×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



「cherish」「smoke」同一夢主



「寒くなりましたねぇ」

閉じられた窓から外を眺めながら、八戒は入れたばかりの熱い茶をゆっくり啜った。寺院内にある自室で仕事の書類に目を通していた三蔵も一旦手を止め、八戒の入れた茶に口を付ける。

「そろそろ雪でも降ってきそうだな」
「予報では来週から雪マーク付いてましたよ」
「てめーら会話だけ聞いてっとマジでジジイだな。天気の事しか話すことねーの?」
「フン、年中女の話してる奴よりはマシだ」

近くの椅子に腰掛けていた悟浄に一瞥を投げ、三蔵は再び仕事に戻った。そんな男を窓際から暫く無言で眺めていた八戒だったが、ふと広い部屋を見渡して首を傾げた。いつもと比べて随分と、静かに感じたのだ。

「そう言えば悟空と名前はどうしたんですか?」

いつもならば、名前はそこまで無いとしても悟空が煩いくらい自分達に絡んでくるのに、と八戒は疑問符を浮かべたまま三蔵の返答を待つ。すると、先程八戒が覗いていた窓の外を目線で示しながら、三蔵はほんの少しだけ柔らかい表情を見せた。

「お前達が来る少し前に名前を無理矢理引っ張りながら外に遊びに行った」
「そうなんですね。悟空はともかくとして名前はちゃんと厚着してますかねぇ?」
「知らん」
「もー、三蔵…名前は女の子なんですから」
「あいつももう子供じゃねぇんだから自分の事くらい自分でやるだろ」

そう言って赤と白のソフトパックから一本煙草を取り出し、やや眉間に皺を寄せながら火をつけた。ふぅ、と天井に向かって煙を吐き出すと、何やら廊下が騒がしくなってきた事に気が付き、三蔵は意識を扉の方へと向ける。それにつられて悟浄や八戒までも不思議そうに顔を向けると、いきなり壊さんばかりの勢いで扉が開かれ、先程まで話題に上っていた二人が何故か、びしょ濡れの状態で部屋に飛び込んで来た。

「三蔵ー!!」
「五月蝿え!静かに入って来いっていつも言ってんだろーが!」
「それより二人とも、どうしたんです?そんなにびしょ濡れで…」

開きっぱなしだった扉を閉め、二人の側に寄った八戒は交互に見比べて顔を青くした。幸い怪我などは無さそうだが、この寒空の中びしょ濡れで出歩くなど自殺行為だ。悟空はケロッとしているようにも見えるが、隣に立つ名前は些か唇が紫になってきているような気がする。

「俺のせいで一緒に池に落ちちゃったんだ!」
「池!?」
「おいおい子猿ちゃん、オメーはいいかも知んねーが名前ちゃんまで巻き込んだらアウトだろ」
「猿って言うな!だからわざとじゃないんだって!なぁ、名前!」
「えぇ…まぁ…私も油断してたって言うか…」
「とにかく、二人ともお風呂に入って先ずは体を温めてきてください。二人一緒に…とは流石に言えないので交代で…」
「悟空、お前は共同風呂の方に行って来い」
「わかった!」

困惑の色を浮かべている八戒に代わり、三蔵が発した提案に悟空は元気に返事をして駆けて行った。修行僧など他の僧侶達にはあまり良くは思われていない悟空だが、今の時間なら風呂を使う人もいない為特に問題はないだろう。

「…三蔵、今の言い方だともう一つお風呂があるような感じでしたけど…?」
「この部屋の隣に小せぇが風呂場がある」
「そうなんですね!それは良かった」
「つーか、無けりゃ色々とやべーんじゃねーの」
「…あ、確かに」

悟浄の言葉に納得しつつ、八戒は早速名前の背を押して風呂場へ促した。名前はチラリと三蔵の方へ一度視線を送ったが、それに対して返される事はなかったので「行ってきます」と一言告げ、体を温めるべく準備に取り掛かった。着替えを適当に取り出し、タオルも持った事を確認すると扉を開けて脱衣所へ向かう。

「名前ちゃーん、ごじょーさんが背中流してやろうか?」

扉越しにいつもの軽口が聴こえてきたが、すぐさまハリセンで叩く音と怒号、そしてそれを宥める穏やかな声が聞こえてきて名前は自然と頬が緩んだ。
いつも通りのやり取りに耳を傾けながら、早速体に張り付いたシャツを脱ぎ去った。軽く絞ると冷たく少し濁った水がぽたぽたと風呂場の床を濡らしていく。そこでふと、名前は己が歩いて来た道を振り返って床をゆっくりと目で追った。

「…あっ、玄奘様!」

慌てて先程の部屋へ戻り、最高僧の名を呼ぶ。するとそこにいた三人の男達が皆同じ様に目を丸くして数秒、固まった。だがその後の反応は其々で、嬉しそうに眺め始めた悟浄と、「なんて格好してるんですか」とまるで母親の様に諭す八戒。そして名を呼ばれた三蔵はやや面倒くさそうに片眉を上げて見せた。

「…何だ」
「濡れた床は後できちんと掃除しますので」
「そんな事をわざわざ言いに戻ってきたのか…?」
「そんな事じゃないですよ。多分悟空の方が早く戻って来ますから、叱らないでくださいね。一緒に掃除しますので」
「わかったから早く入って来い」
「はい」

三蔵の言葉に満足したのか、漸く名前は踵を返した。

「いやぁ、いいもん見れたわ」
「全く…名前はもう少し恥じらいを覚えるべきですよ。三蔵ももう少し注意しないと」
「面倒くせぇ」
「まぁいいじゃねーの。サラシ巻いてたし、ギリギリセーフだろ」
「あ、そうですよ晒!あれ三蔵の指示ですか!?」
「あ?」

悟浄のセリフを聞き、急に八戒は仕事机に両手をついて三蔵に詰め寄った。二本目の煙草を吹かしていた三蔵は、目の前の真剣な眼差しに訳がわからんと言いたげに、短く言葉を返した。

「あ?じゃないですよ。いつから巻いてるんです?」
「知らねぇよ。自分で考えてやってんだろ」
「…わかりました。では明日、名前と一緒に買い物に行きます」
「…?」
「あっ、俺も行くわソレ」

いまいち現状が理解出来ていない三蔵とは裏腹に、八戒と悟浄は早速明日の買い物ルートの話に花を咲かせ始めた。二人の男の会話からして何やら名前が身に付ける物を買いに行く算段らしいが、何故先程の話からそんな事にまで発展したのか三蔵には皆目見当もつかない。だが癪に触るのでそれを馬鹿正直に尋ねる事が出来ない三蔵は、その己の厄介な性格にただ苛立ちを露わにするだけであった。勿論そんな男の事には悟浄も八戒も気付いてはいたが、こちらから何か仕掛けても真っ直ぐ聞き入れて貰えるとは思えず、ただひたすらに名前が戻ってくる事を願っていた。




*prev | next#



戻る