〜風の水〜



ぽたり、ぽたり。
水は滴る。

強く強く力を込め囲めども、酷く緩やかに滲みながら、地へと還りゆく。

形あって、形ないもの。



「ねえ、掬うそばからすり抜けていくなら掬う意味って無いと思うのに、時々そんな行為が愛おしくなるのはなんでなのかな」

「はぁ?」

「すぐそばにある物には手が届かないのに、持つことのできないものを全身で感じられるのは、なんでかな」



ぽたり、ぽたり。
水は滴る。

時とともに掌に沈むそれは、針。
乾いた皮膚に潤いを残して、涼やかな風の訪れを告げる。

虚ろで、身を成すもの。



「確かなものは、ないと思うんだ。昨日も一昨日も明日も明後日も。過去は追憶、未来は憶測。形のない、心に基づくもの。それにこの瞬間も、ひとたび口にすれば追憶に変わってしまう。とすれば求めるままに謳歌するのが得策だろうに、正反対の刹那を重ねて憶測に笑みながら、行き着く場所すら見えない過程を日々積み続けてしまうのは、どうしてなんだろう」

「……」

「とりあえず、今日がいい天気でお昼も美味しかったから、さして問題ではないのかな?」


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