約束の土曜日になった。
 私は電車に乗り込み、貴之の住む地域の最寄り駅まで向かった。
 貴之のアパートに一泊する予定だから、着替えなどが入った大きめのバッグに、外出する時に愛用しているショルダーバッグ、両方を携えている。
 出来る限り、荷物は最小限に留めたいと思っていたのに、気が付くと、着替えだけでも結構な量になっていた。
 ――何やってんだか、私は……
 我ながら呆れるほどの量に、思わず溜め息が漏れる。
 だが、これもまた、女の性、というものだろうか。

『次はー、T町ー、T町ー』
 電車に揺られる事一時間強、間延びした車掌さんのアナウンスが流れた。
 告げられた駅名は、私の目的地である。
 私は座席から立ち上がると、足下に置いていたバッグを持ち上げ、乗車口へ向かった。
 電車は駅に近付くにつれ、スピードを少しずつ落としてゆく。
 同時に、私の胸の鼓動が高鳴る。
 あとちょっとで、貴之と逢える。
 喜びと緊張、半々の気持ちを抱えながら、私は何度も深呼吸を繰り返した。
 電車は駅の構内に入ると、カタンカタンとリズムを刻みながらゆっくりと動き、やがて停まった。
 ちょっとばかり間をおいた後、ドアは音を立てて開いた。
 私は駆け出したい衝動を抑え、それでも足早に待ち合わせ場所へと足を動かす。
 階段を降り、改札へと向かうまでの時間がとてももどかしい。
 だが、それ以前に、貴之が時間通りに待ち合わせ場所にいるかどうかが問題だ。
 この間の電話では、早起きする自信がないと言っていたのだから。
 ――いなかったら、電話か……
 私はそう思いながら、改札へと到着した。
 向こう側には、貴之らしき姿は見当たらない。
 ――やっぱり、寝坊……?
 私は溜め息を吐きながら、自動改札に切符を入れた。
 目にも止まらぬ速さで切符は機械に飲み込まれ、入れ替わりにゲートが開かれる。
 そこを通り過ぎてから、再び辺りを見渡してみるが、やはり見付からない。
「しょうがないなあ……」
 私は通行の邪魔にならないよう、壁側に寄り添い、ショルダーバッグから携帯電話を取り出した。


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