ、渋々手首を掴んでいた手を離して上半身をゆるゆると起こした。

「何でテメェまでいる…」
「当たりめーでしょ。誰が可愛い彼女一人で狼のもとまで行かせるかっつーの」

名前を後ろから抱き抱えるようにして、銀時は腹の前に回した両腕に僅かに力を込めた。名前はそんな男に身を預ける形で、心配そうに高杉の顔色を伺っている。

「頭痛いの治った?」
「…ああ」

控えめに欠伸を溢し、高杉はベッドから足を下ろした。皺になるからだろうか、シャツは脱いでベッドボードに掛けてあり、中に着ていたTシャツ一枚の姿である。名前はシャツを手渡して、準備が整うのを側で待つ。

「今日お昼中庭で食べようよ」
「丁度良い気温だし、いいんじゃねぇか」
「銀時、辰馬に連絡入れといて」
「へいへい」

いつもの面子ね、と言葉を付け足して名前は先に保健室を出た。その後に続き、銀時と高杉もゆっくり歩き始める。次第にいつもの横並びになり、たわいも無い会話を続けながら三人は理科室を目指した。



*prev | next#




back