▼勘違い
「6月ってさ、結構なドSよね」
「は、」
とある練習日の昼休憩中、部室に用があった私は隆也と共に部室を訪れていた。そんな時にふと、頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出すと、「何言ってるんだコイツは」とでもいいたげな隆也と目が合った。
「全然休ませてくれないし、どれだけ私を酷使すれば気が済むのよ!って感じなんだよね」
「そうか…?まぁ…そうかもなあ…」
特にそんなことを考えたりしなかったのだろうか、隆也は曖昧に返事をした。
「もう…ホント憂鬱よ……あ、ん?」
「?」
途中で言葉を切った私に不思議そうな表情の隆也。無言で私の元まで寄ってきた。
「睫…入った…っ、いた…」
「どれ?…あー…入ってる入ってる」
「んっ…痛い…」
「だろうなぁ…」
どうやらいつもより奥に入ってるようで、なかなか取れない。あまりの痛さに涙は止まらないし目も開けられない。最悪の状態だ。
「ほら、もう一回ちょっと開けてみ?」
「無理…痛いっ」
「でもそれじゃ辛いぞ。とりあえず力抜けって。変なところまで力んでる」
「無理無理!あ、隆也…っ」
無理矢理目を開かせようとする隆也に私は必死に抵抗した。だがそんな抵抗も虚しく、あっという間に瞼を押さえられてしまう。
「上向いてろよ」
「え、ちょっと触る気…!?やだやだ、いたいっ」
「こうでもしねーと終わんねーだろ。いいから大人しく言うこと聞いてろ」
こうなったら腹を括るしかない。私は必死の思いで上を向き、彼に身を任せた。だけどどうにも他人の指が自分の瞳に触れるというのは恐ろしいもので。体には変な力が入ったままだった。
「おま、力…まぁいいや。いくぞ」
「う、ん…っ」
「よし、終わったぞ。ティッシュ持ってるか?」
「はい」
私は一枚取り出し、彼に渡した。そしてもう一枚取って、涙を拭く。
「うわ、目真っ赤じゃん」
「それくらい痛かったの」
何度かパチパチとまばたきすれば、何となく感覚が戻ってきた。私はしばらく目を擦って、隆也にお礼を言った。
一方。
「…は、入りずれぇ…」
花井が部室の前でとんでもない勘違いをしていた。
───あいつらこんな所で何やってんだ!ドSって…阿部の奴そんな鬼畜なことやってんのか!?いやでも阿部に限ってそんな…だけど今の聞いてる限りじゃ嘘じゃなさそうだぞ!?痛いばっか連呼してたしよ…
じゃあ何か?あいつらはいつもあんなアブノーマルなプレイを…
俺ちょっと部室に用があったんだけど…これ絶対入れねえよな…。だってティッシュとか…完璧ヤっちまってるだろこれ…うおおどうしよう…!
「花井」
「うわっ!?阿部!」
いきなり部室の扉が開き、花井は目を見開いた。
「…お前勘違いもいいとこだぞ」
「は、え?」
「だから、全部口に出てるっつーの」
「嘘…っ、」
慌てて口を押さえる花井。それを見て阿部は苦笑した。
「おもしれー奴」
「うるせー!お前らこそ何やってたんだよ!」
「は?あいつが睫目に入ったっつーから取ってやってたんだよ」
「睫……」
──あぁ…そういうオチか。
花井は真っ赤になって、しばらく阿部達の顔を見ることができなかった。
(よくあるネタです 笑)
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