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とある日の朝練終了後、西浦ナインはそれぞれのクラスへ分かれ、先生が来るまで思い思いに過ごしていた。と、言ってもその八割が課題を必死にやっている訳だが、名前が属する七組でも、必死こいて課題を終わらせようとしている人物がいた。
言わずもがな、水谷である。

「うわぁああ!終わんないよー!」

他の時間ならまだ間に合ったものを、運が悪いことに水谷がやっていなかった課題は一時間目の提出だった。

「花井ーっ!」
「自業自得だ」
「っ…阿部ェェ!!」
「…諦めろ」
「酷いっ!」

野球部二人に助けを求めたが、案の定手を差し伸べる素振りさえ見せない。そこで水谷は、最終手段を取ることにした。


「……名字…」

子犬のような目で見つめる水谷。そんな瞳に名前はつい見せてあげたくなって、自分の課題に手を伸ばしかけた。しかし、後ろから伸ばされた手によりそれは遮られてしまった。

「その目に騙されるなよ」

そう言って名前に目隠しをする阿部。そのおかげか名前はハッと我にかえり、伸ばしかけた手を引っ込めた。それと同時に阿部の手も引っ込む。

「…あ、危ない危ない…危うく貸しちゃうとこだった…」
「阿部!余計なことするなよー!!」
「んなことやってる暇あったらさっさと終わらせろよ」
「ぐ……」
「阿部が正論だな」
「む………」

阿部と花井のダブル攻撃で言葉を無くす水谷。仕方なく再びペンを取り課題を進め始めた。

「うう……っ、なんでお前らは余裕なんだよ…!」
「一時間目提出のやつだけ家でやってきたからだよ。他は後からで間に合うしな」

阿部の言葉に更に落ち込んだ。自分もそうしておけば良かった…と今更ながら後悔の念が襲う。
……が、結局、水谷は課題を終わらせることはできなかった。








「はぁー……」

課題を提出できなかったバツとして更に一枚プリントを増やされた水谷は、昼休みになるやいなや、机に突っ伏した。片手にはその例のプリントが握られている。

「バカだなー水谷。それ今日中に提出なんだろ?」
「まぁね……」

お弁当を広げながら憐れみの目を向ける花井。その横で阿部もお弁当を広げる。

「とにかくサッサと食ってやるしかねーだろ。練習サボるわけにはいかねーんだから」
「じゃあ阿部手伝ってよー」
「ヤダ」
「言うと思った。もういいや、とりあえず食べよー。いただきます!」

一旦そのプリントを脇に除け、水谷も箸を取る。その途端、今までどこにいたのか名前がぬっと顔を出した。心なしか落ち込んでいるように見える。

「名前、メシ食わねーのか?」
「……お弁当忘れた…」
「マジで」

表情がいつもより暗かったのはどうやらお弁当のせいだったようだ。名前は深く溜め息をつくと、椅子に腰を下ろした。

「せっかく朝から作ったのに…」
「購買で何か買ってくれば?」
「今行ってきた…なーんにも残ってなかった…」
「あー…そうか…この時間ならそうだよな…」

阿部は苦笑いで名前を見つめた。
高校生とはいわば育ち盛りであり、食欲旺盛な時期だ。お弁当だけでは足りない生徒が大勢いる。部活生に至っては休み時間の度に何かを食べることも、珍しくはない。その状況下で昼休みまで購買に食料が残っている訳もなく……。名前は見事に負けてしまったのだ。

「隆也…どうしよ…」

何も食べる物が無い…と、哀愁を帯びた声音で呟く。すると阿部が何やらゴソゴソし始めた。一体何をしているのかと思えば、ポンとうつ伏せになっていた名前の頭上に何かが置かれた。

「…?」
「これ食え」

頭上に置かれたものは、メロンパンだった。

「…これ…どうしたの」
「休み時間に買っといた。弁当だけじゃ足りねーもん」
「え、じゃあ…」
「いいんだよ。お前にやる」
「ありがとう…」

彼の優しさに、名前は顔を綻ばせた。ここは有り難く好意に甘える。

「名字、俺も何かあげようか?」

水谷も何やらゴソゴソし始める。そして蜂蜜とマーガリンを挟んだ菓子パンを手渡した。

「あ、ごめんね…ありがとう」
「気にすんなってー」
「水谷…お前よくんなあまったりぃモン食えるな…」
「えー美味しいじゃんか!」

阿部が怪訝そうに眉をしかめるのとは裏腹に、水谷は幸せそうな顔をした。



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