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※オリジナルのくのたまが一人登場します。






なんて自分は弱いんだろう、と名前は遠ざかる城を見つめながら表情を曇らせた。決して気を抜いたわけではない。仲間を庇う為に飛び出したとはいえ、すぐに飛んできたものを弾くくらいの準備も、気構えも出来ていた筈なのだ。それなのにこうして最後に仲間の足を引っ張ってしまっているのは、純粋に己の未熟さ故だろう。名前は無性に泣きたくなって、仲間の背に顔を埋めた。


事の起こりは、学園長からの命であった。昼頃に立花仙蔵と土井半助、名字名前が庵に呼び出され、忍たま六年とくのたま六年で任務にあたれ、との命令が下ったのだが、今回はいつものような突然の思いつきではなく忍術学園の生徒が一人、とある城に捕まったとの情報が入ったからであった。捕らえられてしまった生徒と言うのはくの一教室の一年生らしく、本来ならばくの一の先生も引率して救出に向かうところなのだが、山本シナが出るわけにもいかず、一年は組の教科の授業を山田伝蔵が一日代わるという事になり、土井半助が一人付き添う事になった。元々、忍者隊すらいない城である事は情報として入ってきているし、そこまで警戒する程の城ではないという事もあり、半助の存在も大きいが忍たまの六年とくのたまの六年であれば、十分だろうと判断されたのだ。
そういうわけで、庵を出た三人は作戦を立てるため六年長屋に向かった。そこには既に他の者達が揃っていて一体どんな任務だろうか、とやってきた三人を揃って見上げている。最初に半助が腰を下ろし、続いて仙蔵と名前が両隣に座った。それから早く聞かせろ、と言わんばかりの表情を向ける小平太と文次郎を交互に見やって、苦笑しつつ半助は今回の任務を話し始めた。


「ーーーと、いうわけで忍たまとくのたまの六年全員…ってくのたまは一人しか六年がいないけど、それと私で救出に向かう事になった」
「我々六年と土井先生だけでも十分ではないですか?」
「あら、私は邪魔だって言いたいの?文次郎」
「いや、そういう意味じゃなくてだな…」
「名字だって立派な戦力だろう?それに、捕まったのがくの一の一年生だからな、一人くらい女の子がいた方が色々助かるだろうから」
「土井先生のおっしゃる通りだ。名前に引けを取るのが怖いからって、学園長先生の命令にごちゃごちゃ言うんじゃねーよ文次郎」
「ちげーよアホ三郎!!」
「誰がアホ三郎だ!」
「こらこら」

いつものように言い争いを始めた二人を、半助が穏やかに静めた。それを見やって、仙蔵が「コホン」と小さく咳払いをする。

「改めて決めることでも無いとは思いますが、今回土井先生が軍目付役でよろしいですか?」
「ああ。だが今回はやる事が多い上に人質を無事に救出せねばならないからな…私も城には忍び込むつもりだよ。総力戦、とやらになるだろうね」
「ならば我々は先生の作戦で動きますが…」
「いや、折角六年生が全員揃っているんだ。何か案がある者がいるなら私はそれを尊重したい」
「わかりました」

仙蔵の返事を皮切りに、皆は一斉に考えを進めた。一部、例外もいるようだが軍師としての役割を普段からやり慣れているものはある程度考えはまとまりつつあるようだ。それを半助が密かに見守っていると、文次郎が指で床をカツカツと鳴らしながら不満を溢した。

「…見取り図くらいあればなぁ」
「無いものをとやかく言っても仕方無かろう」
「わーってんよ」

仙蔵が返した正論に、文次郎は閉口した。
今回事件を引き起こした城は、今まで忍術学園の者は誰も忍び込んだ事がなかった為、見取り図すら手元にない。それほど無警戒でも問題はなかった筈なのに、何故今頃になってこのような事をしでかしたのか、それだけが六年生達は理解出来なかった。

「…まず、そのくのたまの一年生が捕らえられているとすれば…普通に考えれば地下牢だろう」

留三郎が、ゆっくりと顔を上げた。

「だが、相手は忍者隊どころか戦もてんで駄目らしいじゃないか。もしかしたら予想外の場所に匿われてる可能性もあるんじゃないか?」
「他に考えつく場所があるのか?小平太」
「いや?」
「だったら話を広げるなよ!」
「私は細かく色々考えるのは苦手だからな!それにほら、ここには私よりも軍師様に向いているのが沢山いるだろう?私はいけいけどんどんで戦えればそれでいい」

いつものように明るく開き直られてしまい、留三郎はガックリ肩を落とした。文次郎のように喧嘩にならないのは、彼の性格あっての事だろう。

「この際、あやめちゃんが何処にいるのかは置いておきましょう」

項垂れている留三郎を隣にいた伊作が慰めていると、今まで黙っていた名前が徐に口を開いた。

「あやめちゃんって今回のくのたま?」

伊作が首を傾げた。

「ええ。留三郎がさっき言ったように地下牢の可能性が高いけど、見取り図がない以上ここでその話をしても時間の無駄だわ。今回、大まかに役割を三つに分けたいのだけど…どうかしら」
「三つとは?」

名前の真剣な眼差しに、皆も聞き入る体勢に入った。仙蔵が代表して続きを促す。

「今日は先生もいらっしゃるし、まずは一番大事なあやめちゃんの救出に二人、そして攪乱班に五人。残る一人が文を忍ばせる」
「それが一番効率の良い分け方だろうな」

半助が納得してみせる。

「それならば救出を土井先生と名前、文を忍ばせるのは長次でいいだろう。その他の者は先生達が動きやすいよう攪乱に努める。どうでしょうか、先生」
「うん、立花の組み分けで大丈夫だろう。中在家、城内が大混乱の中文箱に忍ばせるのはなかなか容易ではないが…やれるか?」
「…大丈夫、です…やってみせます」
「無理はするなよ」
「…はい」

長次の返事に、半助は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「よし、じゃあ取り敢えず出発しようか。日が落ちる前には着いておいた方がいい。城を見てみない事には細かい事を決められないしな」
「…もそ」
「おっしゃー!いけいけどんどーん!」
「静かにしろ小平太。この事は一部の人間しか知らぬ事なんだぞ。そこのギンギン馬鹿とアホ三郎も今日くらいは言い争いは勘弁してくれよ」
「その言い方はねーだろ!」
「俺の名前は留三郎だ!」
「止めなよ三人とも…」

出発するだけでこの喧しさである。本当に大丈夫だろうか、と内心呆れながら出る準備を始めた名前は、ふと半助の視線を感じた。

「…どうしました?」
「いや?頼りにしているよ、名字」
「ふふ、そうですね。この人達よりはマシだと思いますので任せてください」

各々が好き勝手に発言している事によってごちゃごちゃになっている六つの緑を一瞥し、名前は笑った。

「さ、早く行きましょう。あやめちゃんが心配です」
「おそらく人質として拘束しているだろうから手荒な事はされてないと思うが…まだ一年生だからな。早く安心させてやろう」
「はい」

そうして教師一名とその生徒七名は、任務を遂行するため、忍術学園を後にした。








「さて、あと半刻ほどで日が落ちる」

城から30メートル程離れた森の中で、八人の忍が身を潜めていた。全てが完了した後は、集合場所として使用する地点でもある。

「太陽が消えたらもう少し近づこう」
「わかりました」

半助の指示に、名前達は身を屈めてその時を待つ。

「…しかし、まずどうやって入るかだな」

長次並みにボソボソと仙蔵が名前に視線を向けて呟いた。いくら戦にあまり強くないとはいえ主城である。そう簡単にはいかないだろう。

「さっき町娘に変装して少しだけ周りを見てきたのだけど、さすがに周りから侵入するのは難しいわね。堀も水は殆ど抜いてあったし土塁の上にも見張り番がちゃんといたわ」
「数は」
「ざっと十人かしら。門番は表に二人。あの様子じゃ内側も二人でしょうね」
「そうか…ならば兵に化けて忍び込むか門番をどうにかするしかないな」
「それ、僕が行くよ」
「伊作が?」

この場に似つかわしくないふわふわとした笑顔を見せる伊作。驚いたように仙蔵が聞き返すと、何やら新薬があるとの事で、留三郎と二人で内側と外側の門番をどうにかするからそこから全員で入ろうというのだ。保健委員として身についてしまった「不運」が心配ではあったのだが、本来頼りになる仲間である。仙蔵に続いて他の六年や半助も伊作の案に同意した。


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