三年付き合っていた慎也(しんや)にプロポーズされたのは、今から一年ほど前だった。
 その日は朝から雪が降り続き、夜には辺り一面を白銀色に染め上げていた。
 夜空からしんしんと降りしきる雪。
 私はその中で、慎也から婚約指輪を贈られ、その場で嵌めてもらった。
 小さなダイヤモンドが埋め込まれた指輪は、闇の中でキラリと光を放っていた。
 私は本当に嬉しかった。
 あまりにも幸せ過ぎて、思わず涙が零れ落ちたのを、今でもはっきりと憶えている。

 それからは、私と慎也は慌ただしい日々を送っていた。
 互いに仕事をする傍ら、時間を見付けて式場巡りをしたり、招待客のリストを作ったり、式に着る衣装を探したり……。
 最初はとても楽しかった。
 単純だと思われるかも知れないけど、〈お嫁さん〉になる事は子供の頃からの夢だったし、華やかなウェディングドレスにも憧れを抱き続けていたから。
 ところが、そんな幸せな気持ちは長続きしなかった。
 日に日に、結婚する事に対して不安を感じ始めてきたのだ。
 よく、〈マリッジブルー〉という言葉を耳にしたが、どうやら私もそれに罹ってしまったらしかった。
 慎也は変わらず優しくしてくれる。
 それなのに、胸は張り裂けんばかりに苦しくて、独りになると泣き崩れていた。
 書類上だけとは言え、両親が両親でなくなるという淋しさ、慎也サイドの親御さんや親戚と上手くやっていけるかどうかという不安、そして何より、慎也が心変わりしてしまったらどうなるだろうという想いが、私の中で絶え間なく回り続けた。
 そのうち、我慢の限界を超えてしまった。
 私はとうとう、慎也の前で『結婚したくない!』と泣き喚いてしまった。
 その時の彼の表情は忘れられない。
 我が儘を言った私を責めはしなかったものの、その代わり、これ以上にないほど哀しげな表情を浮かべていた。


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