其処はひとたび水を掬い、飲めば何でも願いの叶う聖なる泉。

何処かの世界の、

何処かの森の奥深く…

しかしその貴重な水は簡単には掬えない。

一癖も二癖もある精霊が水を守ってるという。

水がもらえるのは精霊が気に入ったほんの一握りの者達だけ。

嘘か誠か。

虚か実か。

此の伝承は静かに厳かに語り継がれ、時も刻々と流れゆく。

泉を守る精霊とは言葉による意思の疎通が必要不可欠、いつしか名もなきその泉の事を人々は『コトノハの泉』と呼ぶようになった。

精霊は対話を通し人の何を選定しているのか。

それを知る者は未だ、誰もいない…









「――いらっしゃい、あなたで丁度……?」


いつもならば、そう、いつもの彼ならば。

「ようこそ」と紡ぐ声の調子は極めて軽い、…筈だったのに。

今日は含みのある微笑みを浮かべられず、むしろ引きつった表情で深緑に囲まれた小さな泉の中央で宙に浮かんでいた。

その者の名は、泉を守る精霊フォルテュナ。

あたかも泉の色を映すかのような淡い碧色の髪と瞳、下向きに伸びた長い耳、額には雫の形をした青の宝石を飾り。

すらりとした痩身を薄い法衣で包み、手に持つ白羽扇で引きつった口元を隠し…

その顔つきは、人間でいうならばまだ大人にはなりきれぬ少年のように見える。


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