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 ▼双子の特権

双子シリーズ(阿部の妹設定だったやつ)の第二弾。




「あ、忘れた」

体育服に着替えるため移動した別教室で私は、バッグの中を探りながら淡々と告げた。言わずもがな、体操服である。と、言ってもここの学校は制服がないため全員指定の名前付き体操服を着ることはないが、一応揃いのジャージは支給されていた。いや、購入させられたのほうが正しいのだが。とにかく、大体の人がそのジャージの下だけ活用し、上は適当にTシャツを着る人が多い。(冬場は上に羽織るジャージも必要なので、結局は殆どの人がお揃いになってしまう)かく言う私も、いつも適当な物を着ていたのだが、生憎今日はジャージの下しか持ってきておらず、その上普段学校には制服で来ているため、Tシャツの類が一つもない。

「うーん……あっ」

誰かクラスメイトに借りるのは気が引けるが、たった一人、何も気にしなくていい相手がいることに気が付いた。私は一目散に教室を出て、男子が着替える教室に向かう。そして、まだ中で皆が着替えているのも気にせず、ガラリとドアを開けて名を呼んだ。

「隆也ー!」
「うおっ!?」

いきなり現れた女子に、隆也のみならず教室中の男子が振り向いた。そんな中で、私は普通に隆也の元まで足を運ぶ。

「隆也、体操服忘れた」
「お前なぁ、一応女なんだから…」
「いいから、何か着るもの持ってない?」
「はぁ?んなモン持ってねーよ。俺だって制服登校だしな」
「ジャージは?」
「もう5月なんだから持ってきてるわけねーだろ。Tシャツ一枚しかねぇ」
「じゃあそれ」
「俺に裸でやれってか!?」
「だって私がブラ一枚でやるよりましでしょ?」
「んなことしたら警察に捕まんぞ。猥褻物陳列罪」
「大事なとこは隠してんでしょーが!」
「そこじゃねーだろ怒るとこ」

頑としてTシャツを貸そうとしない隆也に、私は息をつき、下を向いた。

「はぁ……わかった。制服のシャツでやるよ…」

悲しそうなフリをして踵を返す私。もう一度言う、フリである。だけど隆也にはそれで十分だ。なんだかんだ言ったって、彼は結局優しいのだから。

「……あーもうわかったわかった。俺がアンダー着りゃあいいんだろ」
「ふふ、やっぱり」
「あ?何が」
「なんでも」

案の定折れた隆也。本当に彼は優しいなぁと私は隆也のそばに駆け寄った。

「ありがとねー」
「ちっ、やっぱオメーがアンダー着るか?」
「嫌、臭い。どうせ朝練の時着たやつでしょ」
「おう、よくわかったな」
「幼気な少女がそんなの着るなんて最悪よ。いーからはやく、Tシャツ貸して」
「へいへい」

ようやく自分の手に渡ったTシャツを、私は両手で抱きしめて教室を出た。振り返り様に耳元でお礼の後に「お兄ちゃん」と付け加えてみたのは二人だけの秘密だ。




それから体育が終わって。

「隆也ーありがとー」
「てめ、なんで返しにくんだよ。家まで自分で持って帰れ」
「えー」
「えー、じゃない」
「んー…まぁ、そりゃそうか」

今日はもうそのTシャツは使わないのだから当然か、と私は再びTシャツを持って教室を出た。
その後。


「阿部!なんで受け取らねーんだよ!」
「はあ?」
「阿部妹の着たてホヤホヤだぞ!?」
「だから?」
「俺らに嗅がせろよ!触らせろ!」
「…」

という会話が教室で繰り広げられたのは後に聞いた話。



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