5 | ナノ
準ミハ祭り
05.違う形で出会っていたら?

メールってなんて便利なんだろう。
念願の携帯電話を買ってもらって真っ先に思ったことだった。
メールアドレスを入力して本文に用件を書いて送信ボタンを押すだけで、相手にすぐに届くらしい。
電話だと忙しい時にかけてしまったら申し訳ないし、いくら顔を見なくたって声だけでも会話していると思ったら緊張で言葉もなくなってしまうだろう。
それに比べてメールは便利だ。
勝手に送っておけば相手が好きな時に読むし、言葉を選ぶ時間も十分にある。
下手なことを言ってしまう心配もない。
ルリに頭を下げることになったのは不本意だけど、メールのやり方なんて全然知らないからしょうがない。
オレがメールのやり方を教えて欲しいと頼んだら、ルリは偉そうに説明書を横に放り出してオレから携帯をひったくってポチポチと操作を始めた。

「はい、これで私とメールできるよ。返信するときはここ」

「や、り方、だけで、いいって、ゆったのに……」

「実際にやってみた方が覚えるでしょ?早く送ってみなさいよ」

やり方が分からないことにはメールひとつ送れない。
仕方なくルリの言う通りに操作してルリにメールを送った。
準さんと約束していた、一番に連絡するのは叶わなかった。
その次は絶対に、とパーカーのポケットの中のコースターをそっと上から撫でる。
それでも結局、次に送ったのは母親にだった。
『携帯ありがとう』と短く打って送ってみる。
すぐに『どういたしまして。使えてるみたいで何より!』と返ってきて安心する。
大丈夫、ちゃんと使えてる。
やっと本番だ、とコースターを出して文字を見る。
キレイに一本線で波打った筆記体で書かれた文字は慣れてなくて解読に少し手間取った。
これは大文字のIなのか、それともTなのか、uなのかvなのか、nなのかmなのか。
一生懸命読み込んで、なんとかアドレス欄に登録する。
あまり意味のない文字列だったようで、特に単語になっている文字がない。
だから正しいかどうかも分からない。
もしかしたら間違えているかもしれない。
それでも、もしかしたらこのアドレスの先に準さんがいるのかもしれない。
何を書こうか、と散々迷って『三橋です』と件名に打った。
それからお礼を本文に書いて、震える手で送信ボタンを押す。
手紙が飛んでいく画像が現れて、三回同じ動きを繰り返した。
その動きがぴたりと止まる。

『送信先のアドレスが間違っています。もう一度確認してください。』

現れたメッセージに、パチパチと瞬きをする。
慌ててアドレスを見直して一文字ずつ確認してみる。
ここがmだったのかもしれない。
打ち直してもう一度送信をする。
画面には同じ内容が再び現れた。
何度も見直して間違えているかもしれない文字を変えてみる。
それでも画面には同じエラーメッセージが繰り返される。
変な焦りが込み上げてきて、息が苦しくなってくる。
どうして?どうして届かないの?
目の表面が潤ってくる。
画面が歪んで、ぽたりと雫が落ちた。
何を期待していたんだろう。
自分がファンだと主張するような真似をしておきながら、それでも無防備に連絡先を教えてくれるはずなんかないって冷静に考えれば分かっていたことなのに。
あんなに必死に雑誌を買うようなやつ、信用できるはずがない。
オレだったらきっと怖くて声もかけない。
気持ち悪いだけだ。
電話番号が残っているけど、それだって同じ結果になるのは分かり切っていた。

『おかけになった番号は現在使われておりません。』

そう冷たい女性の声がするのだと思ったら、ボタンを押す気力さえ消え失せてしまった。


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