「おい」
 青年の声に、美紗はゆっくりと瞳を開いた。
「ここは……?」
「お望み通りの場所だ。
 どうやら、奴の夢の中に入るのに成功したようだ」
 青年の言葉に、美紗は瞠目したまま辺りをぐるりと見回した。
 先ほどの場所とは対照的な、鮮やかな昼下がりの空間。
 夢とは言え、普段目にしている光景と何ら変わりはなさそうである。
「これが、彼の夢の中の世界……?」
「そうだ」
「意外と普通なのね」
「そりゃあ、見る人間にもよるだろうさ。
 奴のように、こういった日常を夢に見る者もいれば、奇想天外な夢を見る者もいる。
 夢っていうのは、見ている人間のその時の心理状態が、そのまんま反映されてしまうものだしな」
「人間の、心理状態……」
 美紗は青年の言った言葉を、口に載せて繰り返す。
 そして、自分がもし、夢を見ているとしたら、一体どんな夢を見ているのだろうかと、ひっそりと考えていた。
「とにかく、ここにいられる時間は限られている」
 美紗の想いを知ってか知らずか、青年が彼女を促す。
「まずは奴を探し出し、それから、後悔の残らないようにじっくりと話せ。
 俺は離れた場所で見ている」
「う、うん……」
 美紗が頷くと、それを合図とばかりに二人は辺りを歩き出した。


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