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とある日の朝の教室で、花井と水谷、篠岡は不思議な光景を見た。



朝練が終わって教室へと戻った花井達は、隣の席なのにあからさまに席を離している、阿部と名前を目撃してしまった。お互いに背を向け、一言も口をきかない様子からして、喧嘩しているのだと想像がつく。


「名字達…もしかして喧嘩してんの?」

水谷が花井に小声で尋ねる。

「もしかしなくてもそうだろ。しっかし珍しいよな、2人が喧嘩なんて…篠岡何か聞いてる?」
「ううん、特に何も」
「阿部の浮気かもよ」
「んなわけねーだろ。お前じゃあるまいし」
「んだよー!」

水谷の意見に呆れる花井。そうこうしているうちに、一時間目の始まりを告げるチャイムが教室に響いた。


そして。

「あー!終わった、眠かったー!なぁ、名字?……って、うえっ!?名字は?」

一時間目の休み時間、喧嘩の理由を聞こうと振り返った水谷は、誰も座っていないその席を見て、すっとんきょうな声をあげてしまった。


「名字なら授業終わった途端に9組行くっつって、走って行ったぞ」
「えっ、マジで?」

花井の言葉に驚きを隠せない水谷は、ついに我慢できずに阿部に詰め寄った。その後ろには花井もちゃんとついてきている。


「なぁ、阿部」
「なんだよ」
「お前らどうしたんだ?」
「何が」
「何がって…お前と名字のことだよ!喧嘩したんだろ?」
「あぁ…まぁな」
「阿部、今のうちに謝っとくべきだぞ」
「何で俺が何かしたみたいになってんだよ!」
「えっ、違うの?」


てっきり阿部が何かしたのだと思っていた水谷は、心底驚いた。ちなみに、後ろにいる花井もそう思っていたようで、2人して目を見開いている様子は、ただでさえ機嫌の悪い阿部を、一層悪い方向へ持っていくだけであった。

「じゃあ、喧嘩の原因は何なんだ?」

一歩前に出る花井。それによって視線を高くしなければならなくなった阿部は、頭を上げて、喧嘩までの経緯を話し始めた。




一方、9組に来ている名前は、泉の席に体育座りをしていた。その周りにはちゃんと野球部が集まっている。

「おい名字、そこ俺の席」
「…知ってる」
「あと体育座りやめろよ。見えんぞ」
「えっ、何が……あ、」

見えるというのは勿論スカートの中のことだ。名前は慌てて足を下ろして、スカートを整えた。


「…で?名字は何でここにいるんだ?阿部と喧嘩でもしたか?」
「…何でわかったの」
「なんとなく」
「えーなになに?名前喧嘩したの?何で何で?」

途中で田島が乱入する。名前は仕方ないか、とこれまでの経緯を話すことにした。




事の発端は昨日の名前の一言からだった。

阿部の部屋で、野球の雑誌を読んでいた名前はふと、榛名について書かれている記事に目が止まった。目を通すと、そこには「期待の星」だの「大物選手」などと、ひたすら褒めちぎっている内容ばかりが記されていた。

「すごいね…榛名さん」
「は?」

横に座っていた阿部が、眉間に皺を寄せて雑誌を覗きこんだ。そしてザッと目を通し、さらに皺を深くする。

「…またそんな顔する」
「俺がこいつ嫌いなの知ってるだろ」
「知ってるけど、榛名さんがすごい投手なのは確かでしょ?」
「さぁな」

プイッと顔を背けた阿部に、名前はさらに詰め寄った。

「隆也、いい加減に…」
「嫌だね。ぜってーやだ」
「榛名さん、隆也のこと気に入ってると思うよ」
「…気に入ってんのはお前だろ」
「私だけじゃないって」
「はっ、んなわけねーだろ。榛名はマジで最低な奴だよ。ま、可愛がられてたお前にはわかんねーだろうけど」
「…何よそれ、どういう意味」
「そのまんまの意味だよ」
「意味わかんない!隆也こそ、あの試合で榛名さんが投げなかったのは隆也の言い方が悪かったからじゃないの?さも自分は榛名さんのことわかってます、みたいに言うけど、自分の勝手な思い込みで榛名さんを悪者にしてるんじゃないの!?」
「んだと…!」


その言葉の勢いで、阿部は立ち上がって名前に手をあげようとした。しかし、思い止まって、阿部は重々しい雰囲気で自分の部屋をあとにした。

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