×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



「三蔵、この状況では事の次第を把握しました、なんて断言出来ませんが、そこまで悠長にもしてられないみたいですし、大まかな判断で我々も勝手に動きますよ」
「好きにしろ、要は奴を殺せばいいだけだからな」

手首の状態を確認するように回しながら、三蔵は面倒くさそうに返した。特に目立った怪我もなく、精神状態も安定しているようで一先ずは安心だと、八戒はそっと胸を撫で下ろす。

「難しい事はよくわかんねーから、俺も助かる!」
「ハッ、お猿ちゃんらしいな」
「猿じゃねー!」

こんな緊迫した状況下でもいつものように小競り合いが始まるのだから、周りもつい気が緩みそうになってしまう。だが敵前で全員が無防備になる訳にもいかず、ジリジリと相手の動静を探るように睨み合っていると、不意に蛇女が白い唇を卑しく歪めて見せた。

「嬉しいわ、美味しそうな食料がこんなに沢山。暫くは食べ物に困らないわね」
「食料って…まさか俺達食う気なのか!?」
「ヤローを喰うのが趣味なんだと」
「その上眼球蒐集も嗜んでいらっしゃると…ステキなご趣味ですね」
「俺ァ女は食う専門だから、食われるのはご免だぜ」
「てめーら変態同士気が合うんじゃねぇか」

合わねーよ、と声を荒げる悟浄に尚も女は楽し気に笑う。しかしここで、名前はこれまでの出来事に漸く納得がいった。何故、三蔵と瞳が入れ替わり、三蔵だけが連れ去られたのか。全てこの、目の前にいる妖怪とも人間とも言えない存在が己の欲を満たす為だけに行われた事だったのだ。
なんて勝手だろう、と名前は沸々と怒りが湧いてくる。とは言え一筋縄ではいかないであろう事は想像に難くない。

「玄奘様、経文は?」
「まだ発動はさせてねぇが…」

珍しく言葉を濁す三蔵だが、言わんとする事は何となく理解できる。しかし直ぐに「隙を見て発動する」という言葉を小声ではあったがしっかりと認識した名前は、強く頷き返した。


濁った空気の中、血の臭いと荒い息遣いが広がる。狭くはないが、五人が動き回るには少々窮屈なこの場所の影響もあり、各々が力を出し切ることが出来ず余計な体力を消耗していた。銃弾は殆どの確率で岩壁に当たって跳ね返り、錫杖もあまり広範囲に広げられない。八戒の気孔法、及び名前の術も無効にされるか避けられるかで、悟空の如意棒での攻撃を中心にそれぞれが肉弾戦を余儀なくされた。

「これでは埒が明きませんね」

額に流れる汗を乱暴に拭いながら八戒がぼやく。三蔵や悟空も苛つき始めてきているが、何よりも敵である蛇女が飽きた、とでも言いたげに欠伸を零し反撃を殆どしてこない様に五人はどうしようもない気持ちにさせられていた。遊んでいるつもりなのだろうか。もしくは大事な食料に傷をつけたくないのか。何にせよこのままではこちらが先にやられてしまう事を懸念し、八戒が一歩前へと踏み出した。

「…いいですか、僕が気孔を放って気を引きますからその隙に皆さんは洞窟の外へ。ここではあちらが有利ですから、少しでも状況を打破しないと」
「えっ、でも八戒はどーすんだよ?」
「僕もすぐ出ますから大丈夫です。多分この攻撃では彼女は倒せないでしょうし、確実に追いかけてきますから出てすぐに態勢を整えましょう」

今はそれしか無い、と八戒の指示に頷いた。それを確認し、最大出力で放てるよう多少の時間をかけて八戒は気を集め始める。

「あら、まだ懲りないのね。それじゃあ私は倒せないわよ」
「ええ…わかって、ますよ…!」

飼い慣らしている蛇に構っていた女に向かって、八戒は一気に放出した。

「早く!!」

そう叫ぶと同時に悟浄を先頭に洞窟の出口を目指した。敵に背を向けること自体不安で仕方なかったが、ここは八戒を信用して走るしかない。
しかし現実はそう甘くはなかった。八戒の攻撃を軽く躱そうとしていた蛇女は踵を返す一行を目視し、忽ち今までの言動からは想像もつかないほどの怒りを露わにしたのだ。

「逃すかァァァ!!!」

右手で気孔を真っ二つにして消滅させたかと思えば、ありとあらゆる岩の隙間から蛇を呼び出し、三蔵へと放つ。

「三蔵!!」

八戒の叫び声を背中に受け、焦眉の急を告げているのだと振り返ろうとしたところで、三蔵は急に強い力によって突き飛ばされてしまった。尻餅を付き、壁に背中を打ち付けた三蔵は低く声を洩らしながら立ち上がりかけたその瞬間、目の前に起こっている状況に驚倒した。身体を全て覆ってしまう程の大量の蛇が、殺気を纏って名前に牙を突き刺しているのだ。

「名前!!」
「…くそっ」

あまりの情景に言葉を失った三蔵には目をやる余裕はなく、悟空と悟浄が蛇を剥がそうと名前に駆け寄った。ここにいる蛇の毒がどれ程のものなのかはわからないが、蛇の毒は処置をしなければ一匹でも死に至る事もあると聞く。そんなものが何十匹も牙を突き立てているのだから、事態は一刻を争う。

「三蔵!オメーも手伝え!!」

悟浄の怒号に我に返った三蔵は、上手く動かない足を叱咤して駆け寄る。しかしそこで、蛇に埋もれながら苦し紛れに名前が一つ零した言葉を拾った。

「……火焔」

ハッとして、三蔵は悟浄と悟空の腕を力一杯引っ張って自らの元へ手繰り寄せた。

「離れろ!!」

力の限り三蔵が叫んだと同時に、名前の身体を一瞬にして炎が包み込んだ。しかし体には一切影響がないようで、這いずり回っている蛇のみを確実に焼いている。壁を伝って逃げようとするものまで全てを焼き尽くすその炎は、あっという間に沈静化して行き最後の一匹が灰になったと同時に消滅した。

「…名前」
「……はい…」
「自力でいけそうか」
「なんとか…」

ヒソヒソと交わされた会話を呆気にとられながらも耳にした悟空、悟浄、八戒であったが、その意味を確かめる前にやらねばならない事があると、一斉に女へと矛先を転じた。何としてでも手に入れたかった三蔵の動きは止める事が出来ず、剰え可愛がっていた蛇を全て焼かれた女は鬼のような形相で息を荒げている。

「おのれ…許さん…」
「そりゃこっちの台詞だ」
「そうだぞ!ぜってー許さねーからな!!」

ゆらりと立ち上がった三蔵に続き、悟空も如意棒を構える。名前の事もあり、外に出る作戦は無効になってしまったが、そんな事よりも蛇女に対する憎悪の念が今は全身を支配していた。



*prev | next#




戻る