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 ▼おまじない




「…お前なんか匂う」

リビングのソファーに座ってそうそう、隆也は隣にいる私の方へ鼻をひくつかせた。しかし、特にその匂いの素及び原因に心当たりがないので私は首を傾げた。

「え…どんな?」
「…甘い」
「……あ、そういえば」

自分では匂いがわからなかったが、どんな匂いか教えられ、ようやく一つの答えに辿り着いた。

「さっきお姉ちゃんとお菓子作ってた」
「お菓子?」
「クリスマス近いし、練習したいってお姉ちゃんが」
「だからか…」

大方匂いが移ったのだろうと思ったらしい隆也は、スン、ともう一度鼻をひくつかせた。

「…でも耳付近から匂いすんぞ」

体を傾け、耳元に顔を近づけてきた隆也。髪が当たってくすぐったい。

「あ、だからね。その時に付けられたんだよ」
「何を」
「バニラエッセンス」
「耳にか?」
「正確には耳朶ね」
「なんでまた」
「さぁ?急にお姉ちゃんが付けてきたから……ふふ、そういえば昔あったよねこういうの」

私の言ってることが分からないのか、隆也はふと顔を上げて、私と視線を合わせた。

「聞いたことない?女の子のおまじない」
「知らねー」
「耳朶とか耳の裏とかにバニラエッセンス付けて出かけると彼氏と仲直りできたり良いことあるよ。みたいな。あれ、昔だけじゃないのかな…もしかしたら今もあるのかも」
「…お前もやったことあるのか?」
「まさか。ないよ。まぁ、現在進行形でやらされてるけど」
「じゃあ琴乃さんはおまじないとしてつけたのか?」

少し意外そうな顔をした隆也に、私は笑いを零した。

「や、多分ただ付けただけだと思う」
「ま、そうだよな」

お互いに苦笑した。お姉ちゃんがそんな女の子らしいタイプでは無いのは重々承知だ。

「…そんなに匂う?一応拭いたんだけど」

再び耳元に顔を近づける隆也に、私は尋ねた。

「結構匂う」
「そっかぁ…しょうがないね」

お風呂で擦るしかないな…と、浅く息を吐く。
そんな時、いきなり生暖かい感触が耳朶に伝わってきた。

「…っ、舐めないでよ」
「んー…悪ィ…」

謝ってるようで謝ってない隆也。私の反抗なんて気にも止めず、隆也は私を押し倒し、耳朶を甘噛みしてきた。

「セクハラ…」
「んー…」
「もう…聞いちゃいない…っん…」

徐々に降りてくる唇。気づけば顔は、もう首元に埋められていた。

「たーかーやー…」
「ん、」
「何、好きなのこの匂い」
「いや、珍しいだけ」

そう言って、チュッと軽く首筋に唇を落とした。

「…スイッチ入ったでしょ」
「よくおわかりで」
「もー…」



呆れながらも結局、私は彼の背中に腕を回してしまった。





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