b | ナノ
chain(1/5)
のしんが、おかしい。
バンドの練習中も上の空。
話しかけても、気のない返事しか返ってこなくて。
「のしんー?ねぇ、のしん。ギターの調子どう?」
「……ああ。」
――ほらね。
全然話が噛み合ってない。
ずっと友達やってきた俺だから、すぐ分かる。
のしんが恋患いしてることくらい。
ねぇ、のしん。
のしんは誰のことを想ってるの?
誰のことでそんなにも悩んでるの――…?
「……ねぇ、のしん。帰りにウイニングバーガー寄ってこうか?奢るし。」
「マジか…?行くいく!!」
――のしんは、単純。
単純だから、扱いやすい。
だから、ここまで長く付き合ってこれたんだと思う。
少しでも、のしんの気が晴れれば本望。
だって俺達は友達、だから――…。
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商店街へ差し掛かったところで、俺の隣を歩いていたのしんが急に消える。
辺りを見渡すと、のしんは後方で立ち止まっていて。
「のし――…」
躊躇った。
のしんを呼ぶのを躊躇った。
だって、のしんの視線の先には、男。
身長は180cm弱といったところだろうか。
髪はアッシュグレーでオールバック、その上いやに整った顔立ち。
ウェイターのような格好で、それがその男のすらりとしたスタイルを強調させる。
一目で分かった。
のしんは、その男に恋してるって――…。
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