無題


* * *





「何にも無ぇ…」



僕のアパートにやってきた卓くんが、茫然と一言、呟いた。



「政則せんせ、これどうやって生活してんの?洗濯機もねぇし…」



嘘だろ、マジでなの?という彼に



「だから来ても面白くないって言ったのに」



と言ったら叩かれた。



「汚ねぇのかなと思ってたわ」



ペタンと座った卓くんに慌てて座布団を出そうとして…座布団がないことに気付いた。



「…いいよ」



はぁと卓くんの溜息が聞こえてきて僕は泣きそうだった。



物欲のない僕は寝れたらいいと思っていたけれど、恋人をおもてなしすらできない事に今更気付いてしまって…



そんな僕の心情に賢く美しい卓くんは気付いたのだろう。



こんなダメ人間ダメ教師な僕に優しい言葉を掛けてくれる。



「今から俺と一緒に買い物行くか?最低限の人間の暮らし、しようぜ」





……あぁ、彼が僕を人間らしくしてくれる



それに心の底から嬉しいと感じた。





僕は



世界一の幸せ者だ。





「おっせえよ!とっとと来いっ!」











...end





※西村智様の作品「幸せを届けてやる。」にレビューを書かせていただいた所、お礼のSSが送られて来てびっくりでした!
どうもありがとうございました〜!

2012/12/16

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