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「…取り敢えず、原因として一番に考えられるのは、この街に入る直前に通った森ですよね」

朝食後のコーヒーを其々に配りながら、八戒が口を開く。

「でもよ、森でも別に妙な事は無かったじゃねーか。そりゃ妖怪に襲われはしたけど、全員殺したし…」
「そこなんですよ。三蔵、昨日の妖怪の中に変な術を使うような奴はいませんでしたか?」

窓際で煙を吐いていた男は、投げかけられた言葉に少しばかり考える素振りをしてみせた。即答されない事を見るに何か小さい事でもいいので謎を解く鍵があるのではないかと、皆は傾注して発せられるであろう言葉を待つ。

「術を使う奴はいなかったが…」

やはり何か気になる事があるようで、三蔵は言葉を一度途切れさせた。八戒達がそのまま黙って続きを促すと、窓の外に視線を移して再び口を開く。

「…何か、妙な感じはした」
「それは妖怪が、ですか?」
「いや、森全体が…と言った方がいいだろうな」

お前達は何も感じなかったのか、と言わんばかりに悟空と名前に一瞥を投げた三蔵であったが、悟空はそこまで気になるような事があったとは記憶していないようだ。

「名前も何も感じませんでしたか?」
「うーん…妙な、というか何だか気持ち悪い森だなとは思ったけど…」

居心地が悪いというか、悪寒がするというか。妖怪と戦いながら名前は薄っすらとそんな己の体にまとわり付く気持ちの悪い空気を感じてはいた。しかし妖怪を殲滅し、森を出る頃にはそんな気配はすっかりなりを潜めていた為、今の今まで気にも留めていなかったのである。とは言えこういう事態に陥り、しかも三蔵までもが何かを感じていたとなるとやはりあの森に原因があると言っても過言ではないだろう。

「…僕等は気付かなかったという事は…妖気では無くて何か別のもの…という可能性はありますね」
「なんだそりゃ」
「わかりません。でもだからこそ、また森に戻らないといけませんね」

いまだ不思議そうな顔をしている悟浄にニッコリといつもの笑顔を向け、早速八戒は準備に取り掛かった。






「…思ったよりすんなり入れましたね」

ジープから降り、比較的傾斜の緩い山道を進みながら八戒がポツリと零した。少し周りを警戒しているような声音に、先頭を歩いていた悟空がまん丸な金眼を向けて不思議そうな顔をする。

「どういう意味?」
「いえ、てっきり結界とか、何か別のものが待ち構えていたりとかするのかなーと思ってたので」
「テメーは考え過ぎだ」

フン、といつものように鼻を鳴らした三蔵に対し八戒は「そうですかねぇ」と苦笑しながら返した。





暫く行くと、一行は少しの違和感と不安を感じて足を止めた。周りを伺うようにしながら悟浄がいの一番に眉を顰める。

「…なんか、視界悪くなってきてねェ?」
「ええ、霧が出てきたのかと思ってたんですが…何か少し違うような…」
「……変なニオイがする」

鼻をヒクつかせる悟空の一言に、皆臨戦態勢をとる。八戒の言葉通りやはり霧なんて簡単なものではないようだ。何かの物質、あるいは現象によって発生したものか、誰かが意図的に振り撒いているものか。現状では特定するのは難しいが、妖気は勿論のこと人の気配すら感じない事を踏まえると、後者の可能性は低いと判断するのが妥当だろう。

「どうします、三蔵」
「…ここまで来て引き返すわけにもいかねぇだろ」
「ですよねぇ。一先ず皆さん、あまり離れすぎないようにして進みましょう」

悟空を先頭に再び歩き始めた五人だったが、少ししてドサリと何かが倒れるような音を拾い、その音の元を探ろうと振り向いた男達は己の瞳に映った光景に目を見張った。

「三蔵!名前…!」

一目散に駆けよった悟空は、地面に倒れる二人の頭を抱え起こし、必死に体を揺する。八戒も呼吸の確認をしようと二人の側に膝をつき、悟浄はそんな四人を庇うように前に立って辺りを警戒した。
一体何が起こったのか。殺気どころか何の気配も感じないこの森の中でこの二人の身に何が。そんな訳の分からない状況で焦燥、困惑、恐怖に苛まれながらも現状を少しでも打破しようと、各々が動き出したその時。ズシリと何かがのし掛かってきたかのように頭が重くなり、視界がぐにゃりと歪んだ。倒れる。そう理解するに至った所で、三人は一斉に意識が途切れてしまった。




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