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※後半に軽い性描写がありますのでご注意ください



「あっ、お香姐さんだ!」
「え!どこ!?」

閻魔殿にて、茄子が発した名前に横にいた唐瓜がわかりやすい程に反応した。茄子の指差す方に目線を移すと、いつものように蛇を連れて楽しそうに会話をしているお香が目に入る。

「いつ見ても良いよなぁお香姐さん…あれ?横にいるのって名前さん?」
「あ、ほんとだー」
「…なんかあんまりよく聞こえないけどお茶会の話…してんのかな…あの二人って仲いいんだな…」
「俺この間名前さんがお香姐さんのこと『お香』って呼んでるの聞いたよ」
「まぁ…名前さんは閻魔大王の第二補佐官だしお香姐さんとも接点があるだろうしなぁ…」
「俺、名前さんも好きだよ。優しいし面白い」
「確かに名前さんもいいよな。お香姐さんとは少しタイプが違うけど…いいなぁ、俺もそのお茶会参加したい」

少し離れた所でお香と名前を見つめながらコソコソと話を進めていると、不意に後ろから大柄な先輩獄卒が会話に割り込んできた。

「そんな事をしたら鬼灯様に何をされるかわからんぞ」
「おわっ、びっくりした…」
「どういう事ですかー?」

急に現れた先輩にビクッと肩が跳ねた唐瓜とは対照的に茄子はのんびりとした様子で話の続きを促した。

「お前ら知らねーのか?あの第二補佐官様は少し前に千年ほどかけて漸く鬼灯様が落とされた方なんだぞ」
「えっ、それって…」
「いや、四千年かけて口説き落としたんじゃなかったか?」

どこから聞いていたのかもう一人の先輩獄卒まで現れて会話に混ざってきた。

「いや、俺の聞いた話だと千年くらいだった筈だ」
「四千年はいってる筈だって!」
「千年!」
「四千年!」

終いには唐瓜と茄子そっちのけで言い争いが始まってしまった。二人とも先輩という事もあって止める機会を失ってしまい、唐瓜達がおろおろとその言い争う様子を眺めていると、思いもよらない人物がその場に姿を現した。

「正確には二千年程ですよ」
「ほ、鬼灯様…!」
「うわっ、すみません仕事に戻ります…!」

突然聞こえたバリトンボイスに、白熱的な議論を交わしていた二人はあっという間に散り散りになってしまった。

「まったく…他人の事でそこまで熱くならなくてもいいでしょうに。ほら、あなた達も仕事に戻りなさい」
「鬼灯様って意外と一途なんですね!」
「あっ、おいバカ茄子!」

またしても突拍子も無い事を言い出した茄子を唐瓜が窘める。これ以上余計な事を言ってしまわないように、鬼灯の顔色を伺いながら唐瓜は茄子の手を引いてその場から離れようとしたのだが、意外にも鬼灯はそれを良しとしなかった。

「…少々、誤解されているようなので言っておきますが、厳密に言うと自分の気持ちを自覚してから名前さんへ告げ始めたのは二百年程前です。名前さんと初めて顔を合わせたのはもっとずっと前ですが、頻繁にお話しするようになったのが二千年程前、という事なのですよ」

想像していたよりも平然と述べる鬼灯に、唐瓜はホッと胸を撫で下ろした。しかし千年単位で説明されてしまうと、唐瓜自身も鬼ではあるがさすがに「凄い」としか言いようがなかった。茄子も思わぬ返答に少しばかり困惑しているようだ。

「お、俺…全然気が付きませんでした。お二人がその…そういう仲だったなんて…」
「まぁ、私も名前さんも仕事とプライベートはきちんと分けたい方なので知らない人は多いでしょうね。わざわざ言うことでも無いですし」
「へぇ…俺、あんまり名前さんとは話した事ないんですけど、鬼灯様がそこまでなさる方なら何かこう…名前さんって特別な何かを持ってそうですね…」

唐瓜が再びお香と話す名前に向かって軽く視線を送ると、鬼灯も同じように視線を送り、不思議そうに首を傾げた。

「…何故そう思うんです?別に彼女は普通ですよ」
「俺も別に名前さんが特別変な人だとは思わなかったよー?」
「へ、変な人だとは言ってないだろ茄子!ってかお前名前さんとそんなに仲いいのかよ!?」
「うん。よく色んな所に連れてってくれるよ。凄くいい人だし、面白いよ」
「面白いって…そう言えばさっきも言ってたな。何なんだよ、面白いって」
「そのままの意味だよ!名前さんのお話し聞いたり行動見てるとこう…うおおお!ってテンション上がっちゃうんだ」
「謎が深まっただけだった…」

ガックリと肩を落として、これ以上聞くと仕事に戻りなさいと再び鬼灯の怒りを買いかねないので唐瓜は茄子を引っ張って下がろうとした。すると先程までお香と会話をしていた筈の名前が鬼灯の方へ歩いてくるのが見え、唐瓜は「あ、」と声を零す。

「鬼灯様、お話中すみません少しよろしいですか?」
「はい、何ですか」
「私、今から衆合地獄へ視察に行ってまいります。頼まれていた仕事は終わってますので鬼灯様のデスクへ置いておきます」
「わかりました。ありがとうございます」
「名前さん!」

要件だけを端的に述べ、その場を去ろうとした名前を呼び止めたのは、茄子だった。

「何?」
「お昼良かったら一緒に食べませんかー?」
「私と?いいわよ」
「やったー」
「あ、あの、俺もいいですか!」

茄子は普段から仲良くしているだけあって、何事もなく了承を得ていた。それで慌てて唐瓜も便乗しようと名乗りをあげる。

「チップ…あ、いえ…えっと…唐瓜君だったわよね?」
「はい!」

おそらくチップとデールと言いかけたのだろうが、それをあえて突くような事はせず、唐瓜は期待を込めた視線を名前へ送った。

「いいわよ。みんなで食べましょ。お香も連れて行くから…鬼灯様も、ね?」
「わかりました」
「ありがとうございます!」
「わーい!」
「それじゃあ、また食堂で」

鬼灯に向かって会釈して、地獄のチップとデールに手を振りながら名前はお香と共に衆合地獄へと向かって行った。その様子をぽけーっと眺めていた二人だったが、鬼灯に叱咤されて慌てて持ち場へと戻った。




お昼休憩の時間になった。約束通り名前はお香を誘って早速食堂へと足を運んでいた。そこには唐瓜と茄子の姿もあり、各々注文した物を持って一つのテーブルに集まる。稍あって鬼灯も姿を現した。後ろには閻魔大王もランチを持ってニコニコしている。

「すみません、遅くなりました」
「鬼灯様、大王、お疲れ様です」

名前の言葉を皮切りに、お香達も「お疲れ様です」と顔を上げた。

「みんなもお疲れー」
「名前さん、視察の方はどうでしたか」
「本日は、特に問題ありませんでした」
「名前ちゃん、ワシも一緒にいいかな?」
「どうぞどうぞ。あ、こちらの方が広いのでよろしければ」

名前は自分のお盆を少し手前に引いて、向かいを手のひらを使って示した。鬼灯はその大王の横に腰を下ろし、名前の横にはお香が座った。そして茄子は鬼灯の横に、唐瓜は嬉しそうにお香の横に腰を下ろしている。

「さっき鬼灯君から少し聞いたんだけど、君たち面白い話してたんだってー?」

ご飯を口に運びながら、大王が茄子と唐瓜を交互に見てそう言った。しかし二人が返事をするよりも早く鬼灯が厳しく訂正を入れる。

「面白い話などと言った覚えはありませんが」
「君にとってはそうかもしれないけどねぇ…結構みんな、口に出さないだけで気になってる事多いと思うよ」
「…そんなもんなんですかねぇ」
「君たちだから、っていうのは大きいけどね」
「…何の話をされてるんですか?お二人共」

何の事だかわかっていない名前は、鬼灯と大王を交互に見ながら首を傾げた。お香も唐瓜達が話していた内容は知らない筈だが、何となく察しているようで、一人微笑んでいる。

「あ、そっか名前ちゃんは聞いてないのか」
「別に知らなくていいですよ」
「え、私に関係するお話しなんですか?」
「あなた一人という訳ではありませんが…関わりがないとは言い切れません」

珍しくハッキリと物を言わない鬼灯に、名前は益々わからないと首を傾げた。しかし鬼灯はそれ以上言うつもりはないとでも言いたげに黙々と箸を動かし始めるので、お香が仕方なく助け船を出した。

「多分、名前ちゃん達の事を話しているんだと思うわ」
「私達?」
「あなたと、鬼灯様よ」

何をそんなに話す事があるのだろうか、と名前は周りに目を移したが、鬼灯以外は興味津々と名前達を見つめている。

「俺たち、ついさっき名前さんが鬼灯様の彼女だって事知ったんです!全然気が付かなかったからビックリしちゃったなー」
「お、俺もです!」

茄子の言葉に唐瓜は慌てて乗っかった。こうでもしないと会話に入っていけないと考えての事だろう。案の定、名前を含めお香や大王、鬼灯の意識は唐瓜と茄子の二人に注がれた。

「あ、そういう事ね。鬼灯様から聞いたの?」
「先輩達から聞いたんです。名前さんがお香姐さんと話しているのを見て、仲良いのかな、って話してたら突然背後から現れて…そしてその後鬼灯様も来て、少しだけお二人の事を教えてもらったんです」
「珍しいですね、鬼灯様からそのような事を話されるなんて」

不意に話を振られて、鬼灯は口に運びかけていたお椀をお盆の上に戻した。

「話が勝手に誇張されているようだったので、訂正しただけですよ」
「へぇ、どんな壮大な話にされていたんです?」

鬼灯は、少し楽しそうな声音で問いかけてきた名前を一瞬だけ見やった。

「…私が四千年かけてあなたを口説き落としたとか」
「四千年…という私と鬼灯様が初めて会った頃くらいじゃないですか?」
「…そうですね。ですから噂が本当だった場合、名前さんとお会いしたのは地獄が形成される少し前ですから、出会ってからそう経たないうちに口説き始めたという事になります。四千年もかけて」
「それはまた…物凄い恋愛小説が出来そうですね」
「ですから私は否定したのです」

想像以上に壮大な噂が広まっていたという事実を聞かされ、名前もさすがに苦笑いを零した。しかし、何がそんなに興味をそそられるのか、唐瓜と茄子はいまだに楽しそうな目線を送っている。そんな二人が可愛く思えたようで、お香は味方でもするように話を掘り下げ始めた。

「そうねぇ、二人が頻繁にお話しするようになったのって、名前ちゃんが第二補佐官に任命された頃からだったものねぇ」

そう考えると四千年かけて口説くのは中々飛躍し過ぎているわよね、と言葉を続けると、茄子が持っていた箸を置いて腕を自分の前で組んだ。

「…という事は、名前さんが第二補佐官に任命されたのは二千年くらい前って事…?」
「そうよ、よくわかったわねぇ、茄子ちゃん」
「鬼灯様がさっき、頻繁に話すようになったのが二千年くらい前って言ってたから!」
「じゃあこれは知ってるかしら。名前ちゃんが第二補佐官をやる前、どこにいたか」
「えー?うーん…」
「あっ、衆合地獄ですか!?」
「当たりよ、唐瓜ちゃん」
「もしかしたらそうなのかなーって思ってたんですよ!」

お香にお熱な唐瓜は、お香が自分一人に微笑みかけてきた事で随分と興奮気味である。



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