×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


「たーつまー、こっちこっち!」

先に到着していた三人は芝生の上に腰を下ろし、各々の昼食を並べていた。やや遅れて坂本の姿を捉えた名前は大きく手を振って場所を知らせる。

「遅れてすまんかったのォ」
「授業長引いたの?」
「いや、購買が思った以上に混んどったきに近くのコンビニまで行ってきた」
「えーっ、コンビニ行ったならコンビニスイーツ頼めば良かった!」
「俺も!」

芝生の上に足を投げ出して膝の上に弁当を広げた名前は酷く残念そうに坂本を見上げた。隣に座る銀時も女子ばりにスイーツという言葉に反応していたが、その手には購買で手に入れた甘い菓子パンが二つも握られている。

「今日帰りに買えば良いだろう。ゲームさせてもらうんだからそのくらい払うぞ」
「何じゃ、今日はみんな名前ん家に集まるんか」
「そうなの。あっ、辰馬も時間あるなら来ない?新作昨日手に入れたの」
「折角のお誘いなんじゃが…あいにく今日はワシが店番じゃきにのォ。また誘ってくれ」
「お家が商売やってるんじゃしょうがないよね。頑張って。また誘うね」

名前の誘いにお礼を伝えて、坂本はさぁ食べよう、と桂の隣に腰を下ろして買ってきたばかりのコンビニおにぎりを開封した。桂はいつもの祖母お手製の弁当を、高杉は二日酔いのせいでまだあまり食欲が無いのかゼリー飲料が片手に握られている。

食事中もゲームの話や新しく来た教師の話、坂本のクラスの話などいつもと変わらず基本的に名前と銀時、坂本が話す事に対して高杉と桂が相槌を打っている。時折高杉の挑発に銀時が乗っかって口喧嘩に発展する事もあるが、今日は高杉が一段と大人しい分穏やかな昼休みが過ぎていった。

「…あったかいしお腹いっぱいだしで…なんか眠くなってきた」
「食べた後直ぐに寝ると豚になんぞ」

食べた弁当を片付けて暫く談笑していたら、名前が僅かに欠伸をしてみせた。確かに随分と過ごしやすい気温になり、昼の時間帯の中庭など、昼寝するにはもってこいだろう。何やら銀時に失礼な事を言われたが、名前はそれを無視してコロンとその場に横になった。

「寝るのか?」
「うん、ちょっとお昼寝。十分前に起こして」

側で再び読書に耽っていた桂が穏やかな顔をして、わかったと一度腕時計に目をやった。昼休み終了まで後四十分はある。

「俺も寝る」
「まだ寝るのかよお前。寝る子は育つって言うけどもう遅ェんじゃねーの」
「黙れ銀時」

盛大な舌打ちをして、高杉は名前のすぐ隣に寝転んだ。ややあって二人分の寝息が聞こえ始め、本当に寝てしまったのかと銀時は少しばかり目を丸くした。

「…ったく」

気持ち良さそうに眠る彼女を起こすほど銀時も非道ではない。呆れたように一つため息を溢すと、己の着ていたカーディガンを脱いで名前のスカートの上に被せた。

「何じゃ、意外と紳士じゃな」
「名前のパンツ見ていいのは俺だけなんだよ」
「残念じゃのォ」

カラカラと笑って、坂本は読書をする桂から順に四人に視線を滑らせた。
性格故か、坂本は幼い頃から沢山の友人に恵まれたが、こんなにも面白いと思える人達には今まで一度も遭った事が無かった。幼馴染と聞いていたから、ぽっと出の自分が入る隙間など無いと思っていたが、彼等はすんなりと新しい友人を受け入れてくれた。こんなにも一緒にいて心地良い、気を使わずいられる仲間に出逢えた事は、本当に有難い事だとしみじみと思ってしまう。

「何だよ、生温い目で見やがって」
「いや、おまんらはホント面白い奴らぜよ」
「あん?馬鹿にしてんの?」
「アハハハ、捻くれものじゃのォ金時は」
「ぎんとき、ね」

いちご牛乳を音を立てながら最後まで啜って、銀時は他のゴミもまとめて近くのゴミ箱に投げ入れた。立ち上がったついでに別の飲み物を買いに行こうと、ポケットの財布を漁ってから、銀時は一度もとの場所へと戻って声をかける。

「自販機行くけど辰馬は?」
「おまんの奢りか?」
「んなわけねーだろ」
「アハハ、冗談じゃ。まァでもワシも付き合うぜよ。代わりに銀時、自販機の前に便所に付き合うてくれんか」
「女子じゃあるめーし連れションとか勘弁。外で待っててやるから早く済ませて来いよ。ヅラは?」
「ヅラじゃない桂だ。この二人を置いては行けんだろう。ほうじ茶買ってきてくれ」
「俺をパシるたァ、高くつくぞ」

桂から小銭を受け取り、二人はその場を離れた。その背中を少しの間眺めていた桂だったが、不意に隣で空気の流れが僅かに変わったのを感じて意識を転じた。微かな布の擦れる音と共に嗅ぎ慣れた男性ものの香水の匂いが鼻腔を擽る。

「…もう起きたのか」
「お前らが煩ェから眠れねぇ」
「今から暫くは静かになるぞ」
「もう目ェ覚めちまった」

髪の毛をワシワシと荒っぽく乱しながら、高杉は上半身を起こした。相変わらず顔色は最高とは言えないが、随分と普段通りの体調にまでは回復しつつあるようだ。

「アイツら飲み物買いに行ったぞ」
「…コーヒー」
「自分で言え」

まだ間に合うだろうから、と桂は高杉の尻ポケットに入った携帯に目線を送った。この場合、そこまでする程欲しがっていない事が殆どである為今回も「ならいい」と行動にまでは起こすことは無いだろうというのが桂の見解であったが、どうやら今回ばかりは違ったようだ。面倒そうな顔こそしていたが、高杉は携帯を取り出して銀時の番号を呼び出した。

『何だよ』
「コーヒー」
『ハァ?自分で買いに来いよ!俺はオメーの奥さんじゃねぇっつーの』
「お前を嫁に貰うくらいなら一生独身でいた方がマシだ」
『そーかいそーかい。んじゃ一生独身貴族満喫してろ。俺と名前の結婚式には呼んでやっから』
「ギャーギャー言ってねぇで黙って買ってこい。どうせ名前とヅラの分も買ってくるんだろうが」

そう言ってブチリと一方的に電話を切った。いつもの事だが、電話一つでも言い合いが絶えないのに仲が拗れないのは周りから見たら不思議であり、異様でしかない。しかしこれは、互いに常に本音でぶつかっているからこそ出来る絆であり、罵り合いの言葉も変に気を使ってかける言葉より断然清々しい。
高杉は画面の暗くなった携帯をその辺に放って、不意に隣に眠る名前を見下ろした。規則正しい呼吸に合わせて、腰元から下を隠すカーディガンが上下に動いている。

「よくあの騒音の中寝てられるな」
「坂本が特に声がデカいからな。まぁでも、名前は昔からこうだっただろう。お前達が喧嘩してる横で一人だけよく寝ていた」
「…そうだったな」

懐かしい事を思い出し、ほんの僅かに口元を緩めた高杉は芝生の上に広がる細い髪の毛に指を絡ませた。








放課後、約束通りコンビニでお菓子やら甘い物を買い込んで名前の家へ四人で帰った。銀時は先に今日の数学の授業の復習と明日のテスト対策を終わらせてからゲームに参加するという事が条件で、名字家に入る事を許されている。

「ただいまー…あれ」

一番に玄関へ足を踏み入れた名前は、やたらと玄関に大きい靴が並んでいる事に気が付いて首を傾げた。その後ろからどうしたどうしたと顔を覗かせる男達。

「お帰り名前。あら、銀時君達いらっしゃい」
「お母さん、お客さん?」
「お父さんの会社の人が何人か来てるのよ。今日泊まるんですって。言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ」

チラリと廊下からリビングで何やら難しい顔をしながら仕事の話をしている男達が目に映った。その一番奥のソファーに腰を下ろしている自分の父親と不意に目が合い、一言言ってやろうと鞄を廊下に下ろしたところで、あちらの方から元気な声が降ってきた。

「おー、名前お帰り!」
「お父さん、今日会社の人達来るって聞いてない」
「あれ、言ってなかったっけか?悪い悪い。何か用事でも…おっ、悪ガキども久しぶりだなァ」
「ちーす」
「こんにちは、お久しぶりです」

名前の背後に立つ銀時達に気付いた父親は、その場から立ち上がってどすどすと足音をさせながらリビングから現れた。そして銀時から順に三人の頭を力強く撫でていく。180を超える長身の、ガタイのいい男から与えられる力は半端なく、撫でられ終えた後の三人の頭は中々に面白い状態になっている。

「今日ゲームしようと思ってたのに」
「そうか悪いな。でも夜まで俺たちちょっとリビング使うからなァ…」
「まぁ、仕事なら仕方ないよね。銀時の家に行くよ」
「すまんな。泊まるときは母さんに連絡入れろよ」
「うん」

リビングからも野太い声で「ごめんなー」と口々に謝罪の言葉をかけられ、名前はそれに笑顔で「大丈夫」だと返しながら自室に一度上がった。急遽予定が変更になり、銀時達はその場で名前を待つ事にする。
ややあって制服姿のままだが荷物が増えている名前が階段を降りてきた。どうやらゲームだけではなく、泊まる準備までしているようだ。

「あら、もう端から泊まる気満々?」

玄関で桂と談笑していた母親が、薄っすらと目を丸くした。名前はそれに頷き返して、早速靴を履き始める。

「折角だし、そのまま泊まってくる。明日の準備までしたから朝からこっちには寄らないね」
「じゃあ帰りは明日の夕方ね」
「うん、じゃあねー」
「はいはい。避妊はしなさいよー」
「それ親が言うセリフ?」

カラカラと笑って手を振る母親に手を振り返し、名前達は玄関を後にした。



「相変わらずお前の両親どっちも面白いな」

銀時が何とも言えない表情で苦笑する。確かに、名前の父親も母親も結構昔からヤンチャをして色々とやらかしてきた部類であり、基本二人の教育方針が「子供の自由にさせる」といういい意味での放任主義である。そんな家庭で伸び伸びと育った名前だが、愛は充分に感じているのだと、銀時に対して笑って返していた。

「松陽のおじさん今日いるの?」
「いや、昨日から北海道に出張。来週には帰ってくる」
「いくらと蟹食べたい!」
「って言うと思って強請っといた。っつってもお土産なんてアイツの気まぐれだからなァ、木彫りの熊とか買って来そうで怖ェんだよ」
「おっきいやつ買ってきそうだね」

笑顔で両手いっぱいの北海道土産を差し出す松陽を想像し、心の中で「せめて食べ物でありますように」と名前は強く念じる事にした。そうでもしないと、本当にどうしようも無い土産を山程買って来る未来しか見えないのだ。


名前の家からそこまで遠くもない所に、あまり高さの無い五階建てのマンションがあり、その最上階に銀時と松陽の二人で暮らす部屋がある。何度も訪れた事がある面子のため、皆は特に迷う事なく五階まで進み、部屋へと入った。意外にもきちんと整理整頓された部屋からは相変わらず何やら甘い香りが漂っている。

「お邪魔しまーす」

銀時に続いて名前から入り、脱いだ靴を並べて行く。それから慣れた手つきで台所へ入り、コップや皿を取り出して買ってきた物と一緒にテーブルの上へと並べていった。
ジャンケンで負けた桂が銀時を、名前は高杉を担当して先ずは明日の小テストの対策を行う。ただのテストであったならもう二人を放っておくのだが、如何せん補習が絡んでいるとなると極力一発で合格しておきたい所である。

案の定高杉の方はそう時間もかからず、スムーズに終えられた。名前のとったノートと教科書を見比べて二、三個質問をしただけで、概ね理解されてしまったのだ。

「何かムカつく」
「何が」
「地頭が良いって事なのかな」
「さァな」

ノートと筆記用具を片付けながら、名前は不満気に言葉を洩らす。隣ではいまだにシャープペンシル片手に頭を抱えている男もいるというのに。

「アホは放っといて先に始めようぜ」
「テメーら先に始めやがったら一生恨むからな!」
「喧嘩してる暇があったら手を動かせ手を」

今日のはそこまで難しい内容でも無いんだぞ、と追い討ちをかけながら桂は高杉と銀時の間に割って入った。こうして態々時間を割いて教えているのだから、明日は何が何でも一発合格してもらわないと気が済まない。桂は残り数個の練習問題をペンの先で指し示し、続きをやるよう促した。

「後ちょっとだから待ってろよ、絶対」
「準備だけやっちゃお」

涙目の銀時を横目に、名前は四つん這いでテレビのもとまで行き、機器のセットを始める。買ったばかりでまたビニールすら剥がしていないディスクケースを暫く眺め、ハサミを使って丁寧に包装を剥がしていく。

「今回の新作は最大四人プレイが出来るから、楽しみなんだよね」
「二対二でやるのか?」
「違うの、四人で戦えるの。勿論二対二も出来るけど」
「めちゃくちゃになりそうだな」

高杉の発言に笑いながら、ゲーム機の電源を入れディスクを入れると、そう時間もかからずゲームが起動した。四人で対戦する為に、もう一セットのコントローラーを一度本体にセットしてペアリングまで完了させる。そして一旦ホーム画面で停止したまま、名前はソファーに腰掛ける高杉の横に座って菓子に手を伸ばした。ゲームらしい軽快な音楽がリビングに響き、それだけで充分期待感が高まってくる。

「終わったー!っしゃー!」
「本当に大丈夫か?このままだと明日のテスト、ギリギリだぞ」
「銀時くんは本番に強いから大丈夫ですぅ」
「なら良いがな」

桂の心配も他所に、いそいそと銀時は勉強道具を仕舞ってゲームが出来る環境を整えていく。テーブルをソファーに更に近付け、床に置いていた飲み物の入ったペットボトルもテーブルの上に並べてから、銀時は名前の隣に腰を下ろした。

「狭いよ」
「もうちょい詰めろ」

基本二人で座る用に作られたソファーに高校生男子が二人と女子高生一人は、若干窮屈だ。座れない事はないが、動き難くなる事を懸念した名前は銀時の背中に挟まれていたクッションを奪うと、ソファーを背もたれにして床に座り直した。こういう時、ワイヤレスのコントローラーは本当に有り難い。
桂は近くにあった座椅子に座り、ゲームの説明書に目を通している。銀時は床に座った名前を己の両足で挟み込むようにソファーに座ってコーラを煽った。




ゲーム自体は既存のシリーズと同様の面白さで、とても満足のいく出来だった。高杉が懸念したように四人対戦は破茶滅茶であったが、それはそれで楽しくもある。そのおかげか皆が帰宅してからあっという間に三時間が経過していた。辺りはすっかり暗くなり、今日はここまでにしようとデータをセーブして電源を切る。

「あー腹減った」
「お菓子全部食べたのに?」
「おやつと飯は別モンだろ」

コントローラーをテーブルに置いて身体を伸ばす銀時に、名前は呆れたように笑った。

「ご飯作ろうか。冷蔵庫何か入ってる?」
「多分。あー、そうかお前泊まる気満々だったよな」
「ダメだった?」
「いや大丈夫」
「名前、俺の分も作れ」

不意に頭に何かが乗ってきたかと思えば、高杉が背後に回って腕と顎を乗せている。そんな男の発言に銀時は露骨に嫌そうな顔をしたが、名前はふとある事を感じて、そっと高杉の腕から逃れて顔を覗き込んだ。

「…晋助、ひょっとして帰りたくない?」

バカにするでもなく、心配気な声色に銀時も文句を洩らしていた口を思わず噤む。
高杉の家庭環境はまた複雑で、それは三人とも充分に理解している。それでも変に気を使われるのを好まない高杉の性格も重々承知している為、普段から敢えて口にするような事も無いのだが、皆一様に心配もしているし気にかけてはいる。

「……」

案の定黙り込んだ高杉に、名前は薄っすら微笑んで複雑な顔をした男の両手を優しく包んだ。

「決まり。今日は三人でお泊まり会ね」
「しょうがねぇなァ。その代わり何か手伝いしろよ」
「…ああ」

嬉しいのかホッとしたのか、僅かに表情を緩めた高杉に名前達も自然と笑みが溢れる。

「…っと、小太郎時間大丈夫?」
「片付けしたらすぐ帰る」
「いいよ小太郎。おばぁちゃん家で待ってるし、早く帰ってあげて」
「すまんな…」

至極申し訳なさそうにしながらも、桂は自分の鞄を肩にかけると名前の言葉に甘えて一足先に玄関へ向かった。まだまだ元気とはいえ、祖母一人を家で待たせているという事が気掛かりではあるのだ。

「じゃあ、また明日学校でな」

何故か名前に続いてぞろぞろと見送りについて来た男達にも苦笑しながら、桂はドアノブに手をかけた。しかしそこで不意に動きを一度止めると、言い忘れていた、と顔だけ僅かに名前の方に向けて、視線を交わらせる。

「襲われそうになったら迷わず股間を蹴り飛ばして逃げるんだぞ」
「おっけー」
「ちょ、マジやめてくんない?俺コイツと3Pなんか嫌なんですけど」

そう言って隣に立つ男を指差す銀時に、俺もゴメンだと突っかかる高杉。

「何で三人でする前提なのよ。やめてよ、身が持たない」
「え、つーことは俺と二人だったら良いって事だよな?見せつけてやろうぜ」
「嫌。そんな趣味無い」
「…あーもう、やっぱりテメー帰れよ!」

高杉がいる手前今晩は何も出来ないと悟った銀時は、桂と一緒に追い出そうと高杉の背中を押しながら嘆いた。しかしもう泊まる気満々の高杉はビクともしない。それどころか泊まる事によって銀時に対して嫌がらせが出来るとあっては、これはもう泊まる以外の選択肢はないだろう。
やれやれと、そんな二人を横目に今度こそ桂は自宅へと帰って行き、名前も桂の後ろ姿に手を振ってから言い争う男達を置いてリビングへと一足先に戻り、片付けと夕食の準備を進める事にした。






夕食、入浴を順番に済ませ、いよいよ寝る時間へと差し掛かって来た。普段なら銀時のベッドに名前が一緒に入るだけで事足りるのだが、今日はそう簡単にはいかない。高杉がどこで寝るかという問題が生じているのだ。逆に高杉単体で泊まりに来ているなら銀時が松陽のベッドで、高杉が銀時のベッドで寝るだけなのだが今回はそうも出来ない。名前が松陽のベッドに入る事を躊躇ったからだ。銀時は「アイツは別に気にしない」と言ったのだが、流石に赤の他人が寝るというのはお互いに気を使うという事で却下された。それは高杉の場合でも同様である。

「テメーが松陽のおじさんのベッドで寝て、俺と名前がテメーのベッドで寝れば全て解決だろ」
「そんな事が許されるとでも思ってんのか」
「んー、ここって来客用のお布団無いもんね」
「ああ。毛布は余ってんだけどなァ」

押し入れから出した毛布を片手に、銀時は寝室のベッドを暫く眺めた。一人床で寝るという考えもあるが、敷布団が無い以上、翌日は身体がバキバキになっている事だろう。
すると突然、高杉がその毛布を奪って寝室を出ようとした。

「おい、高杉」
「テメーらはいつも通りベッドで寝ろ。俺ァソファーでいい」

そう言ってリビングへ戻ろうとする男を名前は慌てて袖を引っ張って引き留めた。

「ダメだよ晋助!ソファーじゃ疲れ取れないよ」
「そうだぞ。オメーがいくら小っせェとはいえソファーじゃ身体痛えぞ」
「そうだ、私がソファーに行くから晋助は銀時のベッドで寝なよ」
「「ダメに決まってんだろ」」
「うわ、」

先程まであんなに言い争っていたというのに、突如意見を合わせて睨んできた男二人に、名前は思わず後退る。そこまで強く否定しなくてもいいのに。そう抗議しかけたが、このままでは埒があかないと一旦閉口する。
結局、いい答えが出る事なく時間が経ち、高杉がソファーを使う事で決着してしまった。時計はそろそろ深夜の一時になろうとしている。

「…銀時」
「んぁ…?」
「リビングで寝ない?」

シングルベッドの上で名前を抱き枕のようにして眠ろうとしていた銀時は、ポツリと零された名前の声に眉を寄せて瞼を持ち上げた。見ると自分の腕の中からそっと様子を伺うようにして見上げてくる名前の視線とかち合う。

「…何で」
「やっぱり晋助一人じゃ寂しくない?」
「ガキじゃあるめーし、一人で寝れるだろ」
「いーじゃん、みんなで寝ようよ」

もそもそと銀時の腕から這い出た名前は、早速毛布を剥いで移動しようと試みる。いまいち乗り気になれない銀時は布団の上で暫く抵抗を試みたが、結局は名前の「お願い」には敵わないのだ。

「…わーったわーった」
「やったぁ。ありがと、銀時」

そう言って銀時の頬に柔らかい唇を一度落とした名前は、楽し気に丸めた毛布を両手に抱えて先に歩き始めた。仕方がないと、銀時も立ち上がって布団を抱え、名前の後に続く。

「そんな子供騙しが俺に通用すると思ってんのか?この礼は今度たっぷりしてもらうから覚悟しとけよ」
「はいはい」

聞いているのかいないのか、適当な返事をして名前はソファーの上で丸くなっている男に柔らかく声を掛けた。

「晋助、一緒に寝よ」
「…は?」

流石に言葉の意味がわからなかったのか、毛布から顔を出した男の表情は疑問符でいっぱいである。

「折角のお泊まり会なのに別々の部屋は寂しいよ」
「俺は別に」
「私が寂しいの」

高杉の言葉を遮るようにして、名前は笑ってみせた。これは本心から言っている言葉なのか、高杉を気遣ってのものなのか。恐らく後者なのだろうが、ある意味自分が寂しいというのも本当だろう。
銀時はソファーの下のラグの上に布団を敷くと、名前から毛布を奪ってその上に広げた。そしていそいそとその布団の中に入り込むと、いまだに立ったままでいる名前の腕を引いて自分の腕の中へ引き摺り込む。

「これで満足ですか?お姫様」
「うん。ふふ、一緒の布団って訳にはいかないけど、ここなら手も届くし、寂しくないでしょ」
「お前、俺という立派な彼氏がいながらまだ他の男が必要な訳?」
「そうだよ、我儘なの私」
「…わかったからもう黙って寝ろ」

そう言うと暫く名前達を見下ろしていた高杉は、くるりと身体の向きを変えて二人に背を向けた。その背中は微かに嬉しそうな、楽しそうな表情をしており、銀時と名前はどちらからともなく顔を見合わせて笑ってしまった。



back