ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「ギディオン、はっきり言ってやった方が良い。
そうでなきゃ、この娘もこの世に未練が残るだろう。」

「こ、この世に未練ですって?!」

少女は思いがけないその言葉に大きく目を見開き、息を飲んだ。



「そうだ、ここは俺達、魔物の聖地。
ここのことを知った者は、可哀想だが生きて返すわけにはいかない。」

「ま、魔物ですって?
どこに魔物がいるっていうの?」

少女は、きょろきょろとあたりを見渡した。
男は、その様子に口端を上げ、不敵な笑みを浮かべる。



「ここにいるじゃないか…」

「え……?」

少女のみつめる目の前で、青年はみるみるうちに魔物の姿に変わっていく。
その光景に娘は思わず後ずさりし、言葉にならない声を上げた。



「驚いたか?ここにいるのは、皆、魔物だ。」

青年の言葉と同時に、その場にいた者達の姿は魔物に変わった。



「ま、まさか……そ、そんな……」

少女は、目の前の信じられない光景に、血の気の失われた顔で呆然と立ち尽くす。



「わかったか?ここは俺達魔物の聖地なんだ。
ここには、魔物以外、足を踏み入れることは許されない。
それを購えるのは死のみだ!」

青年の語気を荒げた口調に、娘の青い瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。



「……心配するな。ほんの一瞬の出来事だ。
苦しいことも痛い事もない。」

ギディオンは少女の心情を察し、肩に手を置き、優しい声で囁いた。
しかし、そんなことで、死を宣告された少女の心が癒される筈もなかった。



「そ…そんな…そんな……
私、あなた達のこともこの森のことも絶対に誰にも言いません。
だから、だからどうか許してください!
ここから出して下さい。」

娘はぼろぼろと涙をこぼしながら、ギディオンの足元に跪いて頭を下げた。



「……諦めろ…」

その短い一言で、利発な少女はどれほど命乞いをしても許されないのだということを悟った。
しかし、頭では理解出来ても、感情ではそう簡単に納得出来る筈もなく、少女はその場に俯いたまま、ただ涙を流し続けた。



「さぁ…立つのだ。」

ギディオンに抱えられるようにして立たされた少女の足は、自分では立っていられない程、がくがくと震えていた。
まだ年端もいかぬ少女…
何の悪意もなくただ森に迷いこんだだけで、命を奪われる。
それがどれほど悔しく悲しく恐ろしいことかを考えるとギディオンの胸は痛んだが、だからといって許すわけにもいかない。
これが自分の仕事なのだと言い聞かせ、あえて少女の方には目を向けず、ギディオンは、少女を抱えるようにして歩き始めた。




「あの……最期に、両親と兄に手紙を書かせてもらえませんか?」

少女の消え入りそうな声に、ギディオンは黙って首を振る。
少女は眉間に皺を寄せて唇を噛み締めた。


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