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「…人の子の抗いは、尊いわ。……見ていて、ひどく心地いい」
白い息が自分の傍にも舞う。
それを振り切るかのように、リューナートも空へ己自身を投げる。
「………貴方は」
「私はいつだって傍観者だわ。人の波を見ているだけの」
コトリ、と小首を傾げるような愛らしい仕草。
どこか人形めいた癖が未だに抜けないらしい。
「人の波は、まるで戦場のようね。…無数に行き交う人波の中、あらゆるものを投げつけ合って、時に傷つけて、慈しみ合って。無差別にも等しく降り注ぐ星つぶての中を、人はただ、無防備に歩くだけ」
「だが――――、クレイを」
「そうね。…本当を言えば、誤算だったのかもしれない。…選んでしまったのだもの」
煌く星のカケラを、と。
小さく己を恥じるように笑う少女の頬に、仄かに明かりが灯った。
それを隠すように、けれど、と、静かな言葉を落とす。
「…私は何ひとつ悔んでなどいないのよ。……ごめんなさいね」
この間、偶然通りかかった旅人さんにもそう問われたわ、と少女が笑みを浮かべる。
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